老人党リアルグループ「護憲+」ブログ

現憲法の基本理念(国民主権、平和、人権)の視点で「世直し」を志す「護憲+」メンバーのメッセージ

「昔は良かったと言うけれど:戦前のマナー モラルから考える」(大倉幸宏著)

2013-11-27 17:48:55 | 暮らし
駅の改札口では、順番を守らずに人を押しのけ我先に通過しようとする。プラットホームでは、整列乗車どころか人が降りないうちに割り込み、前にいる人を突き飛ばし電車に乗り込む。一部の人ではない、殆どの乗客がそうして電車に乗り込んでいた。空いている窓から乗り込む人、荷物を放り投げて先に座った乗客と殴り合いの喧嘩が始まる。

東南アジアの発展途上国の話ではない。60数年前の「麗しくも道徳と規範に満ちた」大日本帝国の、帝都東京で起きていた事である。

「明治維新が成されてから、江戸時代から綿々と受け継がれていた道徳、規範意識はこの国の進歩と共に地に落ちた」と、明治初頭の大人達は嘆いている。なんだ、今と同じじゃん。

「戦後の教育により、日本人のモラルの低下は目に余るものがある」「戦後、道徳とかモラルが地に落ち、年長者を敬う気風が今の若者達に無くなった、電車の中で席を譲らない彼らを見ていると情けなくなる」。何れも、戦後のモラルの低下を嘆く保守系政治家の言葉であるが、その風潮に、「ちよっと待って!もう一度よく考えてみよう」と疑問を投げかけているのがこの「昔は良かったというけれど~」という本である。

著者は数々の資料、当時の記録などを使用して検証している。先ほど挙げた駅での集団的行動。街の公衆浴場での、ものすごーく汚い振る舞い。職業人達の犯罪。児童虐待、老人虐待とネグレスト。これらが普通に行われ取り締まる法律も完全には機能していなかった。

生活が苦しく子沢山の家庭では、児童虐待もあっただろうし、年金制度もなく、老親は家族が扶養するという法律しかなかった日本の社会では、病気になったお年寄りを医療にも繋げず、爺姥捨てなども横行していたようである。老人の自死率が異様に高かったという事実もある。

当時の日本人はどうも、公共の場での規範意識が薄く、ウチとソトを使い分け、身内や知人に対しては親切で礼儀正しいが、見知らぬ人には冷たいという傾向はあったようでそれは今にも繋がる現象ではある。

しかし、この本は「昔の日本はこんなに酷かった」と論う為のものではない。今の日本のモラルは地に落ちたーと言われるけれどそんなことはない。東日本大震災の直後でも略奪、暴動も起きずに整然と支援品の列に並ぶ日本人の姿は世界の人達を驚かせた。「戦後の日本人のモラルは地に落ちた」というのは、戦後社会福祉を整え、年金制度を確立し、モラルや公共でのマナーの向上に努めて来た人達に対する冒涜であると著者は述べている。

そして何より大事なのは人々の「人権意識」ではないかと私は思った。自分の人権を大事に出来ない人は人の人権も踏みにじる。個人の人権が確立されていない社会は、決してその国の人々を幸福にはしない。社会福祉の財源やレベルが低下すれば、数少ない金品や食料を取り合い、建て前にガチガチに縛られた社会は人々を不幸にする。

そう言えば今回の「自民党新憲法草案」「自由には義務が伴う」」とか書いてあって、個人の人権より「公共の利益」を重視するような内容だった。なんだか、嫌な時代に戻りそうな気がする。

「護憲+BBS」「明日へのビタミン!ちょっといい映画・本・音楽・美術」より
パンドラ

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2 コメント

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やっぱり (SHINKO)
2013-12-02 17:20:09
私の世代は、やる気がない、しらけるなどという言葉の流行った時代です。学校にいじめはありましたし、障害のある子や人に慣れない子などがターゲットでした。昔の方が、扱いがひどかった、という意見には賛同出来ません。じゃ、今がよくて、我慢しとけって、ことですもの。モラルは、親から基本受け継がれると思います。戦争の影が見えます。子供のことに構っておれない、戦後世代に育った人達の子くらいからかと。食う為に生きるのが基準になったら、人らしさはなくなります。
これから、格差社会が一般的にもはっきり見えてくるだろうから、貧しさ故に人に八つ当たりのような、人を踏みつけるような言動を許したくないですね。
これからの子供への教育が大事です。
コメント頂きありがとうございます (パンドラ)
2013-12-03 14:01:38
SHINKO様
コメント頂き有り難うございます。

この本の著者大倉幸宏氏は、単に昔の方が扱いが酷かったーと言っているのではないと思います。
今が良くて我慢しておけ、というのではなく
昔も今も、公共のモラルやマナーを向上させようとしている人達は今も昔もいる筈です。

おっしゃるようにモラルは親から受け継ぎ
子どもは大人達の姿をよくみています。

子どもの教育も大事ですが
大人が他人の事にも関心を持って、困っている人がいたら手を差し伸べる事が出来る社会をつくっていかなければいけません。
食うために生きるのではなく、もっと余裕のある社会、社会福祉も年金も削除される事なく
受け取れる権利を有する社会です。

それと子どもの教育のためにも、せめて
都市部に住む大人達は旅行も含めて移動は
公共機関を親子で利用する方がよいのではないでしょうか。
「席を譲らない若者」の話をよく聞きますが
様々な人達が乗車する公共交通はある意味
社会の縮図です。
席を譲らない事が如何に「カッコ悪い」事なのか学ぶ機会になるのではないでしょうか。

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