遠野屋を舞台としたシリーズで時代小説もイケテルと思ったあさのあつこさんの、
別の時代小説をみつけたので、読んでみることにしました。
江戸深川の料理茶屋「橘屋」の仲居頭・お多代を芯にして、橘屋で働く女達
の様々な人生を描いた短篇連作集です。
「父親の薬札代がかさんだため、12歳で橘屋に住み込み奉公することになった
おふく。
家族を食べさせていくために働き、いつか母親が迎えに来てくれるその日まで、
また、幼なじみで根付職人の修行をしている正次が一人前になって自分を迎えに
来てくれる日まで、
「待ってる」・・・と誓う。
しかし家族はおふくをおいてどこかへ行ってしまい、、、」
おふくを始め、いろんな女たちが、それぞれ苦境にたたされ、道を踏み外し落ちて
いきそうになるのを、お多代の厳しいが真実を突いた言葉が救ってくれる。
この時代、誰もが貧しく、裕福なのはほんの一握りのひとたち。
食べるものも満足になく、お金など持っていたことがほとんどない。
身を粉にして一日中働き、それでも病気でもして働けなくなろうものなら、家族
もろとも生きていけない程のかつかつの生活。
時代小説を読んでいるといつも、現代の自分達の生活が、いかに恵まれているかを
思い知らされます。
いつ、身を落としてしまっても不思議じゃない環境。
その中で、ギリギリのところで自分を支え、踏みとどまれる人もいる。
その境は、いったいどこにあるのだろう?どうやって乗り切るのだろう?
そこに、その人としての行き方の真価があり、しかしそれはまだ幼い、うら若き者が
一人で超えていくのは至難の業だ。
しかしこの橘屋には、お多代という、救世主(?)がいる。
そのお多代の壮絶な過去も最後には暴かれ、お多代の仕事は次の世代へと、受け継がれ
てゆく。
重いお話の中に、希望の光が見えて、思わず頑張れ!!と応援したくなるような
女性たちが描かれています。
本の装丁もとても美しく、頑張らなくちゃという意欲の湧いてくる一冊です。