長文になるので興味がある人は覚悟して読んで欲しい。
たぶんウチのメンバーなら誰も最後まで読まないだろうがね
-スタジオ後
一樹と共に地元へ向かう列車の中
不意に何かに気づいた一樹が、吊革に身を委ね今まさに意識を失いつつあった僕に小声で話しかけてきた
「ねぇ○○さんって覚えてる?学生時代の。あれ○○さんじゃない?」
そう言われた僕は斜め向かいの席に目をやった。
そこには確かに同級生だった○○さんらしき女性が一人。
懐かしいなぁ…
僕らは少し感傷を覚えた。
だが当時でこそ幾度となく話した事はあっても 卒業して月日はだいぶ流れている
同級生、クラスメイトとは呼べても今現在、友達と言える程の間柄でもなく
今や別にわざわざ話しかける様な知り合いと呼べるレベルの関係でも無い微妙な距離感だ。
(加えて言うなら軽々しく女性に話しかける様なファンキーでも軟派でも無い そんな勇気も無い。)
その場はそのまま
僕らは居眠りに落ちてしまった。
当時の○○さんと言えば
文武両道才色兼備
(ちょっとイメージ肥大)
クラスでもリーダー的なポジションに位置し
いわゆる学級委員や生徒会役員のポストに名を連ねる人物だった
僕の覚えている限りでは ご両親もしっかりとした考えを持った方で その二方の育て方が反映したかのように 実直で凛とした人だった気がする(あくまで僕視点の見解)
加えて言うなら
少し冷たい雰囲気もあった
今で言う「ツン」と言うヤツだ
「デレ」は無い。
少し冷たい印象は相変わらずだが きちんとスーツを着こなした身なりから察する限り 卒業後も勤勉に励み 大学に進学し 努力の果てに今を邁進しているようだ
○○さんの事だから妙にスレたりグレたり道を踏み外すこともあるまいとは思っていたが内心、少し安心した
(本人には大きなお世話かもしれないが)
程良く歳を重ねた所為か近頃 当時のクラスメイト達がどうなったのか 少し気になっていたからだ
(バンドマンになってこの歳で赤い髪をしているヤツが言うことでもないが)
噂によれば
大学に進学し 大手企業に就職した者もいれば 美容師になった者もいる
お笑い芸人を目指し修行中の者もいれば 適度な職に付いて 家庭を持ち 子を育てている者もいる
中には
大学を出たものの、自分の道が定まらず途方に暮れ鬱になる者
出所してカタギの道を歩む者
行方を眩まし生死不明の者もいるようだが。
そんな中
薬に溺れ 身を滅ぼしつつある者の名も耳にした。
当時 あどけなく笑い合いながら時間を共有した人間がその様な状況に置かれているのは全くもって忍びない
だが僕は彼を助けようとはしなかった
出来なかったのか?
しなかったのか?
年月はその「月日を共にした級友」を「知り合い」程度の間柄に変え
手を伸ばせば届くのに
手を伸ばすのを躊躇う
そんな距離に追いやった。
いくら自分も目標或いは目的を持ってそれを実現すべく日々懸命に生きているとはいえ、僕は我が身可愛さのあまり見て見ぬフリをしてしまったのではないか?
そんな罪悪感に時折襲われる。
僕に何が出来たのか…
確かに僕は無力な人間だ
けれど
何か、何か出来たのではないか?
けれど僕は
やはり何も出来ない
-いや、しないのだ。
僕は人の弱さ脆さを痛感する。
鬱になるので話を戻そう。
所謂「優等生タイプ」な○○さんであったが 思春期ともあれば当然恋愛話もあった。
噂好きな誰かが
「内緒だけど」 「ここだけの話」
なんて取って付けた台詞を口にしながら罪を逃れつつ他人の恋愛話を言いふらしたりしていた。
よくある話だ。
○○さんとつき合っていたのはH君と呼ばれる人物だ。
サッカー部在籍の彼もまた文武両道才色兼備
(才色兼備は女性限定の言葉か?)
習字算盤の段位を持ち
リーダーの器を持ち
人をまとめる立場に名を連ね
加えて言うなら美形という
なんとも嫉妬心を煽る男だ。
周りは二人を
「お似合い」
とか
「ベストカップル」
なんて持て囃した
今の中学生の恋愛観がどうかは僕には到底わからないが あの頃はまだ携帯なんて今程普及していなかったし コミュニケーションの手段と言えば 手紙や交換日記
電話なんてお互いでかける時間を決めて自宅の電話の前に待っていたりするような 今ではちょっと笑ってしまうようなアナログな時代だ
けれどそこに大切な何かがあったように僕には思える。
そんな時代に生きた真面目な二人の恋愛もまた 今ではマンガや映画の中の出来事のような純粋さだった。
手を繋いだ。とか
おでこにキスをした。とか
ぶっちゃけ今これをを書き記している自分もちょっと照れる。
そんな「お付き合い」だった。
僕はそういう話が好きだった。別に噂話やネタが好きで面白半分に聞いていた訳じゃなく
そんな優しい時間が好きだった
どこか暖かくなる様な
そんなたおやかさが好きだった
だから当時つき合ってるカップルが皆 結婚出来ればいいなんて どこかで願ってた。
叶わないって事
ホントは分かってたけどね。
でもさ、寂しいじゃん
そう言えてしまうのがさ。
けれどやっぱり終わりって言うのは訪れるものだった。
卒業の季節は
刻一刻と近づいていたのだ。
僕なんて既に
バンドをやりたいから高校なんて適当に出ておけばいいや!
なんて安易な考えでのらりくらりとしていたが 彼らはそうもいかなかった
○○さんは自らの道を切り開くべく一流の高校を受験する道を選び
H君もまたサッカー選手になる道を切り開くべく名門校に進学する道を決めていた。
もちろん互いの親の指向もあったろうし二人にかかる周囲の期待も大きかった
二人の道は
今、分岐点に差し掛かったのだ
まだ周囲の年頃特有の未成熟な思考は
それぞれの道を邁進しながら連絡を取り合いつつ…
なんてつい最近マンガで見たような展開をイメージしていたに違いない。
かく言う僕も
そんな甘っちょろい事を考えていた
けれど
二人は違っていた。
二人は遙かに強かった。
自らの進むべき道を見据え
互いを考えた末、終止符を打つ事を選んだ。
トレンディドラマや漫画に影響されやすかった頃の事だ
なんで?なんで?
なんて周りは理解に苦しむ様子だった。
僕は少し
自分が情けなく思えた。
二人の強さに
自らが惨めに思えた。
けれど
最後にH君がこう言ったらしい
それに対して○○さんが何と答えたかは分からない
けれどその言葉は
曇り無く力強かった。
もしお互いに進むべき高校に進学し ちゃんと卒業して その時お互いの事が好きだったら結婚しよう。
まぁ当然その台詞には学年中が湧いた。
かっこいいと賛美する者
クサいと茶々を入れ冷やかす者
自分が言われたかのように赤面する者
それぞれだ
「歯の浮くような台詞」
なんて今振り返ったらH君本人も三日は布団から出られなくなるような内容だが僕はこの言葉が好きだ。
思春期故の葛藤や不安や恋愛観の中で彼が口にした純粋な言葉
そして何よりもそこに含まれる意志そのものが胸を打った。
僕の人生の中で
クサいだけの台詞を言った人間は数在れど そこに強さを感じた言葉はこの一度きりだ
○○さんは覚えているのだろうか
嘲笑した挙げ句に
「馬鹿みたい」
なんて否定しないだろうか
少し怖くなる。
叶わない
なんて考えるのは容易い
口にするのもまた、容易い。
けれど僕はそれを考えたくない
口に出したくない
けれど思考が自動的にその答えを導き出すのはどうしてだろう?
それがつらくて仕方ないのに儚くて綺麗なのは何故だろう。
みんな、手を挙げてよ
あの頃の授業中みたいにさ
じゃないと見失ってしまうよ。
僕にみんなの幸せを
少しだけ祈らせてくれないか。
こんな無力な僕に今、出来ることといったらこれくらいだから
H君の意志
○○さんの強さ
そしてあの頃の純粋さ
もし僕がこの先それの意味が分からなくなったら
僕は詩うことを辞める。
それは僕が死んだって事だから
僕はそれを
僕より高い身長の
○○さんの後ろ姿に誓うんだ。
ちょっと敗北感を味わいながら
最後に
この文章を
二人が読んでいない事を
僕は願うばかりだ。
手鞠
たぶんウチのメンバーなら誰も最後まで読まないだろうがね
-スタジオ後
一樹と共に地元へ向かう列車の中
不意に何かに気づいた一樹が、吊革に身を委ね今まさに意識を失いつつあった僕に小声で話しかけてきた
「ねぇ○○さんって覚えてる?学生時代の。あれ○○さんじゃない?」
そう言われた僕は斜め向かいの席に目をやった。
そこには確かに同級生だった○○さんらしき女性が一人。
懐かしいなぁ…
僕らは少し感傷を覚えた。
だが当時でこそ幾度となく話した事はあっても 卒業して月日はだいぶ流れている
同級生、クラスメイトとは呼べても今現在、友達と言える程の間柄でもなく
今や別にわざわざ話しかける様な知り合いと呼べるレベルの関係でも無い微妙な距離感だ。
(加えて言うなら軽々しく女性に話しかける様なファンキーでも軟派でも無い そんな勇気も無い。)
その場はそのまま
僕らは居眠りに落ちてしまった。
当時の○○さんと言えば
文武両道才色兼備
(ちょっとイメージ肥大)
クラスでもリーダー的なポジションに位置し
いわゆる学級委員や生徒会役員のポストに名を連ねる人物だった
僕の覚えている限りでは ご両親もしっかりとした考えを持った方で その二方の育て方が反映したかのように 実直で凛とした人だった気がする(あくまで僕視点の見解)
加えて言うなら
少し冷たい雰囲気もあった
今で言う「ツン」と言うヤツだ
「デレ」は無い。
少し冷たい印象は相変わらずだが きちんとスーツを着こなした身なりから察する限り 卒業後も勤勉に励み 大学に進学し 努力の果てに今を邁進しているようだ
○○さんの事だから妙にスレたりグレたり道を踏み外すこともあるまいとは思っていたが内心、少し安心した
(本人には大きなお世話かもしれないが)
程良く歳を重ねた所為か近頃 当時のクラスメイト達がどうなったのか 少し気になっていたからだ
(バンドマンになってこの歳で赤い髪をしているヤツが言うことでもないが)
噂によれば
大学に進学し 大手企業に就職した者もいれば 美容師になった者もいる
お笑い芸人を目指し修行中の者もいれば 適度な職に付いて 家庭を持ち 子を育てている者もいる
中には
大学を出たものの、自分の道が定まらず途方に暮れ鬱になる者
出所してカタギの道を歩む者
行方を眩まし生死不明の者もいるようだが。
そんな中
薬に溺れ 身を滅ぼしつつある者の名も耳にした。
当時 あどけなく笑い合いながら時間を共有した人間がその様な状況に置かれているのは全くもって忍びない
だが僕は彼を助けようとはしなかった
出来なかったのか?
しなかったのか?
年月はその「月日を共にした級友」を「知り合い」程度の間柄に変え
手を伸ばせば届くのに
手を伸ばすのを躊躇う
そんな距離に追いやった。
いくら自分も目標或いは目的を持ってそれを実現すべく日々懸命に生きているとはいえ、僕は我が身可愛さのあまり見て見ぬフリをしてしまったのではないか?
そんな罪悪感に時折襲われる。
僕に何が出来たのか…
確かに僕は無力な人間だ
けれど
何か、何か出来たのではないか?
けれど僕は
やはり何も出来ない
-いや、しないのだ。
僕は人の弱さ脆さを痛感する。
鬱になるので話を戻そう。
所謂「優等生タイプ」な○○さんであったが 思春期ともあれば当然恋愛話もあった。
噂好きな誰かが
「内緒だけど」 「ここだけの話」
なんて取って付けた台詞を口にしながら罪を逃れつつ他人の恋愛話を言いふらしたりしていた。
よくある話だ。
○○さんとつき合っていたのはH君と呼ばれる人物だ。
サッカー部在籍の彼もまた文武両道才色兼備
(才色兼備は女性限定の言葉か?)
習字算盤の段位を持ち
リーダーの器を持ち
人をまとめる立場に名を連ね
加えて言うなら美形という
なんとも嫉妬心を煽る男だ。
周りは二人を
「お似合い」
とか
「ベストカップル」
なんて持て囃した
今の中学生の恋愛観がどうかは僕には到底わからないが あの頃はまだ携帯なんて今程普及していなかったし コミュニケーションの手段と言えば 手紙や交換日記
電話なんてお互いでかける時間を決めて自宅の電話の前に待っていたりするような 今ではちょっと笑ってしまうようなアナログな時代だ
けれどそこに大切な何かがあったように僕には思える。
そんな時代に生きた真面目な二人の恋愛もまた 今ではマンガや映画の中の出来事のような純粋さだった。
手を繋いだ。とか
おでこにキスをした。とか
ぶっちゃけ今これをを書き記している自分もちょっと照れる。
そんな「お付き合い」だった。
僕はそういう話が好きだった。別に噂話やネタが好きで面白半分に聞いていた訳じゃなく
そんな優しい時間が好きだった
どこか暖かくなる様な
そんなたおやかさが好きだった
だから当時つき合ってるカップルが皆 結婚出来ればいいなんて どこかで願ってた。
叶わないって事
ホントは分かってたけどね。
でもさ、寂しいじゃん
そう言えてしまうのがさ。
けれどやっぱり終わりって言うのは訪れるものだった。
卒業の季節は
刻一刻と近づいていたのだ。
僕なんて既に
バンドをやりたいから高校なんて適当に出ておけばいいや!
なんて安易な考えでのらりくらりとしていたが 彼らはそうもいかなかった
○○さんは自らの道を切り開くべく一流の高校を受験する道を選び
H君もまたサッカー選手になる道を切り開くべく名門校に進学する道を決めていた。
もちろん互いの親の指向もあったろうし二人にかかる周囲の期待も大きかった
二人の道は
今、分岐点に差し掛かったのだ
まだ周囲の年頃特有の未成熟な思考は
それぞれの道を邁進しながら連絡を取り合いつつ…
なんてつい最近マンガで見たような展開をイメージしていたに違いない。
かく言う僕も
そんな甘っちょろい事を考えていた
けれど
二人は違っていた。
二人は遙かに強かった。
自らの進むべき道を見据え
互いを考えた末、終止符を打つ事を選んだ。
トレンディドラマや漫画に影響されやすかった頃の事だ
なんで?なんで?
なんて周りは理解に苦しむ様子だった。
僕は少し
自分が情けなく思えた。
二人の強さに
自らが惨めに思えた。
けれど
最後にH君がこう言ったらしい
それに対して○○さんが何と答えたかは分からない
けれどその言葉は
曇り無く力強かった。
もしお互いに進むべき高校に進学し ちゃんと卒業して その時お互いの事が好きだったら結婚しよう。
まぁ当然その台詞には学年中が湧いた。
かっこいいと賛美する者
クサいと茶々を入れ冷やかす者
自分が言われたかのように赤面する者
それぞれだ
「歯の浮くような台詞」
なんて今振り返ったらH君本人も三日は布団から出られなくなるような内容だが僕はこの言葉が好きだ。
思春期故の葛藤や不安や恋愛観の中で彼が口にした純粋な言葉
そして何よりもそこに含まれる意志そのものが胸を打った。
僕の人生の中で
クサいだけの台詞を言った人間は数在れど そこに強さを感じた言葉はこの一度きりだ
○○さんは覚えているのだろうか
嘲笑した挙げ句に
「馬鹿みたい」
なんて否定しないだろうか
少し怖くなる。
叶わない
なんて考えるのは容易い
口にするのもまた、容易い。
けれど僕はそれを考えたくない
口に出したくない
けれど思考が自動的にその答えを導き出すのはどうしてだろう?
それがつらくて仕方ないのに儚くて綺麗なのは何故だろう。
みんな、手を挙げてよ
あの頃の授業中みたいにさ
じゃないと見失ってしまうよ。
僕にみんなの幸せを
少しだけ祈らせてくれないか。
こんな無力な僕に今、出来ることといったらこれくらいだから
H君の意志
○○さんの強さ
そしてあの頃の純粋さ
もし僕がこの先それの意味が分からなくなったら
僕は詩うことを辞める。
それは僕が死んだって事だから
僕はそれを
僕より高い身長の
○○さんの後ろ姿に誓うんだ。
ちょっと敗北感を味わいながら
最後に
この文章を
二人が読んでいない事を
僕は願うばかりだ。
手鞠