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バス事業を事例に岩崎氏の主張・提言の妥当性を検証する

2009-07-30 00:43:04 | 書房
◆バス事業を事例に岩崎氏の主張・提言の妥当性を検証する
 岩崎氏は,小泉改革の規制緩和や民営化,さらにはグローバル化や市場主義の導入も,国民の富という利益を得るための手段でしかないはずだが,いつの間にか規制緩和自体が目的化してしまい,もともと達成すべき目的は忘れ去られてしまった,とも指摘している。
 この点に関して,バス事業を事例として,岩崎氏の主張と提言の妥当性を検証してみる。
 バス事業は規制緩和に伴い,建前として参入自由となった。その代わりに,6か月前に路線の廃止届を出せば退出(路線廃止)自由となった。だが,実情はというと,路線をやめるとなると社会的影響が大きいので赤字路線であってもなかなか廃止できない。規制緩和でも既存事業者は,従来通りの業務を強いられる一方,いいとこ取りのできる新規参入者と競争せざるを得ない立場に追い込まれ,経営は疲弊するばかりである。公正な競争ができる環境を整えずに競争原理を導入したことによる弊害が起こっていると警鐘を鳴らしている。

●北海道の事例
1999年5月,当時の運輸政策審議会・自動車交通部会は「赤字のバス路線廃止はやむを得ない」との答申を出した。これにたいし,北海道新聞はこの規制緩和一辺倒の政策を言葉激しく糾弾している。
「これはれっきとした答申だ。地方の生活を全く分かっていない。「道内の三十八バス事業者のうち,黒字経営は四事業者に過ぎない。答申通り法改正が行われると2001年度からは,赤字の地方バス路線の廃止が相次ぎ,高齢者や通学の児童・生徒の足が確保できなくなるのは,火を見るより明らかだ(北海道新聞社説=1999年5月17日付)」。現実は同紙の指摘通りに推移している。

●熊本交通局の事例
 隣県の熊本交通局の累積欠損額は約47億円に及び,そのうちバス事業によるものは10億円強で,大半は市電事業によるものである。この打開策として,熊本市の市長は市営バスの全面民間移譲を表明している。

 この市長構想の受け皿として九州産交バス,熊本電気鉄道,熊本バス3社の出資する『熊本と市バス株式会社』(社長 九州産交山内清宏顧問)が本年4月1日から運行を開始している。市営全路線で最も赤字幅の大きい「中央環状線」(熊本駅~水前寺駅~南熊本~熊本駅)は,収入3712万円に対し,費用は5945万円と2241万円の損失。営業係数は160.4という極めて悪い数値である。

 都市バス関係者からは。「こんなに多くの赤字路線を抱える営業所をどうして民間会社が譲り受けなければならないのか」と,不満の声も聞かれる。なお,熊本都市圏のバス網400路線を,将来は3分の1以下の120路線に集約する構想が示されており,今後はバス網再編成実現に向けてのコンセンサス形成が課題となっている。

●鹿児島市交通局の事例 鹿児島市の現状とどうであろうか。鹿児島市交通局は07年度に3億円以上の赤字を計上。2億3千万円余りの黒字を出した電車事業に対し,バス事業は5億4千万円の赤字であった。。資金不足は5億9千万円を超え,バスに限ると累積赤字は40憶円に達している。

 そこで,2010年から5年間を計画期間とする「経営健全化計画」の骨子案をまとめた。赤字増大の続くバス事業立て直しのため,市バス北営業所と同桜島営業所管内の路線運航を民間に委託するのが柱。単年度収支の黒字化と,各年度末の資金不足比率が20%を下回ることを目標とする。

 岩崎氏は,鹿児島市交通局の事業に関して,本書の中で次のように分析している。
 <2006年度には市内電車も含めた交通事業全体に対して約4億1700万円の補助金を鹿児島市の一般会計から受けている。職員の退職金についても,定年前に市役所本体の他部署に異動させる方法で,交通局の実質的な負担を回避し,鹿児島県の財政から退職金を支出している>交通局の職員に対する退職金は,2001年以降全くないが,その間の定年退職者数はゼロではない。これは不当廉売による不公正な競争といえる。これに対して当社はやむなく路線を大幅に削減し,大規模な合理化を実行してきた。果たしてこのような状況が公正な競争といえるのか,と苦言を呈している。

 ことの真偽について,鹿児島市および市の交通局からの見解を聞きたいところである。

●06年,208路線323系統の赤字バス廃止計画を打ち出す2006年,岩崎グループ(鹿児島市)は208路線323系統の赤字バスを一気に廃止する計画を打ち出し県内に衝撃が走った。そのうち,鹿児島市に関係する廃止バスは74系統であった。
 岩崎グループの赤字バス路線廃止に伴い04年11月,関係市町が事業主体となって運行を始めた代バスの輸送実績は,前年同期の6割弱にとどまる。運行事業者や県によると,代替バスやコミュニティバス,乗り合いタクシー計131系統の,04年11月8日から3月末まで5カ月間の輸送人員合計は約57,600人。前年同期は約100人の実績がある。11月以降,連行回数や順路が前年度と変わった系統もあり,単純比較はできないがおよそ58%に落ち込んでいる。

 県交通政策課は従来のバス離れの傾向に加え,存廃問題の混乱による客離れや周知不足の可能性を指摘している。県交通政策課は従来のバス離れの傾向に加え,存廃問題の混乱による客離れや周知不足の可能性を指摘した。また,同課は市町の赤字負担を補助する県単補助制度について「県財政も厳しく,将来的には見直しもありうる。危機感を持ち,十分な利用促進策を図ってほしい」と呼びかけている。 (出典 南日本新聞 07年6月)

 国は乗客数など一定の条件を満たしているバス路線に対して毎年度,赤字補てんを行っている。国交省によると,2007年度に「生活交通路線維持費」として計約65億7600万円が拠出され,このうち鹿児島県は3億9020万円で,北海道(10億9924万円)に次いで2番目に多い。

 鹿児島県は,バス路線の維持費として国と同額を拠出しているほか,単独でも,自治体などが民間の廃止路線を引き継いだ「代替バス」への補助を続けている。08年度の代替バスへの補助金の総額は,前年度の約3.6倍の2億6248万円である。県は,今後県単独のバス補助制度を見直す方針を県内自治体担当者に明らかにした。従来の廃止路線代替バスに対する赤字補てんは要件を厳格化し,乗客ゼロで運行するような系統への補助を打ち切る一方,従来の大型バスより効率的なコミュニティバスなど,住民ニーズに見合った輸送システムへの転換には新たな補助制度で支援する。

 新制度は従来の廃止路線代替バスから,コミュニティバスや乗り合いタクシーなど車両小型化を進めた場合や,申し込みがあるときだけ運行する「デマンド型システム」を導入した場合が対象となる。具体的には,市町村が行うニーズ把握のためのアンケート調査や,車両購入,施設整備などの初期投資に補助金を出す。
 試算では現在補助対象となっている134系統のうち,24系統が対象外となる。
  (出典 南日本新聞 07年8月24日  読売新聞  08年6月19日)

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地方を殺すのは誰か
岩崎 芳太郎
PHP研究所

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中央集権官僚体制、金融検査マニュアル、民営化、規制緩和、不公正な競争…負け組のレッテルを貼られた地方の企業は座して死を待つのみなのか?既存体制と闘う気骨の経営者が語る、地方の繁栄なくして日本に未来なし。


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