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『風立ちぬ』 (2013) / 日本

2013-07-13 | 邦画(か行・さ行)
監督・脚本・原作: 宮崎駿
声の出演: 庵野秀明 、瀧本美織 、西島秀俊 、西村雅彦 、スティーブン・アルパート 、風間杜夫 、竹下景子 、志田未来 、國村隼 、大竹しのぶ 、野村萬斎
試写会場: よみうりホール

映画『風立ちぬ』 公式サイトはこちら (2013年7月20日公開)


宮崎駿の『崖の上のポニョ』以来5年ぶりとなる新作は、零式艦上戦闘機(零戦)を設計した実在の人物、堀越二郎と、同時代に生きた文学者・堀辰雄を織り交ぜた主人公・二郎の姿を描く大人のラブストーリー。大正から昭和にかけての激動の時代を生きた人々の物語がつづられる。(Movie Walkerより)



零式艦上戦闘機(ゼロ戦)の設計主任として知られる堀越二郎の黎明期と、堀辰雄の小説『風立ちぬ』の恋愛部分のエピソードを掛け合わせることによって誕生した本作。

堀越二郎 wiki

堀辰雄の小説『風立ちぬ』 wiki

これまでは映画ごとのテーマを前面に出し、どちらかと言えば子どもが観ることを念頭に置いて作られてきた宮崎監督作品だが、本作は明らかにお子さま向けではない。かと言って全く子どもにはわからないのかと言えばそうでもないのだろうが、小学校低学年くらいまでの子には話が大人過ぎていささか退屈に映るかもしれない。この日の試写も幼児が途中で飽きてぐずることもあった。小学校高学年くらいの子はじっと観ていることができていたので、彼らの年代にとってはこの話は入って来るものだったのだろう。

この映画では「4分間の劇場予告」があり、恐らく映画を頻繁に鑑賞する人は幾度となく本編の前にこれを観ていると思う。予告は荒井由実の「ひこうき雲」を丸ごと流しながら映画の概要をかいつまんで紹介しているものである。これを観る限り、ゼロ戦設計者の話、時勢がどんどん悪化していく1920年代の日本が背景ということで、反戦だったりナショナリズムを鼓舞する内容なのかとも推測したりもしたが、実際に全編を拝見して結果はそのどれもが違っていた。正直安堵した部分があった。



堀越二郎はあくまでも自分の目標や夢に忠実な人間として描かれている。彼の夢は言うまでもなくいい飛行機を作ること。そして輝かしい学歴を持って飛行機設計の仕事に就く。しかしながら時は1920年代、当時の日本は不景気と震災が貧困に拍車をかけ、さらに満州事変前夜の混沌とした政局にあって、技術者たちの才能や希望はその後突き進んで行く戦争に向けて費やされていったと言っても過言ではなかった。
優秀な二郎も当然その歴史の歯車の中に否応なしに組み込まれていく。いくら理想を追いたいと考えていてもそれは歴史の許容範囲の中でしか実現はできない。現状をどうしても受け入れられなくて転覆させようとする者もいたが、戦争に向かう当時は非常に決断が要る事で、生活基盤を壊してまでも反体制に走る者は少なく、大多数の人は己に差し出された運命を黙って受け入れるしかなかった。

この物語はその「大多数の人」の話なのである。普通に生まれ、才能を生かして夢を追った多くの人の話。結果その夢が叶ったかどうかは別として、夢を追うことだけは万人に許される。
全てのものは動いていく。滅びゆく。形あるものは消える。それでも人は生まれている。生まれたからには生きねばならぬ。しかし漫然と生きる訳には行かない。例え自分の運命が滅亡の方向にあるのだとしても、最後の瞬間までそれでも人は原動力がなければ生きられない。

そういう意味では二郎の夢は叶ったと言えよう。それは彼が持つ才能や努力の結果でもある。しかしながらそれは自由な時代ではなく、多くのことを制約された中での自由である。例え彼が作ったゼロ戦が一機も帰還しなかったとしても、その中での夢の実現でしかなかった。可能であれば機関銃や爆弾など積んでほしくなく、また自分が設計した飛行機が人を殺すこともなく、平和裏に夢を叶えたかったに決まっていただろうが、運命というものはそんなに綺麗には行かない。その中でも生きていくしかない。

そして菜穂子もまた「夢は叶った」。上流階級に育ち不自由なく生きてきた彼女ですら、「多くのことを制約された中で」生きねばならなかった。彼女を阻んだものはいずれ彼女を消し去ると分かっていたからこそ、二郎との再会の中で決心したことを貫き通したかった。二郎と菜穂子、二人がかけがえのない伴侶であることが互いに分かっていたからこそできた決心がある。しかしながら菜穂子にはそれをさらに上回る想いがあった。その想いは二郎へのものであると同時に、彼女自身の生き方に対してのけじめでもあったのだろう。二人の誓いを更に超えた判断、菜穂子の生き方に対する答えは、最後の堀越加代のセリフに集約されている。

それにしても、こうして約90年前の物語を観ることによって、最早その時代の空気も風景も人々の気質も、ほぼ全て劇中で目にするものの殆どが、現代の日本からは消え去っていることに気がつく。例えば縁ある者に突然自宅で挙式したいと言われた時、対応できる知恵もなければ所作も知らない。それを90年前の人は立派にやってのけたし、またそれがたしなみでもあった。
代々受け継がれてきた伝統、それは日本人が慎み深く生きていくためのものであることが多いが、それらが薄らいでいく一方で、時が流れてもなくならないものもある。例えば二郎と菜穂子の出会いのシーン。未曾有の損害をもたらした関東大震災に遭遇した時に他者に対して捨て身になれる姿勢は、先の東日本大震災でも恐らくはあっただろう。

受け継がれていくものと消えゆくもの、どちらも必定であることに変わりはない。そして自分が生まれ落ちた時代もまた様々だ。完全な自由を求めるのはいつの時代でも難しく、何らかの制約の中で人は生きねばならない。違いは、その制約が大きいか小さいかだけだろう。自分に与えられたカードがどのようなものであったとしても、人は生きねばならない。そして生きるために人は原動力を必要とする。どんなに将来が閉ざされたように見えたとしても、生きるための糧があれば、そこからまた希望が生まれてくる。

二郎も菜穂子も、そんな時代に生まれ、そして生きていった。
「風立ちぬ」の原作は、「私」と「節子」が2人に残された時間を語りながらじっくりとお互いを見つめている文学作品だが、あくまでもお互いの想いに終始していて閉鎖的な印象がある。その愛の物語を堀越二郎の半生に絡めることによって、今回映像として立体的になり、イメージもより現実的に開花していった。4分間の予告の最後の方に出てくる、菜穂子(この「菜穂子」という名前はやはり堀辰雄の小説「菜穂子」から取ったのだろうか。)が和服を来てゆっくり歩いてくるシーンなどはまさにこの小説を映画化した意義があったと思わせる。あのシーンこそが、菜穂子の夢であったからだ。
この二人に関しては生々しい描写やエロスの香りがするのも宮崎監督作品には珍しく、その分、映画を通じてテーマを投げかけるというよりも、観客が現実の世界でこの映画をどう解釈するかを重要視しているように感じる。

何がどう、と映画から言い聞かせる部分はこれまでの作風とは違って減っている。代わりにその人間にしかできない「生きた証」を残すことが本能だと改めて気づくことができ、そして監督ご自身も証を残したいと感じているからこそ、本作が生まれたのではないだろうか。
とにかく観た後に、一切他からの感想などは必要なく、また他の評を読みたいとも思わせず、自分だけの『風立ちぬ』を再度考えたくなるような作品で、こんな感覚はきっと初めてのものだ。あくまでも観た人が自らその意味を問いかけ、『風立ちぬ』を自分の人生に重ね合わせたくなるこの感覚、鑑賞した人なら恐らく合点がいくはずだろう。


★★★★★ 5/5点





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34 Comments

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生きねば (まっつぁこ)
2013-07-18 11:00:04
「なまきねば」と読む人がいたそうです。ばかにされてましたが、
ふつう「いきねば」と読みそうなところ、よくそんな読み方できたなとわたしは感心しました。(笑)
評判の悪い声優ですが私はよかったと思います。
帝大トップの理系男子ですから(声優さん)が立て板に水のようなセリフ回しで語ったら、かえってそんなのおかしいだろと・・・(笑)
見てみようかしら。。。 (小米花)
2013-07-18 13:59:33
今日は。

この映画、86才の母が見たがってて、上映館と時間を教えてあげる事になっています。
アニメは映画館では見ない私は、私は行かない~って
言っておきましたが、rose_chocolatさんの記事読ませて頂いて、一緒に見ようかなぁと思いました。

多分、母の生きた時代と重なっているのかな、、、って思います。
まっつぁんこさん (rose_chocolat)
2013-07-19 07:38:40
>「なまきねば」と読む人がいたそうです。ばかにされてましたが、
>ふつう「いきねば」と読みそうなところ、よくそんな読み方できたなと
呆れて物が言えないけど、そんな人がこれ観たら一体どう考えるんだろう。考えられるのか?
この映画、日本人がそうやって知性の程度が堕落したことに対しての警鐘みたいな気がしますよ。

>帝大トップの理系男子ですから(声優さん)が立て板に水のようなセリフ回しで語ったら、かえってそんなのおかしいだろと・・・(笑)
これ、敢えて本文には書かなかったんだけど、私は違和感あったなあ。
「たあれが・・・」の部分とか特に。
まあ、監督が使うんだ!っておっしゃったんだから絶対なんだけどね。
小米花さん (rose_chocolat)
2013-07-19 07:39:53
>rose_chocolatさんの記事読ませて頂いて、一緒に見ようかなぁと思いました。
>多分、母の生きた時代と重なっているのかな、、、って
ありがとうございます。ご覧になってみて下さい。
きっと、お母様もお喜びになられると思いますよ。
ぜひお母様の感想もお伺いしてみたいです。
T大理系男子 (まっつぁんこ)
2013-07-19 22:32:50
甘くみちゃダメよ。普通じゃないから。
合コンで相手に関係なく化学の実験レポートの話を2時間する輩。よくわかってるかな(笑)
「たあれが・・・」の部分かどうかわからないけどちょっと・・・というところはあったけど全体的には、みんなが感じるほどの違和感は私は感じませんでした。ゆっけはひどいと言ってたけど(笑)
まっつぁんこさん (rose_chocolat)
2013-07-20 09:09:29
>甘くみちゃダメよ。普通じゃないから。
それはわかってますよ。そういう子いっぱい周りにいますから(笑)
あの、何の脈絡もない話の羅列はいい加減にしないとと思うけど、本人たちがもうあのしゃべり方とか思考回路だと無理だわな。

>みんなが感じるほどの違和感は私は感じませんでした。
早くもTwitterではかなりなdisられ方ですね。
観ないで文句言う奴はほんと止めてほしいと思いますけど(笑)
私はアンノ氏の声は違和感はありましたが、それを上回る内容の出来なので、特に問題はないと思いました。
dis (まっつぁんこ)
2013-07-20 12:14:08
そんなにひどくdisられてるんだ。
「耳をすませば」の立花隆にくらべたら1000倍よかったけど(笑)
まっつぁんこさん (rose_chocolat)
2013-07-20 12:41:49
まあ、わからんとか、つまらんとか、そういう意見は一切無視していいと思います。
まして見もしないで文句言う意見は論外(笑)

自分で考えさせるのがこの作品の意図だと思うので、
考えられない方はそれまでです(笑)
こんにちは (悠雅)
2013-07-20 17:15:26
お邪魔が遅くなりました。
roseさんの感想を読ませていただいていたら、
わたしは本当にこの作品に入り込めなかったのだなぁ、と改めて思います。
何歩も外から作品全体を眺めていたという感想で終わったのは残念ですが、
たまにはそんなこともあるのでしょう。
何か、どうしてもそれ以上の言葉が何も出てこなくてすみません。

悠雅さん (rose_chocolat)
2013-07-20 17:25:38
主役の声が・・・ というのは私もとても違和感あった部分でして、時々気にはなったものの、
全体を通じて訴えかけてくるもの、そこから派生していくものの方がはるかに大きく、それで相殺されてしまったというか、上回ってしまいました。

いいものは持っているのに、それがみんな消えていってしまっているのが今の日本にもたくさんある、と考えたらもう止まらなくなりましたね。
選挙の時期と重なって、一体この国はどこに向かおうとしているのだろう、もしかしたら90年後にはあとかたもなくなっているかもしれないという想いもありました。
なので、想像の部分を大きくしながらこの映画を鑑賞したのも確かにありましたね。

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