大橋むつおのブログ

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高校ライトノベル・音に聞く高師浜のあだ波は・23『晩御飯はかす汁』

2018-02-26 06:22:45 | 小説6

高校ライトノベル
 音に聞く高師浜のあだ波は・23
『晩御飯はかす汁』
         高師浜駅


 きょうは一月十七日なんや。

 半分目覚めた頭で、そう思た。時計は見んでも分かってる、早朝の四時半や。

 以前は気になって問いただしたこともあった「なんで、毎年出かけんのん?」とか「あたしも行ったらあかんのん?」とか。
 そのつどお祖母ちゃんは「お祖母ちゃんの年中行事やからなあ」としか言わへん。
 静かな言い方やけど――これについては言われへん――そんなオーラがあって、いつの間にか聞かへんようになってしもた。

 せやけど納得してるわけやない。

 お祖母ちゃんは、小学一年のあたしを引き取って育ててくれた。お母さんのお母さんやから。
「聞きたいこといっぱいあるやろけど、大きなるまで待ちなさいね」
 最初に乗せられた車の中で、お祖母ちゃんは言うた。
「大きなるまでて、何歳まで?」
「うーーーん、美保がお嫁に行くときに教えたる」
 これは教える気ないなあと思た。そやかて、あたしは器量が悪い。小一あたしは一生独身やと思てたから。

 六年生までは、お祖母ちゃんが一月十七日の早朝に出かけてるのん知らんかった。
 あたしが起きる時間までには帰ってたから。

 六年生の時に阪神淡路大震災のことを習った。

「あの震災がなかったら、ぼくは学校の先生にはなってなかったやろなあ」
 担任の黒田先生が、そう言うた。
 黒田先生は、六年生の時に震災に遭うた。当時神戸に住んではったんや。
 あの震災で、黒田先生の担任の先生が亡くならはった。それで黒田少年は先生になる決心をしたんや。
 震災のことは、毎年朝礼やら集会で校長先生なんかが訓示みたいに話しするんで知識としては知ってた。
 せやけど心の痛みとして教えてくれたのは黒田先生だけやった。
「その先生は、どんな先生やったんですか?」
 掃除当番の時に聞いてみた。
「掃除終わったら職員室おいで」
 先生は卒業アルバムを見せてくれはった。
 集合写真と班別の写真に、その先生は写ってた。

 妻夫木綾

 めっちゃ若うて可愛い先生やった。
 あたしは思た……黒田先生は妻夫木綾先生を好きやったんや。
 たぶんクラスの男の子のほとんどが好きやったんとちゃうやろか。

 美人薄命……あたしは多分長生きやろなあ。

 アルバム見せただけで、先生はなんにも言わへんかった。
 ちょっと熱のこもった、ちょっと恥ずかしそう。
「ありがとうございました」
 そう言うてアルバムを返した時、先生は小さく頷いた。
 あたしは大きく頷いた。先生は可愛く狼狽えてた。
 その後先生は結婚して女の子が生まれた。
 年賀状に書かれてた赤ちゃんの名前は『綾子』やった。
 あたしは年賀状持ったまま二回前転のでんぐり返しをやった。
「ハハ、なんや林芙美子みたいやなあ」
 自分こそ林芙美子みたいに座卓で原稿書きながら、お祖母ちゃんが言うた。

 このクソ寒いのに、全校集会。

 校長先生が長々と震災の話をする。
 命の大切さと、国家的危機における日本人の秩序正しさとかの内容を気持ちよさそうに話す。
 途中気分の悪なった女子が保健室に連れられて行った。校長先生は、かすかに嫌な顔をした。

 家に帰ると、晩御飯はかす汁。

 かす汁は、あたしも好物で、お祖母ちゃんの冬のメニューの定番。
「お祖母ちゃん、一月十七日は、いっつもかす汁やなあ」
「え、そうか?」
「うん」
「せやかて、美保、好きやろ?」
「うん、大好物」
「そら良かった」
「ひょっとして、震災の日ぃもかす汁やったん?」

 お祖母ちゃん、眼鏡を外してセーターの袖口でこすった。
「湯気で眼鏡が曇ってしもた、目ェにも入ってしもた」

 うそ、眼鏡は曇ってなんかなかったよ、お祖母ちゃん……。
 

ジャンル:
小説
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