大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・VARIATIONS*さくら*89『長徳寺の終戦・2』

2017-05-12 06:29:24 | 小説4
VARIATIONS*さくら*89(さくら編)
『長徳寺の終戦・2』



 なるほど、後ろ姿はそっくりだ。

 初日、衣装を着けメイクが終わってカメラテストで前後左右からカメラに撮られ、モニターで、その姿を見ていると、ディレクターが呟いた。自分でも、そう思った。横顔のロングも違和感がない。豪徳寺で三越紀香さんに会ったときは、似てるのは背の高さぐらいかと思ったけど、四か所ほど、同じ姿勢、動きでやってみると、我ながら似ている。
「さくら君、事前にかなり読み込んでくれたね」
 ディレクターは誉めてくれたけど、あたしは、一回しか読んでいない。期末テストの勉強だってあるし、戦時中の設定なので、分からない言葉が二三ページに一つは出てくる。
 たとえば訓導という役職の先生。生活指導みたいなもんかと思ったが、どうやら、それより強い力を持っているようだ。お寺に疎開してくる学童の世話を懸命にやっている先生で、人柄は良さそうだった。で、その人柄に対しての演技でぶつかってみようと思った。
 配属将校。これも分からない。
 学校に、軍人。それも将校がいるのは、まるで惣一兄ちゃんがうちの学校にいるようなもんで、想像したら吹き出してしまった。

 とにかく、ざっと読んだだけなんだけど、明るくて頭の回転がよくて、でも大きなところで抜けているのが、あたしの役のかづゑという役だと理解した。
 そうそう、一等最初は、この名前が分からなかった。
「え、かづ……最後の字はなんて読むんだ?」
 この「る」だか「ん」だか、よく分からない字一つで一時間。あたしは、そういうところで引っかかると次に進めない性質なので、苦労した。あいにくお母さんもいなくて、お姉ちゃんにスマホで「かづゑ」を写メって送ったけど、忙しいのか返事がかえってこない。仕方がないので裏のアパートのチュウクンに聞いてみる。あっさり「かづえ」と読みがいっしょだと分かったけど、ちょっと驚いた。アパートに妹の篤子さんとは違うきれいな女の人がいたのだ。質問に来た身であるので、あからさまに聞くことははばかられ、ちょっと演技した。
「あの、もう一個聞きたいんだけど」
 そうやって、チュウクンを廊下に呼び出した。
「なんだ?」
「ちょっと、だれなのよさ、あのきれいな人?」
「ないしょ!」
 そう言われると気になるもんで、アパートの住人のハニーさんに聞いてみる。
「フフ、それがね。さくらって言うらしいわよ」
 と、ニューハーフの聞き耳頭巾は教えてくれた。
「あたしと、同じ名前?」
「うん、なんかわけあり。偶然なのか、倒錯したさくらちゃんへの愛情からなのか、興味津々なのよね!」
 と、ここでも三十分ほどのロス。

 ま、こんな感じでトロトロ読んでいるもんだから、昨日の本番までに一回しか読めなかった。

 最初は家族九人の集合写真。他の役者さんも来るのかと思ったら。撮影は、あたし一人。あとはデジタルのはめ込みでやるらしい。
 他の演技も、大方このやり方。
「糸枝ちゃん、あたしがするから。いいよ気にしなくっても」
「お父さん、また休み? この非常時に……あ、戦死した中村さんのお葬式? じゃ、昼からは出勤できるわね。そう言っとくよ」
「あ、すみません。急いでたもんで!」
 などなどの台詞を相手役無しでやる。後ろ向き横向きは三越さんのをまんま使って、声だけ吹き替える。どうにもやりにくい。
 でも、一番やりにくいのは、相手役ありの撮りなおしだった。はめ込みでも処理できないことはないんだけど。相手がこだわりのある人で納得しないらしい。

 その相手役は、なんと、この撮り直しのためだけにアメリカから来たのだ!

ジャンル:
小説
コメント   この記事についてブログを書く
この記事をはてなブックマークに追加
« 高校ライトノベル・オメガと... | トップ | 高校ライトノベル・オフステ... »
最近の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

小説4」カテゴリの最新記事