高知県立美術館で開催中の
ベオグラード国立美術館所蔵 フランス近代絵画展を見てきました。
今回の展覧会はバルビゾン派、印象派、後期印象派、
象徴派、フォーヴィスム、キュビスム、エコール・ド・パリと
19世紀後半から20世紀前半に至るフランス近代絵画の流れを網羅したものとなっています。
写実の系譜~コローから印象派へ
コロー、ブーダン、ドーミエといった印象派のさきがけとなる写実主義の画家から
モネ、シスレー、カサット、ピサロ、ドガの印象派の画家の作品で構成されていました。
コローの作品は3点展示されていましたが、
コロー独自の銀灰色に煙るような大気よりも
森や田園風景を描き出した豊かな緑の質感が印象的な作品群でした。
「ポール=ベルトーの公園にて」は
緑の森の中光に照らし出された白いドレスの女性が印象に残る作品です。
ブーダン「さくらんぼのある静物」
テーブルクロスの白と壁の茶色が支配する画面の中
赤いさくらんぼがアクセントとなっており、
このさくらんぼに目を奪われてしまいました。
モネ「ルーアン大聖堂/ピンクの大聖堂」
ルーアン大聖堂を描いた連作の一つで、
硬い石で出来ているはずの大聖堂が、薔薇色の光に溶け込んでいくような錯覚を受ける作品です。
カサット「猫を抱く少女」
今回の展覧会で見た作品の中でも私が「これいいな!」と思った作品の一つです。
少女の表情もいいのですが、
ひざの上にいる猫(大きな猫です)の気持ちよさそうな表情がとても印象的でした。
ドガの踊り子の習作が数多く展示されていました。
バレリーナだけではなく、エジプトの踊り子の習作もありました。
ドガは数多くのデッサンをすることによって、
多くの傑作を生み出して言ったのだということがよくわかる展示でした。
ルノワール~身近なものたちへの眼差し
今回の展覧会で最も数多くの作品が展示されていたのがルノワールです。
今回の看板作品といえる「水浴する女性」はかつて盗難にあい
画面に大きな損傷を受けました。
一年近くかけて修復された作品が展示されていました。
正直に言うと私はあまりルノワールは好きではないのですが
(好きな方申し訳ありません)
今回展示されていた小品の静物画や風景画、
「ギター奏者」の連作デッサンなどは、素敵な作品だなと思いました。
ルノワールという画家の違った一面を見ることが出来たように思います。
参考作品としてひろしま美術館所蔵の「パリスの審判」「麦わら帽子の女性」が出品されていました。
これは「水浴する女性」と同じモデルを使った作品という意味合いで展示されていたようです。
印象主義を超えて~後期印象派と象徴派
後期印象派・・・セザンヌ、ゴーギャン、ゴッホ
新印象派・・・シニャック
ナビ派・・・ボナール、ヴュイヤール
象徴派・・・モロー、ルドン、カリエール
そのほかロートレック、ヴァラドン、ロダンらの作品で構成されていました。
ロートレック「若い女性の肖像(リヴィエール嬢)」
ロートレックには珍しい油彩画で、正統的な手法で描かれた肖像画です。
一般的なロートレックの人物画はデフォルメが著しく
歌手イヴェット・ジルベール(今回彼女を描いたデッサンも展示されていました)の周囲の人間は
彼の描いたジルベールの肖像に大きく反発していたほどです。
ロートレックの意外な一面を見ることの出来る作品です。
ヴァラドン「バラを活けた花瓶と東洋風のカーペット」
ルノワールらのモデルを務め、
後に画家となったシュザンヌ・ヴァラドンの作品です。
鮮やかな色彩で量感豊かに描かれた薔薇の花が印象に残ります。
ヴァラドンはユトリロの母として知られていますが
彼女自身個性を持った画家であったことがよくわかる作品です。
モロー「疲れたケンタウロス」
モロー美術館所蔵の「死せる詩人を運ぶケンタウロス」と
ほぼ同じ大きさ、同じ構図で制作された作品です。
使われている色彩もほぼ同じなのですが
ベオグラードの作品のほうが空の色がやや明るく感じます。
(私はモロー美術館の作品を見ていないのではっきりと比較できないのですが)
もっと大きな作品だと思っていたのですが、意外に小さな作品でした。
この詩人は特定の詩人ではなく、
モローが作り上げた「神との仲介者」としての詩人です。
この詩人の魂はすでに神のもとへ還っているように思えます。
ルドンの木炭画5点が展示されていました。
一見奇怪な幻想光景なのですが、
ただ不思議なだけではなく、どことなく孤独や寂寥を感じます。
この「黒」の世界の中に、後年の色彩が封印されていたのだと思うと
ルドンの黒の世界の奥深さをより痛感します。
20世紀絵画の旗手たち~フォーヴィスム、キュビスムとエコール・ド・パリ
フォーヴィスム・・・ヴラマンク、マティス、ドラン、ルオー他
キュビスム・・・ピカソ他
エコール・ド・パリ・・・ローランサン、ユトリロ、キスリング他
以上のような構成でした。
マティス「窓辺」
マティスといえば「金魚」(プーシキン美術館所蔵)のような
鮮やかな色彩で構成された作品のイメージが強いのですが、
この作品は白を基調とした画面構成になっています。
白い服の女性、白いカーテン、窓から見える風景も色彩は控えめです。
ユトリロ「サノワの療養所」
色鮮やかな画面に人物が大きく描かれた作品です。
一般的にユトリロと聞いて連想する
白い壁の家々の立ち並ぶ哀愁漂う風景画というイメージを覆すような作品だと思いました。
ベオグラード国立美術館の作品は
東西冷戦、その後の紛争などで長らく国外でその存在が知られることがありませんでした。
今回出展されていた作品の作者はほとんどが有名な画家なのですが
意外な一面を見せてくれる作品が多く展示されていたように思えます。