前回アップした『池島全景 離島の《異空間》』と時間は前後しますが、
今年の1月に『東西名品 昭和モダン建築案内』を上梓しました。
拙ブログ内のカテゴリー建築・都市景観の流れを汲むもので、
その中でも昭和初期、いわゆる20年代と呼ばれる時代に焦点をしぼり、
テーマ別に東京圏と京阪神に現存する建築をそれぞれ1物件ずつ、
各圏から17物件、合計34物件+αを取り上げた書籍。
20年代という時代は大戦間時代ともいわれ、
第一次大戦と第二次大戦の間の、
世情が劇的な変化を遂げた時代。
また、
工業製品が普及し、大衆文化が花開いた時代でもあります。
さらに、日本では関東大震災という未曾有の経験を経て、
国内の建築物が、一気に鉄筋コンクリート化する時代でもあります。
明治以降の西洋建築のコピーの終焉期であると同時に、
戦後のモダン建築の発芽の時代でもある20年代は、
様々なスタイルが交差したまさに建築百花繚乱の時代。
テキストは文化コラムニストで歌人の北夙川不可止氏。
東京圏の一部の物件を私が担当し、
画像は、ほとんどが書籍用の取材での新撮です。
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20年代という時代を語る時に、
絶対に外せないキーワードが「アール・デコ」。
1925年にパリで開かれた「現代装飾美術・産業美術国際博覧会」、
通称「アール・デコ展」に象徴されるデザインの潮流。
そのヨーロッパのアール・デコを最も端的かつ美しく伝えるのが、
旧朝香宮邸(現・東京都庭園美術館)です。
アンリ・ラパンのプロデュースのもと、
ラリック、アングラン、シューブといった、
当時最先端の装飾芸術家が一堂に会して創られた館は、
隅から隅まで息をのむ美しさです。
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同じアール・デコでも、
こちらはアメリカンスタイルのアール・デコ
東京の御茶ノ水にある「山の上ホテル」は、
アメリカの建築家ヴォーリズの設計によるもの。
塔屋や正面2階部分の装飾などは、
まさに時代を伝える貴重な建築遺産。
今見てもまったく古さを感じないのは、
ヴォーリズの根底にある、
普遍(不変)的な思想ゆえでしょう。
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ヴォーリズとともに忘れてはならない建築家と言えば、
やはりフランク・ロイド・ライト。
世界三大建築家の一人にも挙げられるライトは、
その普遍性と独自性で、他の追従を許しません。
目白にある自由学園明日館は、
国内に現存する数少ないライトの作品。
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明日館でも多くの部分で設計に参加した遠藤新は、
ライトの遺伝子を受け継ぎながら、
さらに日本の伝統的な建築の融合を押し進めた建築家。
甲子園ホテル(現・武庫川女子大学)の尖塔には、
寺社の塔屋建築が重なります。
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百貨店という店舗形態が国内で始まるのも、やはり20年代です。
日本橋髙島屋の建物は、もともとは百貨店ではなかったものの、
和のテイストをふんだんに取り入れた建築。
大理石の壁面や水飲場といった洋風な造りと、
格天井や釘隠しなどの和風な装飾が見事に融合したデザインで、
百貨店としては国内で初めて、重要文化財に指定されています。
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関東大震災による壊滅的な打撃を教訓に、
大きな震度に耐えうる鉄筋コンクリートの建造物が乱立するのも、
20年代のひとつの特色。
特に小学校は「復興小学校」と呼ばれ、
都内に100校以上建造されました。
その多くは解体されましたが、
銀座のド真ん中にある泰明小学校は今も現役で健在です。
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学校と同様に、復興建築として有名なのが同潤会アパート。
都内の同潤会アパートは全て解体されてしまいましたが、
大阪に、20年代の記憶を伝える現役の鉄筋アパートがあります。
外壁は同潤会と同様の洗い出し仕上げで、裾にはスクラッチタイル。
特に階段入口の装飾は、涙が出るほどの20年代スタイル。
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戦後、国内で盛んに建設された、
モダン建築の原点も20年代。
ドイツのデザイン学校、
バウハウスから生まれたインターナショナルスタイルと呼ばれる、
装飾を極端に排除したグローバルデザインは、
東京の下町、深川にある東京市営深川食堂(現・深川東京モダン館)
で見ることができます。
この記事内で、もっとも“進歩的”な建築物。
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深川食堂とは逆に、神戸税関のように、
従来の古典的なスタイルで建設された建物も、
数多く残っています。
他にもスパニッシュ・スタイルの前田侯爵鎌倉別邸(現・鎌倉文学館)や、
大正時代末期のモダンアパート、船場ビルディングなど、
20年代の多様さは枚挙に暇がありません。
書内で取り上げたのはそのほんの一部ですが、
ぜひご堪能ください。
◆東西名品 昭和モダン建築案内◆
価 格: 1,800円(税抜)
A5版/160ページ/オールカラー
発売元: 洋泉社
発売日: 2017/01/26
ISBN-10: 4800311349
ISBN-13: 978-4800311344