煙草屋のシャッターの隙間から、黒い影が動いた。
黒猫のタンゴの様に赤いリボンならぬ赤い首輪をしている。
これはチャンス!とばかりに近付いた。
黒いのの後ろから、少し小振りなキジトラが付いてくる。
ラッキーだと思ったのもつかの間、店の裏庭へと逃げ込んでフェンス越しにこっちを伺っている。
カメラを向けると、窓が開いた。
家の女主人が出てきた。
愛猫を撮影しているのが判ると猫達をフェンスの中から裏の公園の方へ誘導してくれた。
黒いのが『アコ』、向かいのマンションの子供達に時々パンを貰っていたらしいが、
冬に寒くなって自販機の裏で暖まっていたのを彼女に保護された。人馴れしているので
おとなしく背中を撫でさせてはくれるが、子猫の時の栄養事情が悪く一時は病気で大変だったそうだ。
キジトラは『しま次郎』、これまた冬の日に自販機の裏で暖を取っていたのを
『アコ』が連れて来たそうだ。自分と素性の似た奴をほっては置けなかったといった所か…。
雄猫というのは、人間と同様に父猫に限らず師と決めた雄猫に付いて猫生を学ぶらしい。
どうやらキジトラの師は黒いのみたいだ。
ふと、後ろで可愛い声がした。
茶トラの大きな雄猫が姿を表した。三匹目だ。
「あれが一番の古株『太郎』…新入りが気に入らんのか、あんまり家に居着かん。性格は良いのに、ヤキモチかねぇ…」
三匹とも、飼い猫なのに今まで出会ったどの野良猫よりも警戒心が強く寄っては来ない。
女主人と話す私を囲う様に遠巻きに見ている…まるで用心棒。
女主人は三匹の侍を従えた姫君に見えた。
荒野(野良)の三匹が辿り着いた先は、煙草屋の城だったのかもしれない。
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