大橋むつおのブログ

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高校ライトノベル・かの世界の片隅へ:97『伍長一人』

2019-01-14 14:03:57 | 小説5

高校ライトノベル:かの世界の片隅へ:97

『伍長一人』

 

 

 その場は笑って済ませた。

 

 なんと言っても船出だ、不吉なことや不審なことは口すべきではない。

 それに、わたし以外のメンバーもヤコブ伍長に気を許している。ロキとケイトには良い遊び相手、姫も三人が遊んでいるのを冷やかしたりチョッカイを出したりしている。お気に召している証拠だ。テルは渋い顔をしていたが、わたしの目配せで感じてくれたのだろう、いまは四人が遊んでいるのを黙って見てくれている。

 伍長というのは下士官の最下級で実務に長けた者が多い。常に兵たちと日常を共にする兄貴分という感じだ。

 今も、自分で作った知恵の輪やルービックキューブで盛り上げている。船旅の最初に克服しなければならないのは船酔いだ。

 船酔いは船と海の揺れに三半規管が追い付かないことから起こる。防ぐには、その揺れを超えるものに意識を集中させることが肝要だ。戦闘配置になると酔いが収まるのは知られたことだ。

 まさか、船酔い対策に戦争をすることもできない。知恵の輪やルービックキューブに集中させるのは効果的だと思う。それも船酔いが発症する前に集中させなければ効果が無い。巧みに惹きつけているヤコブは部隊においても良き下士官なのだろう。

 そうなのだ、わたしが笑って済ませたのは、軍人としての信頼感こそが基礎になっているのだ。

「今のうちに船内を把握しておこう」

 テルに声をかけて上甲板に下りた。ちなみに普通に言う露天の甲板は最上甲板と呼ばれ最上甲板のすぐ下のところを上甲板と言う。上甲板に下りたところには船内の見取り図が合って、船内の配置と乗船者の部屋割りが分かる。

 テルも同じ思いだと見えて、船内配置図の前で立ち止まった。

「……これではよく分からんなあ」

「キャビンなら左舷の中甲板だが……ひょっとして、ヤコブの部隊か?」

「ああ、世話になっているからな、部隊長に挨拶はしておかなければならんだろう」

「……見あたらんなあ、歩兵部隊がほとんどで……衛生部隊が一個分隊……機甲科も乗っていないぞ」

 

 整備部隊の下士官が単独で行動することなどあり得ない話なのだ……任務によっては機甲科の移動に伴って随伴させられることもあるが、その場合でも四五人の編成にはなるはずで、伍長一人がポツンと乗っていることなどあり得ない。

 

 

 

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