街へ出る為、バス停へと急いでいた。
ポツンと建った理容室の裏には、お店の四倍程の舗装されていない駐車場が見える。
白と灰色の背中が見えた。
時間は無いが見慣れないタイプの猫だったので、ちょっと挨拶だけでも…と思い、近づいた。
「ご馳走するから、おいでよ。」
始めはかなり警戒ぎみだったが、
バックにいつも持っているキャットフードを見せると近くまで来てくれた。
白地に灰色のおかめ顔、口髭の様に鼻の辺りに模様がある雄猫『髭男爵』だ。
飼い主がいないので本名が判らない。出会った記念に少し写真を撮らせてもらう。
その時、背後に視線を感じた。飼い主かもしれない。
「そろそろいかなきゃ。遅れるし、じゃぁ、またね。」
独り言の様に声を掛けて立ち上がると、背後の視線の主が見えた。
理容室からちょっと歩いた所の川沿いで良く見掛けるホームレスのおじさんだった。
私と猫のやりとりをいつから見ていたのかはわからない。
笑うでもなく、怒るでもなく、ただこっちを見ていた。
ふと目を落とすと、猫の首には「自由の国アメリカ」の星条旗柄の派手な首輪が付いていた。
帰る家のある猫と、帰る家のない人。
『髭男爵』は砂利だらけの駐車場を、足音も立てずに帰って行った。
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