ゲームブックには、その名前の通り、「ゲーム」としての要素(ゲーム的な部分)と、「ブック」としての要素(文学的な部分)とがある。
ファイティング・ファンタジーは、そのどちらの要素においても、独自性を生み出し、一つのスタイルにまで昇華させている。
ゲーム的な部分
○パラグラフ選択により展開していくストーリー
読者が自分自身で考え、迷い、決断する、ストーリーゲームの真髄が、パラグラフ選択という形でゲームの骨格に組み込まれている。
これは非常に優れた仕組みであり、殆どのゲームブックに共通する要素となった。
○シンプルで洗練された共通のルールシステム。
キャラクターに与えられる共通の書式としてのステータスと、サイコロを用いて判定する戦闘その他のルール。
どのくらいのステータスであれば、どのくらいの敵と渡り合えるのか、ひとたびルールを飲み込んでしまえばすぐに理解できる。
食料や戦闘での運試しなど、プレイヤー自らが戦略的に駆使できるリソースがあり、ゲームに駆け引き的な要素が加えられている。
シリーズを通して共通のルールシステムが用いられており、シリーズを通して遊ぶことで、プレイヤー自身が経験を積み、ゲームをより能動的に楽しめるようになっていく。
○緻密に構成されたストーリーのパズル的要素。
ゲームクリアに至ることの出来るルート(パラグラフ展開)はごくわずかである。
そして、(数冊を除いては)ストーリーは引き返すことの出来ない構造になっており、どういう道順で進行(パラグラフ展開)するかがまさにゲームクリアの鍵を握っている。
何度もチャレンジする中で、真のルートを絞り込んでいくパズル的な快感がある。
○詳細に構築された舞台設定。
ゲーム内で探検することになる舞台は、多くは詳細に道順が記述されており、正確な地図を作成することが可能である。
繰り返し遊びながら地図を完成に近づけていくことで、舞台の全貌を知っていくという、まさに「探検」ゲーム(アドベンチャー・ゲーム・ブック)の名に相応しい経験を楽しめる。
文学的(?)な部分
○キッチュでグロテスクな多数のイラスト。
通常の文庫本においては到底考えられないほど、細かに書き込まれたイラストが多数挿入されている。
そのキッチュな絵柄も相まって、まさに、現実世界とは異なった「異世界」(ファンタジー)の雰囲気を感じさせてくれる。
○抑制された簡素だが味わい深い文体。
ファイティング・ファンタジーの文体は簡素だが独特のものだ。キャラクターの性格や内面に踏み込むことは殆どなく、情景や舞台の客観的な叙述を簡潔に積み重ねていく。
それは小説的な描写のためのものでもあれば、ゲーム的な意味をもつものでもある。例えばそこから、キャラクター達の生活や性格が感じ取られることもあれば、さり気なく次の選択肢のための手がかりが鏤められていることもあるのだ。
個人的には、これらは相互に絡み合って、ファイティング・ファンタジーの独自性を成していると思う。これは自然発生的な部分もあるだろうが、シリーズ作品として意識して共通性を与えられた部分も大きいのではないかと思われる。
いずれを欠いても、きっと「別のゲーム」「別のゲームブック」になってしまうだろう。
ファイティング・ファンタジー・シリーズは、ゲームブックの元祖であるが、ただ元祖であるというに留まらず、他のゲームブックにはない独自の哲学を持っていた。
そのことが高い評価を得られた理由にも繋がっていると思う。