大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・『メタモルフォーゼ・13』

2019-03-12 06:43:19 | 小説3

『メタモルフォーゼ・13』


 信じられない話だけど、中央大会でも最優秀になっちゃった!

 本番は予選の一週間後で、稽古は勘を忘れない程度に軽く流すだけにしていた。それでも、クラスのみんなや、友だちは気を遣ってくれて、稽古に集中できるようにしてくれた。

 祝勝会は拡大した……って、ややオヤジギャグ。だってシュクショウがカクダイ。分かんない人はいいです(笑)

 校長先生が感激して会議室を貸してくださり、紅白の幕に『祝県中央大会優勝!』の横断幕。
 学食のオッチャンも奮発してビュッフェ形式で、見た目に豪華なお料理がずらり。よく見ると、お昼のランチの揚げ物や唐揚げが主体。業務用の冷凍物だということは食堂裏の空き箱で、生徒には常識。
 でも、こうやって大皿にデコレーションされて並んじゃうと雰囲気~!

「本校は、開校以来、県レベルでの優勝がありませんでした。それが、このように演劇部によってもたらされたのは、まことに学校の栄誉であり、他の生徒に及ぼす好影響大なるものが……」
 校長先生の長ったらしい挨拶の最中に、ひそひそ話が聞こえてきた。
「あの犯人、みんな家裁送りだって……」
「知ってる。S高のAなんか、こないだのハーパンの件もあるから、少年院確定だってさ」
「どうなるんだろうね、うちの中本なんか?」

 中本は、ちょっとカワイソウな気もした。もとはあたしのことに興味を持ってスマホに撮った。好意をもって見ているのは動画を見ても分かった。道具を壊したのもAに言われて断れなかったんだろう……って、なんで同情してんだろ。あの時は死んでも許さない気持ちだったのに。

 これが女心とナントカなんだろうか。あたしも県でトップになって余裕なのかな……そこで、会議室の電話が鳴り、校長先生のスピーチも、ひそひそ話も止まってしまった。

「マスコミだったら、ボクが出るから」

 電話に駆け寄った秋元先生の背中に、校長先生が言った。
「はい、会議室です。外線……はい、校長先生に替わります」
 会議室に喜びの緊張が走る。
「はい、校長ですが……」
 校長先生がよそ行きの声を出した。
「……なんだ、おまえか。今夜は演劇部の祝勝会なんだ、晩飯はいらん。何年オレのカミさんしてんだ!」
 そう言って、校長先生は電話を切ってしまった。
「校長先生、県レベルじゃ取材は無いと思います」
「だって、野球なら、地方版のトップに出るよ!」
「は……演劇部ってのは、なんというか、そういうもんなんです」

 祝勝会が、お通夜のようになってしまった。なんとかしなくっちゃ。

「大丈夫です、校長先生、みんなも。全国大会で最優秀獲ったら、新聞もテレビも来ます。NHKだってBSだけど全国ネットで中継してくれます!」
「そうだ、そうよ。美優なら獲れるわよ。みんな、それまでに女を磨いておきましょ!」
「男もな!」
 ミキが景気をつけてくれて、それを受けて盛り上げたのは……学校一イケメンの倉持先輩だった。

「あの……これ、予選と中央大会のDVD。おれ、放送関係志望だから、そこそこ上手く撮れてると思う。みんなの前じゃ渡しづらくってさ。関東大会の、いや全国大会の参考にしてくれよ」
 倉持先輩が、下足室を出て一人になったところで、声をかけてきた。
「あ、あ……どうもありがとうございました!」
「いいって、いいって、美優……渡辺、才能あると思うよ。じゃあ」
 あたしは、倉持先輩が、校門のところで振り返るような気がして、そのまま見ていた。
 振り返った先輩。あたしはとびきりの笑顔で手を振った。

 好き……というんじゃなくて、あたしの中の女子が、そうしろと言っていた。

「恋愛成就もやっとるからね、うちの神社は……」
 突っ立っていたあたしを追い越しながら、受売神社の神主さんが呟いた。そのあとを普段着の巫女さんがウィンクしていった。

 あたしは真っ赤になった。でも、好きとか、そういう気持ちではなかった。

 そういう反応をする自分にドギマギしている別の自分が居るんだ……。

 つづく 

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高校ライトノベル・時かける少女・35『女子高生怪盗ミナコ』

2019-03-12 06:39:36 | 時かける少女

時かける少女・35 
『女子高生怪盗ミナコ』 
      



 鈍色の空から名残の雪が舞い落ちる……A刑務所の第二通用口がひっそりと開いた。

「ども、お世話になりましだ……」
「もう、二度と戻ってくるんでねぞ」
 送る方も送られる方も訛りの抜けぬ短い言葉を交わし、肩の雪ひとひらが溶けるほどの間があって、出所専用の小さな鉄の扉が閉められた。

「クション……」
 塀の内側でクセになった小さなクシャミ一つして、藤三は背中を丸くして一礼、その丸まった背中のまま刑務所の塀沿いをホタホタと歩いた。

 しばらく行くと、チャンチャンコに毛糸の帽子を被った婆さんが待っていた。

「お務めご苦労様でやんした」
「加代、待ってくれだったな……」
「なあんも、こやっで、お迎えすっしが、おらでぎねぐで。堪忍しでけだんしょ」
「なあんも、こんたにしばれる朝によ、迎えにけだっただげでも、おら果報もんだでや……」
「しばれっで、おどっさ、車さ乗ってけんに」

 婆さんは、刑務所から少し離れたところにポンコツの軽自動車を置いていた。

「しまねえ……」
「なあんも、なあんも……」
 

「藤じいちゃん、もういいよ」
 婆さんが、若やいだ声で無人の後部座席に声を掛け、ハンドルを右に切り、林の中に入った。
 後部座席に、もう一人の藤三がムックリ起きあがった。
「ケンさん、すまねえ、オラのために一年六月(ろくげつ)もよ、この通りだ」
「だめじゃないか、藤三さん。体に障るぜ」
「せめて、迎えぐれえしねど、オラ顔がねえ」
「いや、こちらも貴重なネタをいろいろ仕入れさせてもらいやした。どうぞ、お顔お上げくださいやし」
「爺ちゃん、美代子ちゃんだよ」



 藤三の孫娘の美代子がホンダN360Zで迎えに来た。ドアを開けると美代子は白い息を吐きながら、ボロの軽に駆け寄ってきた。
「あ……どっちが、うちのお爺ちゃんだべ?」
「あ、すまねえ。オレが謙三って弟分。後ろが本物」
 そう言って謙三は、変装をとった。藤三より幾分若く、かなり元気なジジイが現れた。
「ほんとにお世話になってまって、ありがとうございました」
「さあ、藤三さん。これで義理は済んだ。家にけえって、養生しておくんない。その顔色じゃ、まだ現役復帰ってわけにはいかねえんでしょ」
「病院のベッドには、弟が代わりに寝てるから、早く戻ってやらないと」
「じゃ、謙の字、また、いっしょに仕事ができるの、楽しみにしてっがらな!」
「じゃ、お婆ちゃんも、あんがとさんでした」
「なんも、なんも、藤三さん、お大事にね」

 祖父と孫娘は、何度も頭を下げながら、自分たちの車に向かった。車の中でも、幾度も頭を下げ、やっとホンダN360Zは、県道の彼方に消えていった。

「さ、行こうか、あたしたちも」
 婆さんの変装を取ったミナコは、あっと言う間に若い姿に戻り、髪をヒッツメにするとアクセルを踏んだ。
「まだまだだなあ、ミナコは……」
「どうしてさ、美代子ちゃんだって、完ぺきに騙せたよ」
「歩く姿が、もう一つだ」
「どこがよ、ちゃんと腰も落としてたし、歩幅だって七十歳の平均守って、歩いてたんだよ。少しは孫娘の進歩認めてもいいんじゃないの!?」
「足跡に力が残ってる。年寄りはもっとフワって歩くもんだ。あれじゃ、桜田門の伝兵衛あたりにゃ見破られっちまう。まだまだ未熟だな」
「はいはい、努力して、半年もしたら、その桜田門の伝兵衛さんの警察手帳かましてみせますよ!」
「おっと、年寄り載っけてんだから、もっと安全運転してくれよ」
「へいへい、未熟なもんで……あれ、買い言葉なし?」
「いや、藤三兄いのこと思っちまってよ」
「また、コンビくむんでしょ?」
「……あの体じゃ、無理だろうなあ……一年六月身代わりやったが、これでよかったのかなあ……」
「ケ、爺ちゃんらしくもない。見込み違い?」
「バカ言え。藤三兄いにゃ、盗みのイロハから習ったんだ。たとえ本業にもどれなくたって、身代わりにお務めするのが、弟分の義理ってもんだ」
「そのわりにゃ、よく塀乗り越えてたみたいだけど。こないだ、アメリカ大使館に入ったの爺ちゃんでしょ?」
「さあな。仕事の中身は孫にも言えねえよ」
「この稼業は厳しいからねえ」
 ミナコは急ブレーキをかけた。
「おい、なんだよ?」
「あたし、これでも女子高生なの。ここから電車に乗るから、爺ちゃん、あとは自分で運転してね」
 ミナコは、マジックのように制服に着替えた。
「ミナコ、胸大きくなったな」
「え、見えた!?」
「雷門の謙三、舐めちゃいけねえ。で、ここから駅までの的は」
「内緒。じゃ、行ってきま~す♪」

 ミナコは、ルンルンで駅に向かう高校生の群れの中に溶け込んでいった。

「ハハ、的は、あのニイチャンか……」

 徐行で進んだ謙三は、軽くクラクションを鳴らした。みんなが振り返った瞬間、藤三はミナコと並んで歩いている男子高校生の顔をチラと見て、眼鏡形のカメラでバッチリ写真を撮った……。

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高校ライトノベル🍑MOMOTO🍑デブだって彼女が欲しい!・65『桃、お前……?』

2019-03-12 06:34:11 | ノベル2

🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!

65『桃、お前……?』


 夕べ桃は現れなかった。

 ぐっすり眠れたかというと、そうでもない。寝つきは悪いし、夜中も何度も目が覚める。なんだか体の一部を失ってしまったように頼りない。
 朝食のために冷凍庫を開けても、大盛り冷凍ナポリタンには目が行かなくなった。
 焼きおにぎりに2個に味噌汁になり、食べながら――これに納豆と焼きのり、玉子焼きがあればいいのに……そうなれば、おにぎりは1個でいいかな――などと考えてしまう。

「いらっしゃいませ、ソレイユへようこそ。4名様ですか? はい、それでは禁煙席にご案内いたします」

 バイトも快調だ。ディナータイムになっても追われるということが無い。お客さんがたてこんできても、そのペースで仕事がさばけるようになった。
「片桐さんも快調だね」
「あら、気づいてないの?」
「え、なに? あ、Aダイ4番片付けて、Bダイ2番のセット。そう、鈴木さんお願いします。片桐さんレジお願い。はい? ええ、倉庫整理ですね、すぐ行きます」
 倉庫整理は直ぐにやらなければならない。センターからの荷物は量が少なくても冷凍品や冷蔵品が混ざっているので、直ぐに処理しなければならないのだ。補充された食材や消耗品は古いものを棚の前に出し、新しいものは奥にやる。缶詰などの重量物は下から2段目の棚へ、取り出すときに腰に負担がかからない位置に収納する。オレ的には3段目でもいいんだけど、また、マニュアルにも3段目までが重量物になっているけど、ソレイユ国富店は女性スタッフが多いので、できるだけ2段目に収めるようにしている。
「Aダイ、5・6・7を片づけてください、10名様お入りになります」
 フロアーに戻ると、直ぐにお客様の様子を見て指示を出す。
「うまく回っているようね」
 店長が満足げに頷いている。
「はい、今日はみんな調子がいいようです」
「フフ、やっぱり気づいていない」
 Aダイに向かいながら片桐さんが笑う。

「今日うまくいっているのは、百戸くんが的確に指示出しているからよ」

 従食を休憩室のテーブルに並べながら片桐さん。
「え、そうだっけ?」
「今日はシフトリーダーがお休みでしょ、自然に百戸くんが指示出してたわよ」
「え、オレはそんな……」
「ううん、口に出して言うのは5回もなかったけど、目配せで指示飛ばしてたわよ」
「え、あ、そう?」
「「「そうよ」」」
 休憩の交代に入って来た鈴木さんたちが同時に頷いた。

 いつものように片桐さんを送り、いつものように家に帰った。

「桃……」

 ベッドに潜り込むと、思わず妹の名前を呟いてしまう。
「お兄ちゃん……」
「桃……いるのか?」
「ここだよ」
 足許からモソモソ這い上がってくる気配がしたので布団をめくってみた。
「桃、お前……?」

 這い上がって来た桃は、リアルサイズの1/4ほどの大きさしかなかった……。
  

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする