大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・ライトノベルベスト・『学校の神さま・3』

2019-02-04 07:02:37 | ライトノベルベスト

ライトノベルベスト
『学校の神さま・3』
           


 渋谷に着くと犬がいた。

 そう言うと、みんな忠犬ハチ公を思い出すだろうけど、そうじゃない……ってか、本物の忠犬ハチ公が。え、本物はお座りしてるブロンズだろうって? そうじゃなくて、本物。とにかく話聞いてくれる。

「いやあ、ハチ、お久しぶり!」
 て、園子がコキタナイ犬にスリスリするわけ。
「なに、このコキタナイ犬……?」
「だからハチ公よ。メイちゃん、さっき死んだばかりの春奈さん見えたでしょ? あれといっしょ」
「ゲ、ホンモノ!?」
「そうよ。うちの学校が出来て七年間は、この子、まだ生きてたから。そのころからの仲良し」
「へえ……」

 渋谷の駅前って、ゴッタ煮。いろんな電車のターミナルで、山手線以外は、みんな地下の駅。渋谷の名前の通り谷で、地面が低く、どこへいくにも登っていくって感じのシュチエーションが、わたしは好きだ。
 ハチに「バイバイ」すると尻尾を振ってくれた。とりあえず道玄坂の方に行ってみる。ユニクロの前で様子ワルげな五人の女子高生にガン見されてしまった。園子はサンルイビルのあたりを物珍しげに歩いている。
「なんで、外苑がセーフク着て、こんな時間にウロツイテんだよ」
 しゃがんで、ナンバーツーぐらいなのが、インネンつけてきた。どうやら、この界隈じゃ偏差値サイテーの都立Y高だ。
「落ちたもんだね外苑も。昼間っから、学校ボサって、オトコあさりかよ。ここはウチらのシマなんよ。シキタリはケジメてもらわなきゃね」
「あたし、外苑じゃないもん。もう辞めちまったから」
「え……ああ、ケツ割りのテンプラかよ」
「タチわりーな。ちょっと躾てやろうか!」
 ナンバーツーに平手のフェイントかまされ、ボスネエみたいなのにお腹を、まともに膝蹴りされて、エビみたくなったところを、よってたかってボコボコにされかけた。リボンが飛んで、ブラウスが破れる。ボスネエの膝が、再び迫ってきた。ヤバイ、アレ食らったら顔潰される!
 そう思ったら、ボスネエが空中で二回転して背中から落ちた。
「なんだテメーは!?」
「面白そうだから、入れてくださる?」
 園子が涼しい顔して、スカートの裾をはらっていた。
「テメー……!」
 ボスネエが立ち上がり、園子に掴みかかろうとすると、ひらりと身をかわした園子は子分の子たちの間を両手を閃かせながらすり抜けていく。その間二秒ほど。Y高の子たちはひっくり返したアブラムシみたくなっていた。
「く、くそ。こんなことで勝ったと思うなよ!」
「勝ちです、わたくしの。ほうら……」
 園子が空中になにか放り上げると、五枚の大きなチョウチョみたいなのがひらひら空中を舞った。
「あ、ウチらのおパンツ」
「ミセパン穿いてらっしゃるから、大丈夫でしょ。こうやって見るとキレイね」
「か、返せよ。あれはウチらの商売道具なんだからさ!」
「だったら、よく見えるように宣伝になっていいんじゃないかしら」
 Y高の五人組は、商売道具を追いかけてセンター街の方へ行ってしまった。
「もうちょっと遊びたかったなあ……」
「もうちょっと早く助けて欲しかった……」
「あらあら、制服がぼろぼろ」
「いいんだよ。もう辞めたんだし……」
 そこまで言うと涙が溢れてきた。
「はい、こう言うときこそ、ハンカチね」
「ウ、ウウ……ウッ、ウッ……」
「みんなが見てるわ、こっちへ」

 園子は、路地から小さな駐車場に引っ張っていってくれた。

「服をなんとかしましょうよ。メイちゃんも制服そんなだし、わたしのセーラーもここじゃ場違いそうで……」
 そう言って、園子はポップティーンを出した。
「ねえ、どんなのがいいかしら?」
 わたしは、メルヘン系のノースリーブのワンピに目がいった。
「これ……こういうの着てみたいな」
「そう、じゃ、わたしは同じデザインでギンガムチェックのを!」
 そういうと、ポップティーンを空中に止めたまま、ポケットから二着のメルヘンワンピを出した」
「うわー、カワユイ!」
「付属品も一揃え。ブラとかもストラップレスだし。足許はサンダル系の中ヒール。髪は……」
 ポップティーンが空中でペラペラページがめくれた。
「うん、メイちゃんロン毛だから、トリートメントして、サイドをカーリーにして……こんなもんで?」
「う~ん、イケテル、イケテル!」
 園子が、ちょいと手を動かすだけで、髪が変わっていくことを、もう不思議にも思わなかった。
「うん、メイちゃん、髪が多いから……チョコブラウンにしよう。ファンデは白目にしといて、チークはほんのりピンク……どうだ、こんなもんで!」
 ポップティーンのモデルみたくなった。
「ああ、早く着替えたいよ!」
「どうぞ、だれも見てないわ」
「ああ……やっぱ、フィッティングルームかなにか」
 あたしも欲張りになってきた。
「はいはい……」
 さすがに、これはポケットから出てはこない。園子が、その大きさに指を動かすとフィッティングルームが現れた。
「じゃ、お互い着替えましょうか。時間は五分。それ以上たつと、これ消えちゃうから。お恥ずかしいことになりま~す!」
 園子も、楽しげになってきた。
「脱いだ物は、中の袋に入れといてね。わたしのポケットに直結してるから」
「うん!」

 完全にアゲアゲモードになって、あたしはフィッティングルームに入った……。 
 


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