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秋の映画覚書~『フラガール』

2006-11-14 | 映画【劇場公開】
 常磐ハワイアンセンター(現在の名称はスパリゾート・ハワイアンズ)と言えば、昭和40~50年代に関東圏内に在住していた人なら、TVCMとかでお馴染みの観光名所、ではないだろうか。当時、スレたガキであった私は「はあ?なんで常磐にハワイなのよ?」と半ば失笑気味に横目で見てたりしたのだ…が。
 すみませんでしたっ! もうね、行きたくなったよ常磐! コレ観た殆どのお客さんは福島にフラダンス観に行きたくなるハズ! 地元振興・宣伝映画(笑>という側面はかなり重要だと思う)の戦略に、気持ちよくノセられちゃうよ~!
 フラダンスはポリネシアン~ハワイアンのもので、日本人の踊りじゃない。しかもハワイは南国だけど、常磐は東北。でもいいのよ! 日本には数多の舶来文化の和製展開があり、意識するか否かは別としてそのキッチュさを愛してきた歴史があるじゃないか!(代表はやはり宝塚?) キッチュの極地は、マガイモノを本気でやってこそ。そこにはマガイモノにしかない輝きが、美しさがあるんだよね(涙)!

 現在も絶賛ロングラン中の本作、上記の如く感嘆符満載で力説したくなるのも道理、と納得してくれる方も多いだろう(笑)。この映画がヒットしているのは、素直に良いことだなあ~、と言える。
 ツクリはハッキリ言って、泥臭いまでにベタである。でも、それがイヤらしくはない程よいベタ。時代背景は昭和40年代の福島県いわき市。とはいえ、近頃の食傷気味なノスタルジー~田舎はイイよブームとは一線を画した、普遍の物語である。すなわち負け犬巻き返しモノ、或いは若者達が中心となって閉塞した田舎町で活路を見出し夢を叶える成長モノ。
 閉山寸前の炭鉱/雇用~生活の危機に直面する労働者/ダンスときたら、否が応にも英国産『リトル・ダンサー』を想起せずにはいられない訳だけど、ソックリなシーンが随所に見られます(笑)。でも、ソレはやっぱ無くちゃいけないんだよね。リトル~が父息子なら、コチラは母娘。家族だからこそ一層激しい、世代変化による生き方の対立、そして超克。その軸の立て方がブレないからこそ、泣きに繋がるわけだし。しかも、古の美貌の頃には緋牡丹博徒のお龍姐さん@冨司純子が、炭で汚れて女の細腕一本で子供2人を育てた肝っ玉母さんに成り切ってるのだ! この際、「蒼井優の母ちゃんじゃ、無理あり過ぎでは…」ってツッコミはナシね(笑>まあ、もう一人の子供がトヨエツなんで…優ちゃんは恥かきっ子というヤツか^^;;)。 泣き落としシーンでの東映仕込な大芝居さえ、彼女がやるからこその納得展開。ラスト間際で、人目を気にしつつ娘の晴れ舞台を見つめ、やがて喝采する姿も母物王道である。

 この映画、前記事の『キンキー・ブーツ』とも少し共通点があるし“姐御モノ”と括っても良いかもしれない。その場合、姐はもちろん冨司純子ではなく(笑)SKBの踊り子から落ちていわきに流れてくる松雪泰子@まどか先生ということになるだろう。なるほど、やさぐれてダメ人間化した彼女の再生モノとした映画、と観ることも可能だ。
 しかし私の場合は、それよりやはり、いわきのイモ娘っコたちが生活のために必死でフラを踊る、その過程と青春成長モノ的方面に思い入れてしまう。となると、やっぱり主演女優は蒼井優@紀美子であろう。優ちゃん、今現在おさげさせたら日本一! しかもウマいし素朴な可愛さ満点だし、今回は何はともあれ彼女ありきの役どころだから、もちろん素晴らしいですよ。
 ---が、実は私的に最も目を惹いた、心を奪われたのは、彼女の親友・早苗@徳永えりというキャラクターだった。今年度の日本映画マイ・ベスト助演女優賞は、彼女をおいて他にない。

 そもそも、この映画のファーストシーンは早苗から始まるのだ。全ては彼女のフラダンスへの憧れ、炭鉱町の中で埋れるだけの人生じゃなく、ほかの道があるんではないか、というささやかな夢から始まる物語だったのだ。彼女は、親友の紀美子とその夢を分かち合いたかった。けれど物語の途中で、彼女は夢をあきらめなる他なくなってしまう。解雇された父親の次の仕事先である夕張へ、去っていかねばならなくなる。
 実のところ、私がこの映画で一番涙ツボ押し捲られたのは、ボタ山に並んで座る早苗と紀美子の別れのシーンである。紀美子は、早苗がフラに誘ってくれたことで自分の人生の目的が見つけられたのだ。炭鉱の娘、以外の道を選べたのだ。だから、早苗がいわきを去らなくてはいけないことが本当に辛くて悲しくて、遣り切れなくて、思わず「早苗がやめるならおれだってフラなんかやめる!」と言うのだが、早苗はピシャリと諌める。「紀美ちゃん、それ本気で言ってるの? そんならもう紀美ちゃんとは絶交だ。…紀美ちゃんがフラをここで頑張ってると思えれば、おれだって頑張れるもの。(いわきのフラガールが)新聞にのるくらい有名になったら、このコは友達だって自慢するんだから」 ---って、もう思い出すだけで涙が出てきちゃうほど。

 紀美子が母にフラを猛反対され、大喧嘩をして家を出るシーンがある。そこで紀美子は「おれの人生はおれのもんだ! おれが選んで何が悪い!」というような意味のことを叫んで、母に打たれる。紀美子の気持ちは、痛いほどわかる。でもこの場合は、母が正しいのだ。口惜しいけど紀美子はまだ子供で、自立できないのだから。けれども彼女は、恵まれているのだ。片親だけど、歳の離れた兄がそれこそ“人生を選ぶ”なんて意識のないまま、炭鉱で稼いで生活を支えてくれている。そして、兄は若い妹の夢を影ながら応援してくれる心優しい存在だ。
 けれど早苗には、人生を選ぶ自由などなかった。やはり父親だけの片親、そして小さな弟妹の面倒を見なければいけない。その父が仕事を解雇されれば、まだ自活出来ない子供である早苗に、どんな選択が残されるというのか。彼女には、親弟妹を捨ててまで夢を選択することなど、出来なかったのだ。
 フラ仲間や、まどか先生との別離に早苗は微笑みながら「先生。おれ、今まで生きてきてフラ踊ってるときが一番幸せだった。いい夢見させてもらって、ありがとう」---と告げる。この場面でまたもや滝涙になってしまった私は、既にクライマックスは終わった気分になってしまったのだった(苦笑)。
 そう、この映画が多くの人々の気持ちを掴んだ理由の一つに、早苗に象徴される“夢を諦めた側”の描写を、その気持ちの機微を丹念に描いたことが挙げられるような気がする。熱意と努力だけでは、どうにもならないことはあるのだ。
 早苗を演じる徳永えりちゃんは、あどけなく澄んだ表情が魅力的な可愛いらしいコだから、余計にその健気さが際立つ。はっきり言って、このコが出てるときは優ちゃんより目立つくらいだ(…って、話の流れとしては、優ちゃんの役はそれで正しいのだが)。

 もちろん本当のクライマックスは、終盤のハワイアンセンター開幕を飾る圧倒的な群舞~紀美子@優ちゃんのソロ・ダンスシーンであり、そこも泣けたけどね。だから、冒頭で書いたような盛り上がった気分にもなるし、温かい気持ちで観終われる映画なことも確かである。

 ただ、全体的に観れば多少ダレるなあ、とかツメが甘いんじゃ?と感じる部分もあるし、ちょっと芝居が大味な役者が多いのも「ううむ…」という感じだけど、まあそれは些細なことですかな。岸部一徳はいつものような絶妙なユーモアセンスで笑わせ、ときにビシッと〆てくれるし、紀美子のあんちゃん@トヨエツ氏もほんわかした役で良かったしね。しずちゃんの役は…まあ、あれはアレでいいんじゃないかな、てコトで。

 最後に余談になるが、李相日監督は、本当は小さい規模の自由に撮れる映画が撮りたい人なのかもしれない、と思ったりもする。例えば個人的に観た中では、『Borderline』のような鋭さと毒を持つ佳作も印象に残っているもの(やや似たセンの前作『スクラップ・ヘヴン』はアカンって感じだったけども)。
 だけど『69』や本作のようなメジャー感のある娯楽映画も、今のセンスで大胆に、しかもある程度のスケールを持って撮れるところは、今後も生かされて欲しいなあと思う。今作は随分とヒットしているけども、彼自身はこれからが勝負のしどころなはず。試行錯誤もあるだろうけど、これからの日本映画界を支える重要監督の1人として伸びていって欲しいものです。

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4 コメント

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監督 (kimion20002000)
2006-11-29 00:25:35
TBありがとう。
この監督には、この成功により、相当な予算が就くようになりそうです。
でも、実験的作品も、忘れずに、創っていく資質の人でしょう。
こちらこそ (shito)
2006-11-29 01:13:30
TB&コメントありがとうございました! >kimion20002000さん
私も、李監督にはガンガン出世して頂きたいです。
最近の邦画は(と言ってもあまり観てはいないのですが・・・)妙にチマチマと内輪ウケ狙いな作品がいっぱいな印象なので、彼のような現代的なバランス感覚があって、大衆性も優れた作品を撮れる人は貴重に感じてしまうのかもしれません。

Unknown (おぐら)
2007-04-11 00:56:31
いまDVDで観了しました。蒼井優の映画女優ぶりがすばらしい。笑顔一発でアブクゼニ稼いでるCM美少女とはスキルが違いまっせ。しかし途中涙のカツアゲ(みうらじゅん談)が過ぎてクライマックスではマヒ状態になってる感も。少しおセンチすぎるかなあ。駅のシーンが異常に長いあたりがちょっとアレですが、私が一番泣けたのはジェイク・シマブクロさんの暖かいウクレレの音色に合わせて展開される宣伝キャラバンのモンタージュ。ありゃずるい。でもこれが映画なんだなあと。「遠い空の向こうに」はごらんになりましたか?炭鉱モノとして非常にテイストが近いです。私はラストで何年ぶりかで映画館で涙したもんです。本作が好きなら是非どうぞ。
涙のカツアゲ(笑) (shito)
2007-04-13 23:56:17
ウマイこと言うなあ、流石我がバースデイメイト先輩みうらじゅん。という訳で、おぐらさん、おばんです。
まあ正直なトコ、そんな感じの映画ですよね~良く出来てるとは思うし、数々の評価も「今のメジャー日本映画界」の中だけで考えれば、それなりに納得なんですけど、感動のインフレ状態に^^;;終わるちょっと前に疲れていた気もします。でも蒼井優ちゃんは良かったです本当に。
『遠い空の向こうに』当然観ております。一応、主演のジェイク・ギレンホール好きですから^^ しかもジェイクの出世作ですしね。コチラは実にウマい方向の“素晴らしきアメリカン・ドリーム”実現映画だったと思います。私も好きな作品です。炭鉱町の物語、の典型ではありますが、典型だからこそ映画における監督や役者の資質が問われるような気がしますねえ。

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