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観たい映画だけしか観てません。今忙しいんでいろいろ放置

『1/11 じゅういちぶんのいち』 (2014) / 日本

2014-04-09 | 邦画(か行・さ行)


監督・脚本: 片岡翔
原作: 中村尚儁
出演: 池岡亮介 、竹富聖花 、工藤阿須加 、阿久津愼太郎 、上野優華 、東亜優 、古畑星夏 、大竹七未 、河井青葉 、久遠さやか 、鈴木一真 、奥貫薫

『1/11 じゅういちぶんのいち』 公式サイトはこちら。



「ジャンプスクエア」(集英社)連載の中村尚儁による人気コミックを実写映画化した青春群像劇。サッカーを通じて成長していく主人公・安藤ソラと周辺の人々の姿を描いた。自分の才能に限界を感じ、中学卒業と同時にサッカーを辞めると決意した安藤ソラは、女子日本代表の若宮四季との出会いにより、内に眠っていた何かが突き動かされていく。(映画.comより)



片岡監督作品は多く拝見してまして、今回は念願の長編デビューということで楽しみにしていました。
過去鑑賞日記はこちら ↓

Short Shorts Film Festival & Asia 2010

第32回ぴあフィルムフェスティバル PFFアワード2010

片岡翔監督特集@下北沢トリウッド

Short Short Film Festival & Asia 2011

Movies-High11 片岡翔スペシャル

Anotherへのオマージュ / 片岡翔特集上映「翔ぶ映画」

映画を聴いて音楽を視る会「くらげミタイな猫」


ショートフィルムで経験を積んで、受賞も経験して、満を持しての長編デビューということで、
拝見する側としては尚更嬉しく思います。

個人的に好きなのは『くらげくん』と『ぬくぬくの木』
いつも思うことは、細部、ディテールにとてもこだわっているということ。小物やちょっとした場面でも手を抜かないっていうことなんだと思います。
ファンタジックな世界において、特に年少者や子どもを起用しての作りがとても上手いなと。上記2作品は、ピュアな世界特有の「きらめきを封じ込める」ことを感じさせる。特にこれに関しては本当に才能のある方なんだなと思うんですね。たぶん監督ご自身がピュアな感性をお持ちで、そこに焦点を当てたいという意識がおありなんじゃないかと。子どもの世界、まだ真っ直ぐで純粋で、どこまでも無邪気な時代のことをいつまでも忘れたくない。そこに原点回帰する作品を作ることは、観客にも忘れていた何かを呼び覚ます。きっとそんな役割を担って行かれる映画監督なのでしょう。


さて本作について。 ちなみに原作は未読です。
高校生の群像劇、部活を扱うということで、どうしても『桐島、部活やめるってよ』が思い浮かべられてしまうのかもしれない。どちらも原作は章立てになっているということで、『桐島・・』で原作を読んでから映画を観た私としては、章立ての原作から1本の映画にまとめることがどんなに大変な作業かということはわかるつもり。エピソードで完結しているものを敢えてバラして1つのものにしなければいけない、さらに原作の意図も伝えないといけない。

なので脚本がきちっとしていることが鉄則になってくるのだけど、この問題を本作は見事にクリアしていたように思う。ここはさすがに片岡監督の、脚本家としてのキャリアが見事に生きてきていましたね。どことどこをつなげて、どれをカットして、何を見せ場にするか。ここがきっちり押さえられているので鑑賞していて非常にスムーズに入ってきました。
よく「結末は観客に投げる」タイプの作品ってありますが、特に青春映画だと投げ方があまりにも突飛すぎてついていけないケースもあって、「それが青春映画なんだから」ということで完結してしまっていることもままあるんですが、そこが空中に浮いたまま終わってしまうことが果たしていいのか?と思うこともしばしばあって。青春なんだから訳が分からない、説明できないことがあってもいいんじゃないか的な。確かに実生活ではそれでもいいと思うんですが、そこは映画なので、何らかの答えを観客自身が掴めるようにしないといけないと思うんですね。

その問題に対して本作はとてもシンプルに、スマートに答えを導けるようにしていました。
安藤ソラと若宮四季とのエピソードを軸にして、対比させる人物として越川凛哉と野村瞬を配置し、サッカーでまとめる。登場人物に共通するものは「自分が本当にやりたいことは何か」ということ。過去に縛られる生き方を引きずらない、誰に何を言われてもいい、自分で本当にしたいこととは何なのかを見つけたり、そこに向かう人を見守ったり。中には叶わない夢もあるかもしれないが、それでもそこに向かったことに悔いがないと思える自分でいたいし、周囲もそれを認めてあげる優しさを持っている世界。そこを表したかったんじゃないだろうかと思うんです。

実際にこの世代の子を持つ親としての目線だけど、「中高生のスクールカースト」は昔から厳然と存在しているし、現実はもっともっと厳しいものもあるけれど、実は本当に言いたいことはほとんど言わない、言えない空気の中で子どもたちは生きているんじゃないか、そしてその息苦しさは親世代よりももっともっとキツくなってるんじゃないだろうか、というのが実感です。
主張したいのにできない苦しみが日々続いてしまうから、余計に他者への視線が厳しくなり、自分とは違う価値観を持つ者に対して排他的になる。そんな子の代表が七海や愛莉や加瀬であり、『桐島・・』での梨紗や沙奈であり、威圧感を持つ彼らのような子に逆らえないで過ごしている多くの子がいる現実がある。
若さ溢れる思春期であっても心が折れそうになること、あきらめたくなることに子どもたちは囲まれているけど、そこから敢えて自分の夢に向かって宣言していけるかどうか。自分の転機を、他人に左右されることなく決めていけるようになっていけたらどんなにか強くなれるだろう。そして四季が秘めていた想いの深さ、思いやりのあるまなざしも、強くなろうと決めた人にとっては大いなる後押しになっていくんでしょう。
若いときは往々にしてそれが流されてしまうだけに、今何かに悩んでいる子がいたらぜひ観てほしいという心境ですね。

他人に負けてしまうんじゃないかという「自分の弱さ」に立ち向かったソラ、凛哉、瞬はまぶしく見えましたね。彼らは本当に堂々とした演技。工藤阿須加くんは工藤公康氏のご子息ということで面影あります。プロテニスプレイヤーを目指していたそうですがそちらはやめて俳優になったということで、この登場人物たちと重なる部分もあったんじゃないでしょうか。
この高校生世代の親役に鈴木一真さん、奥貫薫さんなんだなあというのも歳月の流れを感じたり。そして久しぶりにスクリーンで拝見した久遠さやかさんが懐かしい。
四季の見せ方も上手かったですね。竹富聖花さんの「目力(めぢから)」も迫力ありました。サッカーのシーンも、本気で相手に何かを伝えたいんだということを最大限見せてくれていたように思う。
何が見せ場なのか、どこを見せたらいいかもきちんと考えられていて、シーンへのこだわり、例えばカメラワーク1つ取っても本当に気を遣っているのが伝わってきます。さりげなく、しかしながら丁寧に作られている作品というのはやはりいいものだなと改めて感じますね。


★★★★ 4/5点







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10 Comments

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ありがとう! (mig)
2014-04-12 12:33:25
Roseさん、いつも観てくれてありがとう!
これまで見てきてくれた上での、
脚本に関しても言及したレビュー、さすがRoseさん。
映画の内容だけに終わらずしっかり
こちらに想いの伝わる文面

今後とも色々な作品をつくっていくと思うけど
応援宜しくお願いします★
キラキラとまぶしい (ノルウェーまだ~む)
2014-04-12 23:45:00
roseさん☆
ピュアな世界のきらめきを閉じ込めるのがうまい翔監督、本当にroseさんの言うとおりですねぇ~
純粋な子供のようなきらめきと、大人の包容力を兼ね備えた翔さんの作品、これからも楽しみですね☆
きらきら~ (小米花)
2014-04-13 23:08:52
rose_chocolatさんの記事で
「ピュアな世界のきらめきを閉じ込めるのがうまい翔監督」
というフレーズにうなりました。
そう!!それが言いたかったですヨ。

さずが多くの映画をきちんと見ておられる方の言葉ですね~。
翔監督らしさを感じた、とてもいい映画でした。
ピュアでリアル (maru♪)
2014-04-15 00:23:26
ピュアでファンタジックでありながらリアル。
いつも翔監督の作品を見て感じていることです!

roseさんは同世代のお子さんがいらっしゃるから、
親目線で見る部分もあったのでしょうか?
見る人の世代、状況などによって、目線が違いつつも、
同じような感動に包まれるというのは、
映画としてとっても正しい姿だと思うのです。

このままの感じで行って欲しいですよね!
migちゃん (rose_chocolat)
2014-04-15 11:27:41
翔監督作品を結構拝見してるので、
ああこの場面は懐かしのあの作品をオマージュしてるんだろうなーとか、
長編作るにあたって今までの成長とでもいえばいいのかな、そういうことも感じることができて、
私も感無量でした。
これからも羽ばたいていただきたいですね。
ノルウェーまだ~むさん (rose_chocolat)
2014-04-15 11:28:47
>純粋な子供のようなきらめきと、大人の包容力を兼ね備えた翔さんの作品
そこを両立させることができる力量がおありですからね。
これも素晴らしかった。
さらなるものを目指していただきたいです。
小米花さん (rose_chocolat)
2014-04-15 11:30:11
>翔監督らしさを感じた
ですね。
「本当に自分がしたいこと」をとことん追求するということ、
監督の生き方でもあり、本作のテーマでもありました。
ブレていないところが素晴らしかったです。
maru♪ちゃん (rose_chocolat)
2014-04-15 11:34:11
>親目線で見る部分もあったのでしょうか?
それもありましたね。
今の子たちって、私たちが中高生だったころよりももっとも先鋭化してはいるけど、同時にもっと息苦しくなっているんじゃないかと思います。
言いたいことが言えない、したいことをできない。
夢をあきらめなければいけないことが昔よりも多い時代です。
だからこそ、ここに出てくる子たちが自分の信念に正直になれたことがよかったと思いました。

>目線が違いつつも、
>同じような感動に包まれるというのは、
>映画としてとっても正しい姿だと思うのです。
その通りですよね。
人によって見方が違うので、どこがよかった、ということがそれぞれ別でも、新しい発見にあるし刺激があるし。
いい作品でした。
こんばんは (ノラネコ)
2014-04-22 22:53:17
公開されているの知らなくて、ロゼさんい言われなければ見逃してたかも。
いや瑞々しい良い映画でした。
決して器用な作品ではなく、むしろ不器用さが目立ったりするんだけど、そういうところも含めてひた向きな熱が伝わってきます。
長く記憶に残る作品になりそうです。
ノラネコさん (rose_chocolat)
2014-04-26 09:36:00
>瑞々しい良い映画でした。
よかったー。
少しはお役に立てたようです。

>決して器用な作品ではなく、むしろ不器用さが目立ったりするんだけど、
>そういうところも含めてひた向きな熱が
その熱っぽさがある映画って今は少ないでしょう?
綺麗にまとまりすぎてるのもいいけど、こういう熱のこもった作品もいいもんです。

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