巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
「今度は川端ですよ!」
お早うの挨拶も無しにロコが叫ぶ。
「え、川端?」
お早うの「お」を呑み込んで、頭の中に寿川の川べりが浮かんだ。寿川はわたしにとっては時空の川で、毎日寿川を渡って昭和の宮高(宮之森高校)に通っている。先月は、川沿いでユリアに追われてるナースチャを助けて大立ち回りをやったとこだし。川端という単語はセンシティブでデンジャラスだ。
「夕べ、川端康成が自殺したんですよ!」
「え、ああ……」
人の苗字と分かって、センシティブとデンジャラスは削除されたけど生返事になる。川端ヤスナリ……言われてもピンとこない、誰だっけ?
「そうですよねぇ……ショックが大きいと、すぐには感情が付いてきませんからねぇ」
「あ、えと……」
「いやぁ、川端康成は三島由紀夫とも親交がありましたからねえ、やっぱり三島の死を引きずっていたのかもしれませんねえ……あ、テレビでやってますよ!」
ちょうど電気屋さんの前に来たところで、通勤通学途中の人がショーウィンドウのカラーテレビに食いついている。
テレビは急きょ番組を変更して、川端康成のニュースを流している。
ロコが言った通り、三島との関係と影響についてコメンテーターやら解説委員が固い表情で語っている。
『川端さんはノーベル文学賞をとられた方でしょ、三島もノーベル賞には何度も候補に挙がっていましたし』『そうです「金閣寺」はその域に達していましたからねえ』『いやあ、この二人の文豪の喪失は大きいです』『あ、現場の逗子のマンション前と繋がりました』『こちら、現場の……』
現場は逗子のマンション、ここからは少し距離はあるけど近所。
「うう、見ていたいですけど」
「行こうか、学校遅れちゃうね」
「はい、休み時間に演劇部のテレビ見せてもらいましょう」
「うん、ええと、川端康成の作品て……ナントカの踊り子だっけ?」
乏しい知識を絞り出して『踊り子』が付いていたのを思い出す。
「はい『伊豆の踊子』ですね。でも、極めつけは『雪国』でしょ。何と言ってもノーベル賞ですからね」
「雪国……」
「書き出しがいいんです。国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった……」
いい表現……思った瞬間、わたしはトンネルの中。
遠くで「グッチ……」とロコの声がして、それが瞬間で消滅すると、出口の先、白い夜の底が見えるばかリ。
テレポート?
わたしの力は芽生えたばかり、ロコの熱気と電気屋さんの前でテレビに見入っていた人たちの圧、そして、やっと名前が思い出せる程度の、でも『国境の長いトンネル』『夜の底が白くなった』の銘文に触発されて能力が発動、とんでもないところにワープしてしまった……?
☆彡 主な登場人物
- 時司 巡(ときつかさ めぐり) 高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
- 時司 応(こたえ) 巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
- 滝川 志忠屋のマスター
- ペコさん 志忠屋のバイト
- 猫又たち アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
- 宮田 博子(ロコ) 2年3組 クラスメート
- 辻本 たみ子 2年3組 副委員長
- 高峰 秀夫 2年3組 委員長
- 吉本 佳奈子 2年3組 保健委員 バレー部
- 横田 真知子 2年3組 リベラル系女子
- 加藤 高明(10円男) 留年してる同級生
- ナースチャ アナスタシア(ニコライ二世の第四皇女)
- ユリア ナースチャを狙う魔法少女
- 安倍晴天 陰陽師、安倍晴明の50代目
- 藤田 勲 2年学年主任
- 先生たち 花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀 音楽:峰岸 世界史:吉村先生 教頭先生 倉田(生徒会顧問) 藤野先生(大浜高校)
- 須之内直美 証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
- 御神楽采女 結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
- 早乙女のお婆ちゃん 三軒隣りのお婆ちゃん
- 時司 徒 (いたる) お祖母ちゃんの妹
- 妖・魔物 アキラ 戦艦石見(アリヨール) 藍(アオ、高松塚の采女)
- その他の生徒たち 滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長) 関根(MITAKA二代目リーダー)
- 灯台守の夫婦 平賀勲 平賀恵 二人とも直美の友人







