大橋むつおのブログ

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高校ライトノベル・新釈ピュグマリオン・21『二枚の写真』

2018-12-09 06:41:29 | 小説7

新釈ピュグマリオン・21
『二枚の写真』



 ピュグマリオンは、ギリシア神話に登場するキプロス島の王。現実の女性に失望していたピュグマリオンは、あるとき自ら理想の女性を彫刻。そうして彼は自分の彫刻に恋をするようになった。そして彼は食事を共にしたり話しかけたりするようになり、それが人間になることを願う。その像から離れないようになり、次第に衰弱していく姿を見かねたアプロディーテがその想いを容れ、像に命を与え、ピュグマリオンはそれを妻に迎えた。 


「あら、今日は栞ちゃん一人?」

 お隣のセラさんが眠そうな顔で開け放したドアから覗きこんだ。
「ごめんなさい、起こしちゃったわね。今日からお兄ちゃん仕事だから、その間にお掃除してます」
「そういや、散らかってるわね……」
 またぐらを掻きながらセラさんは遠慮なく観察する。それほどセラさんとは親しくなった。
「んー、なんだか箱を開けて適当に並べたとか積んだってレベルだね。オーシ、あたしが手伝おう!」
 セラさんは、てきぱきと荷物を整理していく。なんだか、あらかじめ片付けのプランを持っているみたいだった。
「セラさん、すごい!」
「あたしたちの仕事はね、意外だろうけど整理整頓が第一なの。お店って、裏も狭いけど、表も見かけほど広くないの。ほっとくと直ぐに散らかっちゃうからね……ま、とりあえず、それらしく並べて、積んでと……ん、なんだ子の写真は?」

 セラさんが取り上げたのは、どうってことのない富士山の絵ハガキを入れた写真立てだった。

「富士山が、どうかしました?」
「今時いい歳したオニイサンが、富士山の絵ハガキなんか写真立てに入れとくか……」
 セラさんは、遠慮なく写真立ての裏蓋を開けた。すると富士山の絵ハガキの裏から女の人の写真が出てきた。
「きれいな人……」
「きれいなだけじゃないわね……」
 セラさんの目が光った。

 そのころ颯太は、今日から自分の城になる美術教室と準備室の整理に余念が無かった。自分の部屋はほったらかしでも気にならないが、仕事場は念入りになる。性分というものだろう。
 その間に、年度初めの職員会議が行われている。非常勤講師は、これには出ない。そもそも今日来なければならないという義務もない。
 颯太は美術の講師なので、備品の確認や、消耗品の見積もりや発注という仕事がある。それに粗々ではあるが年間の教育計画も立てておかなければならない。行き当たりばったりと一応の計画を持っているのとでは、授業への力の入り具合が違う。で、力を抜くと、生徒は美術の時間を息抜きとこころえ、収拾がつかなくなることを経験上よく分かっている。
「ちょっと失礼しますよ」
 教頭が、形だけノックして、ずかずかと準備室へ入ってきた。
「職会終わったんですか?」
「ええ、で先生がお越しだと聞いて、ちょうどいいと思いましてね……」
 そう言うと教頭は、バインダーに挟んだ生徒指導書を出した。生徒の経歴や連絡先などの個人情報が書かれている。
「あ、水分咲月だ……」
「御存じだったんですか?」
「ええ、最初は学校の正門で見かけて、初めて伺った時です。時期的に留年生だと思いました……ドンピシャですね」
「先生の美術をとっているんですが、ちょっと扱いに注意のいる生徒でして……」

 指導書の写真は、今まで見たこともないほどの穏やかさだった。

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