カンタータを歌う会の次回のお題は第78番(BWV78)。このところ続いているコラールを基にしたコラール・カンタータの一環だが、この曲の人気は頭抜けている。私も大好きである。歌詞は、全編がコラールからとったものだが(直接又はアレンジ)、原曲コラールのメロディーが聴けるのは両端の二曲のみである点は、前回のBWV33と同じである。
このカンタータは、バッハがライプチヒのトーマス教会のカントル(音楽監督)に就任して2年目の年(1724年)の三位一体の主日後の第14主日用に書いたものである(前回のBWV33は同年の第13主日用だったから、ちゃんと連続している(当会は、バッハのカンタータを年代順に歌う会である)。
【元曲の賛美歌】
では源流探しの旅に入る。BWV78の元曲は、ヨハン・リスト(注1)のカンタータと同名の賛美歌「Jesu,der du meine Seele 」であり(以下「本件賛美歌」という)、こういう曲である(本来は第12節を歌詞とする第7曲(終曲)に第1節をあてはめた)。

いつもの賛美歌の例によって、「リストの」と言った場合、リストが作詞したという意味である(なお、作曲家のリストは「Liszt」だが、こちらのリストは「Rist」であるから、日本語では同じ表記だがドイツ人にとっては似てるどころか全然別の名前である)。
【メロディー】
では、本件賛美歌のメロディーは誰の作か?これがまたややこしい。前回のBWV33のときもメロディーについては資料によって見解が違っていたが、今回も同様である。すなわち、ある資料には「メロディーもリストに帰する(attributed to Rist)」とあるが(注2)、別の資料には、「もとは世俗曲で、それがゲオルク・フィリップ・ハルスデルファー(注3)が作詞した「Wachet,doch,erwacht,ihr Schläfer」のメロディーとなり、次いで、本件コラールのメロディーになった」とある(注4)。後者の方が具体的なので説得力がありそうだが、本件コラールが世に出たのが1641年であるのに対し、ハルスデルファーの「Wachet」は1642年。資料とは順番が逆になっている。こういう矛盾が出てくると、証拠価値が下がるのが一般である。
【BWV78の構成】
本件賛美歌は12節から成り、第1節は第1曲に、第12節は終曲(第7曲)にそのまま使われ、間の節は第2~6曲用にパラフレーズされている。すなわち、次のとおりである。
第1曲は合唱。歌詞は第1節。メロディーは本件賛美歌のメロディーを組み込んだパッサカリア(同じメロディーを低音が繰り返す3拍子の曲)。
第2曲はソプラノとアルトの二重唱。
第3曲はテナーのレチタティーヴォ(セッコ(伴奏が通奏低音のみ))。
第4曲はテナーのアリア(伴奏はフルートと弦のピチカート)。
第5曲はバスのレチタティーヴォ(アコンパニャート(オケの伴奏付き))。
第6曲はバスのアリア(オーボエの伴奏付き)。
第7曲は合唱が歌うコラール。歌詞は第12節。メロディーは本件賛美歌のもの。
【支流探し】
バッハは、本件賛美歌の第11節をメロディーもろともカンタータ第105番の第6曲(終曲)に用いている。また、シュヴァルツ・シリング(注5)は、本件賛美歌のメロディーを用いてオルガン用のコラール前奏曲を作曲した。
以上の源流から下流に至る流れを図にしたのが下図である。

【身も蓋もない話】
以上、BWV78の源流と支流をたどったが、今の私の本心を言えば、原曲コラールのメロディーの出自についての疑問などはほとんど気にかけてない。などと本シリーズの存在意義さえ揺るがす身も蓋もないことを言うのも、BWV78と言えば、私の場合、もう第2曲のソプラノとアルトの二重唱に止めを刺すのであり、そのメロディーは、これはもうバッハの創作に間違いがないからだ。カンタータを歌う会(別に会の固有名詞があるがカッツアイ)は、練習なしに、その月のお題のカンタータをピアノ伴奏で3回通し、その合間に参加者が自由にソロ演奏を披露する会だが、BWV78を歌う次回、私は、全曲を通す3回はもちろん二重唱を含めてたっぷりアルトを歌い、そしてソロ・コーナーにおいては、この二重唱の通奏低音をチェロで弾く気である。

だから、他の参加者の方々には、都合4回この二重唱を歌っていただくわけである。そんな大風呂敷を広げて大丈夫かって?大丈夫!まず、このチェロのパートは、足取りを表しているのだが、曲想から言って元気な足取りだと思ったらさにあらず。ついてる歌詞は「弱々しいがたゆみない足取り」(mit schwachen doch emsigen Schritten)である。弱々しくてよいのである(「弱々しい」と「へろへろ」は違うという正論には今は耳を貸さない)。だが「たゆみない」とも言っている。途中でリタイアしてはいけないとなるとハードルが高くなるが、この点も大丈夫。このブログは3人しか読んでない。当日チェロを持って来なくても「リタイア」がばれる相手は3人以下である。
注1:Johann Rist (1607.3.8~1667.8.31)。
注2:原曲コラールについてのウィキペディア英語版
注3:Georg Philipp Harsdörffer (1607.11.1~1658.9.17)
注4:www.kantate.info
注5:Reinhard Schwarz-Schilling(1904.5.9~1985.12.9)


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