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『東ベルリンから来た女』 (2012) / ドイツ

2013-01-22 | 洋画(は行)


原題:  BARBARA
監督: クリスティアン・ペッツォルト
出演: ニーナ・ホス 、ロナルト・ツェアフェルト 、ヤスナ・フリッツィー・バウアー
観賞劇場: Bunkamura ル・シネマ

映画『東ベルリンから来た女』公式サイトはこちら。


<あらすじ>
1980年、夏。旧東ドイツの片田舎の町に赴任した女医バルバラ。西側への移住申請が許可されず、秘密警察〈シュタージ〉の監視の下、大病院から左遷されてきたのだ。いつどこで密告されるかもしれない不安と恐怖を抱きながら、西ベルリンに暮らす恋人ヨルクと密会を重ね、脱出の日を画策する。しかし、同僚の医師アンドレの誠実さに触れ、さらには、助けを求める患者ステラとの出会いにバルバラの心は揺れ始める。(goo映画より)



以下ネタばれあり。





ベルリンの壁崩壊が1989年11月なので、そのかなり前、まだ東西共存の足あとが見える前の東独での話である。
こうした映画を観るといつも思うことだけど、息が詰まりそうな日常生活の様子を如何にして表現していくかがポイント。地方に左遷されたバルバラを取り巻く環境も同様で、常に監視下にある中で逃亡を計画する緊迫感が否が応でも観客にも伝わってくる。
この系統で思い出すのは『善き人のためのソナタ』だけど、比較すると主人公同士の恋愛要素は薄め。

西側にいる恋人との生活を夢見て密かに準備することの方がバルバラにとっては第一だった。既存の関係の方が主体になっているので、最初はアンドレが自分に寄せる思いに気がつかない。
アンドレはアンドレで、最初は同僚兼バルバラの監視役を仰せつかる訳だが、バルバラを一目見た瞬間から彼女に惹かれてるのがわかる。ここは大事な所で、監視よりも彼女そのものを大事に想うことの伏線になっている。そして一瞬で男を虜にしてしまうバルバラの、地味な服や表情で隠しても滲み出てしまう官能もよく出ている。

隠しても隠しきれないのは秘めた官能だけではなく、バルバラの希望もそうだ。一般的に「人は人を隠す」と言うが、ただでさえ西独よりも人がまばらな当時の東独で、しかも周りは相互監視社会、その中でふらっと現れた訳あり美女というだけでも注目の的なのに、その中で準備をすることは相当な用意周到さが必要だったはずだ。いくらバレないようにしていても、素振りで気付く人は多いんじゃないだろうかとも思うが、そういった思惑など、無駄な場面が一切省いてあるのが緊迫感が増していく。
監視役の役人ですら大きな汚点だとか後ろめたさがあった訳で、そう考えると同じ穴の狢なのだろう。

普段抑圧している分、恋人と逢う時は弾ける訳だが、それを過剰に前面に出す訳でもなく、むしろ結末に向けての伏線として使っていることがわかる。離れていた間にバルバラに起こった出来事は、屈辱的なものも確かにあっただろうが、アンドレの医師としての姿勢やステラとの出会いによって、バルバラはこれからの自分の生き様について考えさせられたはずだ。
あのタイミングでステラが現れたことによって大きくバルバラの運命も変わっていくが、彼女はそれを悔いたり嘆きもせず、むしろ誇らしげな気持ちで受け止めたように思う。一瞬の判断に迷いはない。彼女は人間としての自分を選んだのだ。
最後にアンドレに見せる表情などはどこか勝利宣言をしたかのように晴れ晴れとしており、いつか野望を達成してやるという決意に満ち満ちている。





緊迫感や恋愛模様のドラマティックさで言えば『善き人のためのソナタ』ほどではないものの、むしろそのあっさり感や無表情さが却って現実的なのかもしれない。
この9年後にようやくベルリンの壁が崩壊したことを思えば、果たしてこの後バルバラはどうしたのだろうという所に思いを馳せるのも面白い。実際こういう人々はごまんといたのだろう。自由を求め、そしてそれを阻止した人々。過去の設定だが、この不毛な攻防は後世に語り継がれるべきものではないだろうか。


★★★★☆ 4.5/5点







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14 Comments

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参りました ()
2013-02-08 20:50:39
『善き人のためのソナタ』はメロドラマでしたけど、こちらはroseさんおっしゃる「あっさり感や無表情」が硬質なドラマにしていましたね。この映画、好きです。それにしてもヒロインの「隠しても隠しきれない官能」はすごい。参りました。
雄さん (rose_chocolat)
2013-02-08 21:43:49
私も結構参りましたよーこれ。
硬質な映画って最近なかなかなくて。
何でもしゃべったり種明かしたり、そんなふにゃふにゃの映画に飽き飽きしている私としては、かなり満足です。
官能だって、やたら見せればいいってもんじゃなくて(笑)、こういう部分の表現って非常に大事だと思うんですよね。
こんばんは。 (sannkeneko)
2013-03-22 21:36:04
不要な回想シーンもなければ、説明は最小限。
バルバラがピアノを弾くまでそういえばBGMがなかったんだ・・・と気付くほど。
不要な演出は一切なくても緊迫感や心情は伝わってくる。
ラストのふたりの表情も秀逸でした。
sannkenekoさん (rose_chocolat)
2013-03-23 14:38:18
最近は余計な説明が多過ぎたり、足りな過ぎたり、ちょうどいいテイストの作品がなかなかないんですよね。
なのでこれは内容も含めてとっても気に入りました。
こういう上質の作品が増えてほしいですね。
秘めた官能 (えい)
2013-03-24 17:45:58
こんにちは。

この映画の魅力は、
ヒロインの“秘めた官能”でしょうね。
秘めているがゆえに、
よけいに狂おしくそれが見え隠れする。
もし、
それがなかったら
自分自身ももっとうまく隠せていたかも…。
よく考え抜かれた映画だと思います。
えいさん (rose_chocolat)
2013-03-26 07:46:04
美しい人ってただでさえ目立ちますよね。そして殺風景な田舎町に官能的な人が来たら、もう目が離せなくなる。
そのあたりの計算がとてもなされてました。
こういう話は東西冷戦時代ならではなんだと思います。物悲しいけどこういう話が多かったんじゃないかと。
今日は~ (小米花)
2013-07-30 17:13:12
抑えた表現が現実味を帯びてたように思います。

東欧らしさっていうのは、これカナって思いました。
いい映画でした。

壁崩壊後の彼女、どうなるのでしょうね。
私は変わらず田舎町で淡々と生きてくような気がします。
途惑う東で懸命に生きた人も多くいたはずですからね。
小米花さん (rose_chocolat)
2013-07-31 08:12:40
抑え目な作品が好きなんですよね。これでもかと出しまくるのよりは。

>途惑う東で懸命に生きた人も多くいたはず
経済格差もあったし、生き残るのは大変だったと思うんですよね。
それでも彼女なら生き抜いたと思います。
大人な映画でしたね (maru♪)
2014-01-02 01:31:09
とっても大人な映画でしたね!

とにかくバルバラが良かったです!
おっしゃるとおり、隠しきれない官能ですよね・・・
地味な服装の中に見える女性らしさとか、センスがいいです!

当時の東ドイツの状況や、シュタージ監視下に置かれることなども描きつつ、
バルバラの医師としての誇り、恋愛、ステラに対する思いを描くのも上手いと思いました。

ライナー医師がイケメンじゃないものイイです(笑)
maru♪ちゃん (rose_chocolat)
2014-01-02 10:51:14
そうなんですよ。
隠そうとしても隠しきれない官能。
こういう作品って今、なかなかないだけに、本当に観てよかったと思うんですよね。

自由を求めた冷戦時代の映画って、非常に厳しい現実を描いてると思います。
もちろんこんなにドラマチックじゃないと思うけど、その中で懸命に頑張った姿を残したいという想いも私は好きでした。

>ライナー医師がイケメンじゃないものイイです(笑)
だよね。あそこでイケメンじゃいかにもです(笑)

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