「農業と食」関連の話題提供を行っているが、今回は健康に関連する「BMI値」の代わりに「より妥当性がある」と目される「BRI値」の話題を提示したい。
先ずは医療機関を巻き込んだ国の脱メタボを目指した運動の背景や動向あたりから始めて、我が国の健康づくりに関する現状のおさらいをしてみたい。
21世紀に入りそれを契機に、国は国民の健康づくり運動の取り組みを始めている。
既に第一次並びに第二次の運動期間を終了しており、現在は今年から始まった第三次国民健康づくり運動(健康日本21:第三次)の最中である。第一次から第三次までの履歴を纏めると以下になる。
健康日本(第一次):2000年から開始の国民健康づくり運動。健康増進と疾病の予防に重点を置いた運動であり、この運動を推進すべく2003年に健康増進法が施行された。
健康日本(第二次):第一次の結果を踏まえて、2013年からの10年間の計画でスタート。
健康日本(第三次):2024~2035年度を実施期間としてスタート。第二次運動終了時点でも目標に未達の項目がある状況の下、第三次運動の取り組みを推進するために、特に以下の4項目を定めて国民の健康づくり推進を図るとしている。
1. 健康寿命の延伸と健康格差の縮小
2. 個人の行動と健康状態の改善
3. 社会環境の質の向上
4. ライフコースアプローチを踏まえた健康づくり
この国民健康づくり運動の主な眼目は幾つかあるだろうが、やはり最大の眼目であり興味の対象でもあるものは、4つの取り組みの中にある2番目の『個人の行動と健康状態の改善』であろう。この目標は運動開始時点からの懸案であっただろう。
今回紹介したいBMI値とそれに代わり登場してきたBRI値の話題も、この『個人の行動と健康状態の改善』に関連する事柄であり、モノサシである。よって、これ以降は国民健康づくり運動全体を語るのでなく、最も大きな運動の目標である『個人の行動と健康状態の改善』、即ち個々人の健康状態を如何に把握することが、個々人の健康の増進に役立つか、に関して国が現在取っている具体的な行動に先ずは焦点を当てて見ていくこととする。
国が取っている具体的行動を見ていく上で、地域の医療法人のホームページの情報が結構役立つ。今回は「立川相互ふれあいクリニック」のホームページに紹介されている情報をも参考にしながら紹介を続けていきます。この医療法人のホームページには以下の記載があります。
2008年(平成20年)4月から「高齢者の医療の確保に関する法律」により、生活習慣病予防の徹底のために、メタボリックシンドロームに着目した特定健診・特定保健指導という新しい健診・保健指導が始まりました。
生活習慣病で亡くなる人は死亡原因全体の6割を占めるほどです。生活習慣病や重症な病気を発症する前に、今ご自分の生活習慣を見直して健康な生活を送れるように意識していくことがとても大切です。
この情報中のいくつかのキーワードについて詳細を更に紹介すると、
1.生活習慣病には:脂質異常症・糖尿病・高血圧・心筋梗塞や狭心症等の虚血性心疾患・脳梗塞等の脳血管疾患
2.生活習慣病に係る医療費の状況:医科診療医療費総額(29.3兆円)の約30%(9兆円)
内訳(入院と外来両方を合算した額)
悪性新生物:3.4兆円
心疾患(高血圧性を除外):1.9兆円
脳血管疾患:1.8兆円
高血圧性疾患:1.8兆円
糖尿病:1.2兆円 (医療費データの出典:平成26年度国民医療費)
3.生活習慣病に係る死亡割合
悪性新生物:28.7%
心疾患:15.2%
脳血管疾患:8.7%
COPD:1.2%
糖尿病:1.0%
高血圧性疾患:0.5% 合計55.3% (出典:平成27年度人口動態統計)
5. メタボリックシンドロームとは:腹囲85cm以上の男性および腹囲90cm以上の女性
といった内臓脂肪型肥満の状態に加えて、脂質異常・高血糖・高血圧の3つのうち2つ以上を併せ持つ人をメタボリックシンドローム状態の人とする。
メタボリックシンドローム及びその予備軍は、40~74歳の男性では2人に1人、女性では5人に1人存在していると言われている。
メタボリックシンドローム状態を放置したり、更に高進したりすれば、糖尿病・高血圧症・脂質異常症を発症して薬に頼る生活が始まり、生活習慣を見直し改善を行わない場合には心筋梗塞や脳卒中といった重篤な症状へと転帰していく恐れが出てくる。
従ってこのような経過をたどっていくことを避けるべく、健康診断で健康状況をチェックし生活習慣を見直し改善していくことが求められることになる。
そこで、医療機関が行うメタボリックシンドロームに着目した生活習慣病予防のための健康診断である特定健診の意義があり、特定保健指導の意義があることになる。
今回紹介するBMI値もここに登場しております。
その特定健診の検査項目を見てみると、
必須項目として:伸長の計測・体重の計測そして腹囲の計測
尿蛋白・HDLコレステロール・GOT・GPT・γ-GTP・空腹時血糖・HbA1c・尿糖測定
上の特定健診の検査項目の中には、個人でも容易に測定できる項目がある点に着目して欲しい。 即ち、「伸長の計測」と「体重の計測」そして「腹囲の計測」の3つであり、今回紹介する情報に出てくるBMI値は「伸長の計測」と「体重の計測値」から算出されるものであり、もう一つのBRI値の方は、敢えて大雑把に捉えれば「伸長の計測」・「体重の計測」そして「腹囲の計測」の3つの計測値をもとに算出が出来るのであり、結論的に言うと、このBRI値が『人の健康状態』の良きモノサシとなる、と言えることから、現行の特定健診は、個々人の健康状態を個々人で判断する上で、かなり的を得ている健診だと言える。
但し、後半で述べるように、厳密なBRI値は「伸長の計測」・「体重の計測」「腹囲の計測」に加えて『尻廻り』の計測値も計算に必要としている点を指摘しておきます。
BMIとBRIの情報の紹介に進む前に、2000年頃から始まった我が国の国民健康づくり運動の推移の実態を示す情報を纏めとして紹介しておきます。
1.特定健診受診者数と受診率:2008年度の受診者数が約2000万人で始まり、2014年度には約2600万人。2008年の導入から毎年受診者は100万人増。2014年時点で全保険者の50%が受診。しかし目標とした70%には到達していない。他方、特定保健指導の2014年時点の全保険者平均実施率は18%。目標とする全保険者の45%を上回る優良な保険者は極めて少ない。ここで保険者とは医療保健担当機関のことを指す。国が医療保健担当機関の「尻を叩くも、目標には未達」の状況が継続しているのが目に浮かぶ。
2.メタボリックシンドローム人数:2008年度から2021年度にかけて、メタボ該当者及び予備軍は約1480万人から約1700万人へと220万人程増加。特に男性の増加が顕著。
3.大分県立看護科学大学からの情報に、「10年間の生活習慣が医療費に与える影響についての検討(小野治子氏記す)」があり、そこに以下の記載がある。
2018年の総医療費は年間43兆円、そのうち肥満を含む生活習慣病に関連する医療費は9.4兆円にのぼり、医療費の適正化のために生活習慣病の予防は喫契の課題です。
すなわち、特定健診や特定保健指導を10年間継続して行っているが、生活習慣病に関連する医療費の低減化の結果を出す、という大目標の観点ではほとんどその効果が出ていないと結論付けられると思う所です。
このことは、例えば運動の進捗状況を『見える化』して、市民に如何に興味とこの課題の重要性を絶えず意識の内に持ってもらうか、に掛かっているのではないかと感じており、この点での運動の不十分さが残念に思われるところです。この点はまた最後に触れて見たいと思います。
ではBMIとBRIの話題に移ります。
健康状態を見定めるのにBMI値を利用する。このやり方を捨てる時期に来ているのか?
(原題:Time to say Goodbye to the B.M.I.)
The New York Times、2024、9月6日、 Roni Caryn Rabin氏記す
BMI(body mass index)値には欠陥がある、と永年にわたり批判が為されている。BMIに代わるBRI値(Body Roundness Index)に注目が集まっている。
BMI値は、伸長と体重とを測定することで算出でき、その値から人々を過体重・肥満・極度に肥満と類別化出来ることから、永らく健康状況を広範に調査する際に利用されている。しかしBMI値は、批判を最も受けている指標値でもある。
BMI値による類別化は、永らく疑問視されており、例えばBMI値が30であり、BMIによる類別化から言えば肥満の最前線にいるとされたアメリカのラグビーオリンピック代表のIlona Maherさんの例が挙げられる。Ilonaさんは、彼女のインスタグラムの中で彼女の体重でもって彼女を貶めるオンライン荒らしを行う人々に対して、「でも私はオリンピック代表に選ばれ出場できるのであって、あなた達は違う」と指摘しているのである。
過体重の人や白人以外の人に対してそれらの人々を擁護する考え方として、BMI指数は200年程も前に作られたものであり、大半が白人男性を対象に集められたデータからという来歴を有するものであり、医療における篩い分け・類別化を目的にBMI値算出法が作られたわけではないという考えがある。
医者達もBMIには欠点があることを指摘しており、昨年アメリカ医学会はBMIが人種・民族・年齢・性別・性の多様性等の考慮にかける不完全な指標だと指摘し、BMI値では筋肉質の人々や余計な部分に脂肪を多くためる人々を類別化することが出来ないとしている。
例えば「BMI値の観点からすれば、ボディビルダーでもあったシュワルツネッガーさんは肥満と診断され、減量を求められただろう」とイェール大学のMehal教授は指摘している。
「でも彼のウェストサイズは、32インチ(約81cm)だったのである」
かかる状況がBMI値の解釈とモノサシとしての利用には存在していたことから、新しいモノサシの出現が求められる状況があった。 従って「体の丸さ加減」にも着目するという新たな指標値(body roundness index; BRI)が2013年に提示されることとなった訳である。即ち、BRI値の算出は、伸長と体重をもとに算出するBMIとは異なり、伸長と体重と共にウェスト廻りと尻廻りにも着目して計測しているのである。
BRI値を求める計算式では、臀部や太ももに蓄積される脂肪分に着目するのでなく、2型糖尿病や高血圧・心臓病の発症リスク増大に密接に関連する体の中心部分や腹廻りの脂肪分の役割をより正しく評価することが可能となる工夫が為されている。
6月にJAMA Network Open に掲載された論文は、BRIが死亡率の有望な予測尺度になるとする一連の研究論文の最新の結果を報告するものである。(原報文中では、計算式に関連する議論が展開されており、数学に興味ある人は原報文に当たって下さい。またオンライン上でBRI値を簡単に算出してくれるサービスがあります。BODY ROUNDNESS INDEX CALCULATORに入り、単位をMetricに指定した上で、Kgとcmで伸長や体重、そして腹廻りと尻廻りを測って入力すればBRI値を提示してくれます。因みに私はBRI 4.5と表示されました。)
BRI値は通常1~15の範囲で、ほとんどの人は1~10に収まる。1999年から2018年の期間、代表的なアメリカ人32995人を対象に調査したところ、BRI値の平均値が20年間で4.80から5.62へと上昇したことを6月の文献では報告している。また32995人の調査から得られたBRI測定値の中央領域の範囲は4.5~5.5であったという。
ここでBRI値が6.9以上の人は丸みを帯びた体型とされ、ガンや心疾患や他の疾病によって死亡するリスクが、上記の中央領域の範囲の4.5~5.5の人と比べて、ほぼ50%リスクが高まるとされる。 またBRI値が5.46から6.9の範囲の人は、中央領域の4.5~5.5の人と比べてリスクが25%高まるという。
逆にBRI値の低い人も死亡リスクが高まるとされ、BRI値が3.42以下の人は中央領域の人に比べて25%リスクが高まるという。
論文の著者らは、65才以上の人によく見られる低いBRI値は栄養失調・筋委縮または運動不足を反映していると見ている。
「BMI値では体脂肪と筋肉量との区別は出来ない」とこの論文の主任研究員の北京小児科学研究所のWenquan Niuさんは述べ、「BMI値がどのような数値であれ、脂肪の分布状況や体組成の状況には大きなフリ幅の変動の幅があることを認識する必要がある」と指摘している。
事実、Niu博士は「BMIを健康リスク評価のモノサシとして利用すると、筋肉質のアスリートたちに対しては健康リスクを過大に見積もることになり、一方、筋肉が脂肪に置き換わっている高齢者の健康リスクは過小に評価する可能性がある」と指摘する。
腹腔内に貯えられている脂肪分は、肝臓などの内臓を取り囲んでおり2型糖尿病の前兆であるインスリン抵抗性や血糖値を正常に保持するための糖分の処理能力に脂肪分が影響することが認められており、腹腔内に貯えられている脂肪分というものは極めて重要な健康リスク要因になることである。また腹腔内に貯えられている脂肪分は、高血圧や脂質異常を助長することから心臓疾患や死亡に繋がるとされる。
「内臓脂肪の過剰な蓄積は、体内に潜むサイレントキラーであり、殊に一見痩せている人の場合は何年もほとんど目立った症状もなく健康リスクが忍び寄ってくることがある」とNiu博士は語る。
BRIは現在ニューヨークのウェストポイントにあるアメリカ陸軍士官学校教授の数学者Diana Thomas氏発案によるもので、2013年に学術誌Obesityに掲載の論文で発表された。
BMIは人の体を円筒形に見立てて数値化しているが、Thomas博士は自身の体型は円筒形でなく、しいて言えば卵の形に似ているとの認識から、BMIの算出の基準のもとで自身の体型とBMIの算出基準との折り合いをどのように付けたら良いか、を考える方向へと彼女は思考を進めて行ったのである。
「 微積分学の導入部分で、学生は離心率(eccentricity)、即ち自分がどれだけ円に近づいているのかを、学ぶことから始める事になります。これを人の体型に当てはめると、球体に近い人もいれば、円に近い人もおり、そして円からかけ離れたスリムでたくましい人もいるという、様々な体型が存在していることになります。」
論文では、典型例として3人の男性が提示されており、一人は身長が5フィート8インチでウェスト27インチの痩せ型、2人目は伸長5フィート6インチでウェスト29インチの人、そして3人目は伸長5フィート6インチでウェスト36.6インチの脂肪が多い人で、3人三様の体型であるものの、BMIの値はみな同じ27なのである。
これに類似の考え方で調査を進めている研究者もいる。2016年の研究ではBMI値と血圧や血液検査の結果との比較が為され、BMI値と健康状態との間にはあまり相関性が無いことが認められている。
BMIが25から29.9の太りすぎと判断される人の半数が、そしてBMIが30以上で肥満と評価される人のほぼ1/3が実際は代謝的に見て良好な健康状態だったとされている。
そして健康的なBMI値とされる、BMI18.5~24.9の人の30%が、実際には代謝的に見て健康状態が悪かったとされている。
民族性に基因する多様性の存在が、医療専門家の間でBMI値の不確実性の要因だとの認識が高まっている。即ちアジア系民族やアジアに祖先を持つ人々は、体の中央部に肥満があり、2型糖尿病に対する高い健康リスクを抱えており、しかも彼らのBMI値はより小さな値として算出され勝ちなのである。従って幾つかの医療機関では、これらの患者に対しては太り過ぎと判定するBMI基準値を従来の25以上から23以上へと変更することを、また肥満と判定するBMI基準値を従来の30から27からへ、と変更することを推奨している。
【BMI値と肥満度合いとの判定基準(日本肥満学会):18.5~25未満が普通体重、25~30未満が肥満度1、30~35未満が肥満度2、35~40未満が肥満度3、40以上が肥満度4、18.5以下を低体重としている。「BMIと適正体重」のホームページに入り、自身の身長と体重を入力すれば簡単にBMI値が判ります。】
医師らは、BMIが体型・体組成・筋肉量・骨密度の変化を正確に捉える事が出来ない粗雑な指標だとする考えに同調する方向になっている。
「例え体重が同じ人々の間でも、人々の筋肉の付き方やその程度には非常に大きなバラツキがあり、同じBMI・同じ年齢・同じ性別であっても体脂肪の%には10%から40%の間でバラツキがあるものだ」とルイジアナ大学ぺニントン生物医学研究センターのHeymsfield博士は指摘する。その上で、「BMIでは避けられないバラツキの状況の中に、BRI値の考え方は踏み込んでいくことが可能であり、人々の体型の指標としてのBRI値と彼らの健康状況との関連性をより正確に説明していくことができる」と指摘している。
BMIとBRIとの説明情報は以上です。
最後に、運動の不十分さが残念に思われるところであり、この点は後に触れて見たい、と記載した部分の説明をします。
BMIに比べて最近提示されたBRI値が、個々人の体型と個々人の健康状況とをより正確に説明できる、と紹介しました。そして国の指導のもと地域医療機関が行っている現行の特定健診の内容は、個々人の健康状態を個々人で判断する上で、かなり的を得たものになっている(抜けている尻廻りの測定値さえ追加で組み込めば現行の特定健診内容は、BRI値と同じものになる)とも紹介しました。
かなり的を得た健診運動を10年間にわたり行ってきたにも拘らず、残念ながら結果としては、生活習慣病に該当する人の数の削減は出来ておらず、生活習慣病に要する年間の医療費の削減化も願う方向には進んでいない状況であることは、明らかだと言えます。
せっかく良い生活習慣病対策運動を用意して、しかも10年にもわたり活動しているにも拘らず、願う効果を発揮できない要因は、市民の個々人が運動の効果を「簡単につかむ」ことが難しい点にあるのでは考えます。
BRI値と健康状況との関係性は、アメリカでは約3万人を対象に20年にわたり追跡調査を行った研究が出され、生活習慣病による典型的な疾病の発生状況とBRI値との関係がデータとして蓄積されております。
生活習慣病による疾病の恐れが最少となるBRI値の幅が設定され、そのレンジからどれだけ離れると、どれだけ疾病にかかる危険性が高まるか、死亡の恐れが高まるかが『見える化』できる土俵を作ることが、原理的に出来る状況が生まれていると言えます。
現在の【国民健康づくり運動(健康日本21)】には、運動の進捗状況を市民に簡単に分かってもらうことの重要性が抜けていると考えます。簡単に運動の進捗状況が判る我が国市民向けの『見える化』が求められているのであり、しかもその見える化のシステム構築はそれほど難しいものではない、と判断しております。
サービス心の有る無しの問題と思っています。
市民にとっても、自身の健康状況を簡便に認識できるモノサシの存在は自身の健康維持に非常に重要な武器になると考えております。
「護憲+BBS」「新聞記事などの紹介」より
yo-chan
先ずは医療機関を巻き込んだ国の脱メタボを目指した運動の背景や動向あたりから始めて、我が国の健康づくりに関する現状のおさらいをしてみたい。
21世紀に入りそれを契機に、国は国民の健康づくり運動の取り組みを始めている。
既に第一次並びに第二次の運動期間を終了しており、現在は今年から始まった第三次国民健康づくり運動(健康日本21:第三次)の最中である。第一次から第三次までの履歴を纏めると以下になる。
健康日本(第一次):2000年から開始の国民健康づくり運動。健康増進と疾病の予防に重点を置いた運動であり、この運動を推進すべく2003年に健康増進法が施行された。
健康日本(第二次):第一次の結果を踏まえて、2013年からの10年間の計画でスタート。
健康日本(第三次):2024~2035年度を実施期間としてスタート。第二次運動終了時点でも目標に未達の項目がある状況の下、第三次運動の取り組みを推進するために、特に以下の4項目を定めて国民の健康づくり推進を図るとしている。
1. 健康寿命の延伸と健康格差の縮小
2. 個人の行動と健康状態の改善
3. 社会環境の質の向上
4. ライフコースアプローチを踏まえた健康づくり
この国民健康づくり運動の主な眼目は幾つかあるだろうが、やはり最大の眼目であり興味の対象でもあるものは、4つの取り組みの中にある2番目の『個人の行動と健康状態の改善』であろう。この目標は運動開始時点からの懸案であっただろう。
今回紹介したいBMI値とそれに代わり登場してきたBRI値の話題も、この『個人の行動と健康状態の改善』に関連する事柄であり、モノサシである。よって、これ以降は国民健康づくり運動全体を語るのでなく、最も大きな運動の目標である『個人の行動と健康状態の改善』、即ち個々人の健康状態を如何に把握することが、個々人の健康の増進に役立つか、に関して国が現在取っている具体的な行動に先ずは焦点を当てて見ていくこととする。
国が取っている具体的行動を見ていく上で、地域の医療法人のホームページの情報が結構役立つ。今回は「立川相互ふれあいクリニック」のホームページに紹介されている情報をも参考にしながら紹介を続けていきます。この医療法人のホームページには以下の記載があります。
2008年(平成20年)4月から「高齢者の医療の確保に関する法律」により、生活習慣病予防の徹底のために、メタボリックシンドロームに着目した特定健診・特定保健指導という新しい健診・保健指導が始まりました。
生活習慣病で亡くなる人は死亡原因全体の6割を占めるほどです。生活習慣病や重症な病気を発症する前に、今ご自分の生活習慣を見直して健康な生活を送れるように意識していくことがとても大切です。
この情報中のいくつかのキーワードについて詳細を更に紹介すると、
1.生活習慣病には:脂質異常症・糖尿病・高血圧・心筋梗塞や狭心症等の虚血性心疾患・脳梗塞等の脳血管疾患
2.生活習慣病に係る医療費の状況:医科診療医療費総額(29.3兆円)の約30%(9兆円)
内訳(入院と外来両方を合算した額)
悪性新生物:3.4兆円
心疾患(高血圧性を除外):1.9兆円
脳血管疾患:1.8兆円
高血圧性疾患:1.8兆円
糖尿病:1.2兆円 (医療費データの出典:平成26年度国民医療費)
3.生活習慣病に係る死亡割合
悪性新生物:28.7%
心疾患:15.2%
脳血管疾患:8.7%
COPD:1.2%
糖尿病:1.0%
高血圧性疾患:0.5% 合計55.3% (出典:平成27年度人口動態統計)
5. メタボリックシンドロームとは:腹囲85cm以上の男性および腹囲90cm以上の女性
といった内臓脂肪型肥満の状態に加えて、脂質異常・高血糖・高血圧の3つのうち2つ以上を併せ持つ人をメタボリックシンドローム状態の人とする。
メタボリックシンドローム及びその予備軍は、40~74歳の男性では2人に1人、女性では5人に1人存在していると言われている。
メタボリックシンドローム状態を放置したり、更に高進したりすれば、糖尿病・高血圧症・脂質異常症を発症して薬に頼る生活が始まり、生活習慣を見直し改善を行わない場合には心筋梗塞や脳卒中といった重篤な症状へと転帰していく恐れが出てくる。
従ってこのような経過をたどっていくことを避けるべく、健康診断で健康状況をチェックし生活習慣を見直し改善していくことが求められることになる。
そこで、医療機関が行うメタボリックシンドロームに着目した生活習慣病予防のための健康診断である特定健診の意義があり、特定保健指導の意義があることになる。
今回紹介するBMI値もここに登場しております。
その特定健診の検査項目を見てみると、
必須項目として:伸長の計測・体重の計測そして腹囲の計測
尿蛋白・HDLコレステロール・GOT・GPT・γ-GTP・空腹時血糖・HbA1c・尿糖測定
上の特定健診の検査項目の中には、個人でも容易に測定できる項目がある点に着目して欲しい。 即ち、「伸長の計測」と「体重の計測」そして「腹囲の計測」の3つであり、今回紹介する情報に出てくるBMI値は「伸長の計測」と「体重の計測値」から算出されるものであり、もう一つのBRI値の方は、敢えて大雑把に捉えれば「伸長の計測」・「体重の計測」そして「腹囲の計測」の3つの計測値をもとに算出が出来るのであり、結論的に言うと、このBRI値が『人の健康状態』の良きモノサシとなる、と言えることから、現行の特定健診は、個々人の健康状態を個々人で判断する上で、かなり的を得ている健診だと言える。
但し、後半で述べるように、厳密なBRI値は「伸長の計測」・「体重の計測」「腹囲の計測」に加えて『尻廻り』の計測値も計算に必要としている点を指摘しておきます。
BMIとBRIの情報の紹介に進む前に、2000年頃から始まった我が国の国民健康づくり運動の推移の実態を示す情報を纏めとして紹介しておきます。
1.特定健診受診者数と受診率:2008年度の受診者数が約2000万人で始まり、2014年度には約2600万人。2008年の導入から毎年受診者は100万人増。2014年時点で全保険者の50%が受診。しかし目標とした70%には到達していない。他方、特定保健指導の2014年時点の全保険者平均実施率は18%。目標とする全保険者の45%を上回る優良な保険者は極めて少ない。ここで保険者とは医療保健担当機関のことを指す。国が医療保健担当機関の「尻を叩くも、目標には未達」の状況が継続しているのが目に浮かぶ。
2.メタボリックシンドローム人数:2008年度から2021年度にかけて、メタボ該当者及び予備軍は約1480万人から約1700万人へと220万人程増加。特に男性の増加が顕著。
3.大分県立看護科学大学からの情報に、「10年間の生活習慣が医療費に与える影響についての検討(小野治子氏記す)」があり、そこに以下の記載がある。
2018年の総医療費は年間43兆円、そのうち肥満を含む生活習慣病に関連する医療費は9.4兆円にのぼり、医療費の適正化のために生活習慣病の予防は喫契の課題です。
すなわち、特定健診や特定保健指導を10年間継続して行っているが、生活習慣病に関連する医療費の低減化の結果を出す、という大目標の観点ではほとんどその効果が出ていないと結論付けられると思う所です。
このことは、例えば運動の進捗状況を『見える化』して、市民に如何に興味とこの課題の重要性を絶えず意識の内に持ってもらうか、に掛かっているのではないかと感じており、この点での運動の不十分さが残念に思われるところです。この点はまた最後に触れて見たいと思います。
ではBMIとBRIの話題に移ります。
健康状態を見定めるのにBMI値を利用する。このやり方を捨てる時期に来ているのか?
(原題:Time to say Goodbye to the B.M.I.)
The New York Times、2024、9月6日、 Roni Caryn Rabin氏記す
BMI(body mass index)値には欠陥がある、と永年にわたり批判が為されている。BMIに代わるBRI値(Body Roundness Index)に注目が集まっている。
BMI値は、伸長と体重とを測定することで算出でき、その値から人々を過体重・肥満・極度に肥満と類別化出来ることから、永らく健康状況を広範に調査する際に利用されている。しかしBMI値は、批判を最も受けている指標値でもある。
BMI値による類別化は、永らく疑問視されており、例えばBMI値が30であり、BMIによる類別化から言えば肥満の最前線にいるとされたアメリカのラグビーオリンピック代表のIlona Maherさんの例が挙げられる。Ilonaさんは、彼女のインスタグラムの中で彼女の体重でもって彼女を貶めるオンライン荒らしを行う人々に対して、「でも私はオリンピック代表に選ばれ出場できるのであって、あなた達は違う」と指摘しているのである。
過体重の人や白人以外の人に対してそれらの人々を擁護する考え方として、BMI指数は200年程も前に作られたものであり、大半が白人男性を対象に集められたデータからという来歴を有するものであり、医療における篩い分け・類別化を目的にBMI値算出法が作られたわけではないという考えがある。
医者達もBMIには欠点があることを指摘しており、昨年アメリカ医学会はBMIが人種・民族・年齢・性別・性の多様性等の考慮にかける不完全な指標だと指摘し、BMI値では筋肉質の人々や余計な部分に脂肪を多くためる人々を類別化することが出来ないとしている。
例えば「BMI値の観点からすれば、ボディビルダーでもあったシュワルツネッガーさんは肥満と診断され、減量を求められただろう」とイェール大学のMehal教授は指摘している。
「でも彼のウェストサイズは、32インチ(約81cm)だったのである」
かかる状況がBMI値の解釈とモノサシとしての利用には存在していたことから、新しいモノサシの出現が求められる状況があった。 従って「体の丸さ加減」にも着目するという新たな指標値(body roundness index; BRI)が2013年に提示されることとなった訳である。即ち、BRI値の算出は、伸長と体重をもとに算出するBMIとは異なり、伸長と体重と共にウェスト廻りと尻廻りにも着目して計測しているのである。
BRI値を求める計算式では、臀部や太ももに蓄積される脂肪分に着目するのでなく、2型糖尿病や高血圧・心臓病の発症リスク増大に密接に関連する体の中心部分や腹廻りの脂肪分の役割をより正しく評価することが可能となる工夫が為されている。
6月にJAMA Network Open に掲載された論文は、BRIが死亡率の有望な予測尺度になるとする一連の研究論文の最新の結果を報告するものである。(原報文中では、計算式に関連する議論が展開されており、数学に興味ある人は原報文に当たって下さい。またオンライン上でBRI値を簡単に算出してくれるサービスがあります。BODY ROUNDNESS INDEX CALCULATORに入り、単位をMetricに指定した上で、Kgとcmで伸長や体重、そして腹廻りと尻廻りを測って入力すればBRI値を提示してくれます。因みに私はBRI 4.5と表示されました。)
BRI値は通常1~15の範囲で、ほとんどの人は1~10に収まる。1999年から2018年の期間、代表的なアメリカ人32995人を対象に調査したところ、BRI値の平均値が20年間で4.80から5.62へと上昇したことを6月の文献では報告している。また32995人の調査から得られたBRI測定値の中央領域の範囲は4.5~5.5であったという。
ここでBRI値が6.9以上の人は丸みを帯びた体型とされ、ガンや心疾患や他の疾病によって死亡するリスクが、上記の中央領域の範囲の4.5~5.5の人と比べて、ほぼ50%リスクが高まるとされる。 またBRI値が5.46から6.9の範囲の人は、中央領域の4.5~5.5の人と比べてリスクが25%高まるという。
逆にBRI値の低い人も死亡リスクが高まるとされ、BRI値が3.42以下の人は中央領域の人に比べて25%リスクが高まるという。
論文の著者らは、65才以上の人によく見られる低いBRI値は栄養失調・筋委縮または運動不足を反映していると見ている。
「BMI値では体脂肪と筋肉量との区別は出来ない」とこの論文の主任研究員の北京小児科学研究所のWenquan Niuさんは述べ、「BMI値がどのような数値であれ、脂肪の分布状況や体組成の状況には大きなフリ幅の変動の幅があることを認識する必要がある」と指摘している。
事実、Niu博士は「BMIを健康リスク評価のモノサシとして利用すると、筋肉質のアスリートたちに対しては健康リスクを過大に見積もることになり、一方、筋肉が脂肪に置き換わっている高齢者の健康リスクは過小に評価する可能性がある」と指摘する。
腹腔内に貯えられている脂肪分は、肝臓などの内臓を取り囲んでおり2型糖尿病の前兆であるインスリン抵抗性や血糖値を正常に保持するための糖分の処理能力に脂肪分が影響することが認められており、腹腔内に貯えられている脂肪分というものは極めて重要な健康リスク要因になることである。また腹腔内に貯えられている脂肪分は、高血圧や脂質異常を助長することから心臓疾患や死亡に繋がるとされる。
「内臓脂肪の過剰な蓄積は、体内に潜むサイレントキラーであり、殊に一見痩せている人の場合は何年もほとんど目立った症状もなく健康リスクが忍び寄ってくることがある」とNiu博士は語る。
BRIは現在ニューヨークのウェストポイントにあるアメリカ陸軍士官学校教授の数学者Diana Thomas氏発案によるもので、2013年に学術誌Obesityに掲載の論文で発表された。
BMIは人の体を円筒形に見立てて数値化しているが、Thomas博士は自身の体型は円筒形でなく、しいて言えば卵の形に似ているとの認識から、BMIの算出の基準のもとで自身の体型とBMIの算出基準との折り合いをどのように付けたら良いか、を考える方向へと彼女は思考を進めて行ったのである。
「 微積分学の導入部分で、学生は離心率(eccentricity)、即ち自分がどれだけ円に近づいているのかを、学ぶことから始める事になります。これを人の体型に当てはめると、球体に近い人もいれば、円に近い人もおり、そして円からかけ離れたスリムでたくましい人もいるという、様々な体型が存在していることになります。」
論文では、典型例として3人の男性が提示されており、一人は身長が5フィート8インチでウェスト27インチの痩せ型、2人目は伸長5フィート6インチでウェスト29インチの人、そして3人目は伸長5フィート6インチでウェスト36.6インチの脂肪が多い人で、3人三様の体型であるものの、BMIの値はみな同じ27なのである。
これに類似の考え方で調査を進めている研究者もいる。2016年の研究ではBMI値と血圧や血液検査の結果との比較が為され、BMI値と健康状態との間にはあまり相関性が無いことが認められている。
BMIが25から29.9の太りすぎと判断される人の半数が、そしてBMIが30以上で肥満と評価される人のほぼ1/3が実際は代謝的に見て良好な健康状態だったとされている。
そして健康的なBMI値とされる、BMI18.5~24.9の人の30%が、実際には代謝的に見て健康状態が悪かったとされている。
民族性に基因する多様性の存在が、医療専門家の間でBMI値の不確実性の要因だとの認識が高まっている。即ちアジア系民族やアジアに祖先を持つ人々は、体の中央部に肥満があり、2型糖尿病に対する高い健康リスクを抱えており、しかも彼らのBMI値はより小さな値として算出され勝ちなのである。従って幾つかの医療機関では、これらの患者に対しては太り過ぎと判定するBMI基準値を従来の25以上から23以上へと変更することを、また肥満と判定するBMI基準値を従来の30から27からへ、と変更することを推奨している。
【BMI値と肥満度合いとの判定基準(日本肥満学会):18.5~25未満が普通体重、25~30未満が肥満度1、30~35未満が肥満度2、35~40未満が肥満度3、40以上が肥満度4、18.5以下を低体重としている。「BMIと適正体重」のホームページに入り、自身の身長と体重を入力すれば簡単にBMI値が判ります。】
医師らは、BMIが体型・体組成・筋肉量・骨密度の変化を正確に捉える事が出来ない粗雑な指標だとする考えに同調する方向になっている。
「例え体重が同じ人々の間でも、人々の筋肉の付き方やその程度には非常に大きなバラツキがあり、同じBMI・同じ年齢・同じ性別であっても体脂肪の%には10%から40%の間でバラツキがあるものだ」とルイジアナ大学ぺニントン生物医学研究センターのHeymsfield博士は指摘する。その上で、「BMIでは避けられないバラツキの状況の中に、BRI値の考え方は踏み込んでいくことが可能であり、人々の体型の指標としてのBRI値と彼らの健康状況との関連性をより正確に説明していくことができる」と指摘している。
BMIとBRIとの説明情報は以上です。
最後に、運動の不十分さが残念に思われるところであり、この点は後に触れて見たい、と記載した部分の説明をします。
BMIに比べて最近提示されたBRI値が、個々人の体型と個々人の健康状況とをより正確に説明できる、と紹介しました。そして国の指導のもと地域医療機関が行っている現行の特定健診の内容は、個々人の健康状態を個々人で判断する上で、かなり的を得たものになっている(抜けている尻廻りの測定値さえ追加で組み込めば現行の特定健診内容は、BRI値と同じものになる)とも紹介しました。
かなり的を得た健診運動を10年間にわたり行ってきたにも拘らず、残念ながら結果としては、生活習慣病に該当する人の数の削減は出来ておらず、生活習慣病に要する年間の医療費の削減化も願う方向には進んでいない状況であることは、明らかだと言えます。
せっかく良い生活習慣病対策運動を用意して、しかも10年にもわたり活動しているにも拘らず、願う効果を発揮できない要因は、市民の個々人が運動の効果を「簡単につかむ」ことが難しい点にあるのでは考えます。
BRI値と健康状況との関係性は、アメリカでは約3万人を対象に20年にわたり追跡調査を行った研究が出され、生活習慣病による典型的な疾病の発生状況とBRI値との関係がデータとして蓄積されております。
生活習慣病による疾病の恐れが最少となるBRI値の幅が設定され、そのレンジからどれだけ離れると、どれだけ疾病にかかる危険性が高まるか、死亡の恐れが高まるかが『見える化』できる土俵を作ることが、原理的に出来る状況が生まれていると言えます。
現在の【国民健康づくり運動(健康日本21)】には、運動の進捗状況を市民に簡単に分かってもらうことの重要性が抜けていると考えます。簡単に運動の進捗状況が判る我が国市民向けの『見える化』が求められているのであり、しかもその見える化のシステム構築はそれほど難しいものではない、と判断しております。
サービス心の有る無しの問題と思っています。
市民にとっても、自身の健康状況を簡便に認識できるモノサシの存在は自身の健康維持に非常に重要な武器になると考えております。
「護憲+BBS」「新聞記事などの紹介」より
yo-chan