大橋むつおのブログ

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高校ライトノベル・ここは世田谷豪徳寺・17《ドッペルゲンガー》

2018-11-11 07:02:20 | 小説4

ここは世田谷豪徳寺・17
《ドッペルゲンガー》
        


「試合がフルセットまでいってヘゲヘゲの時に、相手のセッターの子がうちに見えてん……」

「それで……?」
「それがな……そのもう一人のうちがやるようにセットしてボール上げたら、隣の子がバックアタック決めてくれて、きれいに勝ててん。あとでビデオ見たら、相手のセッターは全然違う動きしてた」
「ふ-ん……恵里奈って、瞬間未来の自分を見たのかもね」
「未来の自分か……」

 そんなとりとめもない話をして、クリスマスイブの夜はふけていった。

 それでも今朝は早起きして、朝食前にひとっ風呂。
「ゆうべ、まくさ歯ぎしりしてたで」
「そういう恵里奈は、なんかうなされてたよ」
「ほんま?」
「きっと、ドッペルゲンガーの話のせいだ」
 あたしが、ポツンと言うと二人はお湯をかき分けて、あたしの側に寄ってきた。
「お湯を通して見ると胸って大きく見えるんだね……」
「ど、どこ見とんねん!」
 恵里奈は慌てて胸を隠した。
「で、ドッペルゲンガー見ると……見た話すると、体に悪いのよさ?」
 自信があるんだろう、まくさは、隠しもしないで聞いてきた。
「本によく書いてある。ドッペルゲンガー見ると体に変調が起きるって」
「あ、うち、そのあと盲腸で入院したわ!」
「盲腸の手術って、体の毛剃るんでしょ?」
「え、うん……こら、変なとこ見るんやない!」

 お馬鹿な朝風呂だった。

 でも体にはいいようで、朝ご飯が美味しかった。アジの一夜干しに納豆。近所のベスト豪徳寺でも同じようなものがあるし、似たような朝食は、ときどきお母さんも作ってくれるけど、断然ここのは美味しい。きっと温泉の効能なんだろう。納豆が苦手な恵里奈の分も引き受けてご機嫌だった。
 納豆一鉢分の幸せ。温泉ならでは……あたしは温泉大好き少女になってしまったようだ。

 二人には、ああ言ったけど、あたしはドッペルゲンガーを信じていない。

 本は好きだけど、ああそうだと思うことと、それは無いだろうということがある。
「白鳥は哀しからずや空の青海のあをにもそまずただようふ」
 若山牧水の短歌。
「明るさは滅びの徴であろうか、人も家も暗いうちは滅びはせぬ」
 太宰の一節。
「二十一世紀を生きる君たちへ」
 司馬遼太郎さんのエッセー。

 こういうのは、そうなんだと思う。

 ドッペルゲンガーは、それは無いだろうの部類。でも、こういう女子会では面白い。まあ、まくさも恵里奈も分かっていながら面白がってるんだ。こういう話が出来るのは、気の置けない友だちということもあるけど、あたし自身が社交的に成長したのかと思うと嬉しい。白石優奈と友だちになれた事と合わせて、今年の数少ない収穫。もち一番は帝都に入れたこと。

 ふいに四ノ宮クンが浮かぶ。こいつは当然、それは無いだろうの部類……て、やつのことは本には出てこない!

 帰りの電車。まくさと恵里奈は湯疲れか、コックリコックリと船を漕いでいる。あたしは、いろいろ頭に浮かんで来るせいか、目が冴えていた。
 緩いカーブを曲がるとき、複々線の線路を新型の電車が来るのが見えた。
 性能がいいんだろう、速度が十キロほど早く、カーブでこちらの電車を追い越していく。
 真ん中の車両あたりから視線を感じた。

 瞬間一メートルほどの距離で、その人と目が合った。

 ……三十歳過ぎのあたし。

 数秒間あたしとあたしは見つめ合っていた。向かいには夫らしい男の人。その横の女の子が「お母さん」と呼びかけているのが、過ぎゆく列車の中、口のかたちで分かった。

 あたしは、この話はだれにもしないと決意した……。

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