【Fuku】
今週の一枚:「Hyde Park Music Festival 2005 Official DVD」2007
東京の今やベッドタウンとなった狭山市に稲荷山公園(駅名でもあります)という大きな自然豊かな公園があり、近隣の住民の憩いの場として愛されています。
ここは、昔はアメリカ空軍の「ジョンソン基地」があったところで、日本に返還された後もHyde Park(ハイドパーク)という愛称で親しまれ、その近辺には国道16号線沿いを中心にかつてアメリカ軍人たちの家族が暮らした住居(米軍ハウス)が点在し、基地返還後には民間にそのまま払い下げられて、1960年代末から1970年代初頭にかけて、若者たちがその“ハウス”に移り住みはじめるようになります。
いわば日本にある"アメリカ村"の住人には、細野晴臣氏や小坂忠氏、西岡恭蔵氏、吉田美奈子氏ら、ここでも今まで登場した何人ものミュージシャンたちがいたことから、狭山の米軍ハウスおよびハイドパーク近辺は、70年代の日本のロックを語る上では外せない聖地と呼ばれています。
一番有名なのは、細野晴臣氏の1973年のアルバム『HOSONO HOUSE』で、レコーディング場所として、当時彼が住んでいたハウスの住所が記されていますし、小坂忠氏のアルバム『もっと もっと』(1972年)のバック・カバーには、米軍ハウスの写真が使われています。まだ見ぬアメリカ、ゆるやかに持っていたアメリカのイメージ、そしてアメリカ文化へのドアが日本の埼玉県の中に存在したという事実は、この2枚のアルバムが如実に表現しています。
狭山に長く住んでアメリカ文化を体感した世代の人たちは、そのハイドパークの貴重な自然を残していきたい、という思いが長年あり、またそれを知らない若者達は、そうした文化がかつてここにあったということを後世に伝えていきたい、という思いがあり、そうした思いが結合して、このハイドパークで音楽フェスティヴァルを開いて老いも若きも一緒に狭山で生まれた音楽を楽しみたい、ということになり、日本では久々に商業意識が極めて薄い、まるで70年代に舞い戻ったようなボランティア主体による運営が実現されたフェスティヴァル「Hyde Park Music Festival」が2005年9月3,4日の2日間、稲荷山公園の野外音楽堂で開催されました。、
以前に細野氏の「
東京シャイネス」のDVDを紹介した時に触れましたが、細野氏のまさに「Hosono House」の世界を再現した最初がこのフェスであり、もう一人の狭山の主こと
小坂忠氏、狭山の仙人こと元乱麻堂の洪栄龍氏、実際に住んでいた多くのミュージシャンと、海外からこのイベントに参加したホワイト・ブルースマン"マーク・ベノ"と、眠れるシンガーソングライター"エリック・アンダーソン"、そして、今現代にこういった日本のロックを再現する若いミュージシャンまで、総勢20数グループがその趣旨に賛同して参加して、それらを狭山の影の大番長ことトムズ・キャビンの麻田浩氏が実行委員長としてとり仕切って実現した、おそらく再度こういったメンバーがこれだけ集まるイベントはまず無いのでは、と高名なる音楽評論家たちが口を揃えて断言した、という記念すべきコンサートの模様が、ようやくDVD化されました。
2日目の大雨の後の大トリを務めた細野氏の余裕たっぷりのステージはもう言うまでもなく、1日目のトリを務めた小坂忠氏とかつてのコンビ元フォージョー・ハーフの駒澤裕城氏との共演による名曲「機関車」、本当に玄人好みのスワンプ・ロックのかつての美少年マーク・ベノとの共演に一歩も引くことなく見事に対抗したラリーパパ&カーネギーママの「Put a Little Love in My Soul」の見事なレイドバックしたプレイ、日本におけるカントリーロックの草分けで30年振りにオリジナルメンバーで登場したラストショウのノリの良さ、おそらく登場メンバーの中では圧倒的に最長老ながら(軽く還暦超えです)、相変わらずの"湘南ボーイ"のカッコ良さを再認識させた
ブレッド&バター、突然の大雨にも一歩も引くことなく見事なインプロヴィゼーションを演じた洪栄龍氏、HKBを従えて貫禄十分(といってもこの中に入ると若手)のステージを魅せた佐野元春氏、などなど、もうどれもこれも本当に涙ものの珠玉のステージの連打連打で、最後の細野氏のステージは東京シャイネスのDVDとはまた違ったアングルからの映像もあり、で最後にまたまた涙の貴重な映像で幕と閉じる全編150分にわたる日本のロックの集大成。
私が一番感激したのは、馴染みのベテラン勢に交じって、初々しいステージを魅せてくれた
SAKEROCK、今や押しも押されぬビッグネームとなった彼らの若さ溢れる演奏は、こういった音楽を志向する新しい世代が確実に育ってきていることを感じさせてくれました。
Hyde Park Music Fes自体は、規模は少し縮小されたものの、翌2006年9月にも開催されて、こういったイベントが珍しく日本に根付くかと思ったら、やはり、というかなんというか、今年2007年は、資金不足と2年間の負債のために、開催が中止となり、なんとかDVD化による収入で、翌年の開催を目指しているとのことです。やはり、今の時代、こういった大掛かりなイベントとなると、全くのノービジネスでは出来ないのが日本の音楽事情で、裏にはいろいろとあったみたいですが、なんとかこういうノーベネフィットのイベントがまた再開されることを願うばかりです。
まさに老いも若きも一緒に楽しんだ2日間の記録は、まさに後世に残る偉大なる足跡を残したイベントとして語り継いでいかれることを確信してます。
DVD「Hyde Park Music Festival 2005 Official DVD」
<収録曲>
【DISC1(9月3日)】
1. 黒猫よ、待て! / ラリーパパ&カーネギーママ
2. ジャスト・ライク・ア・ボーイ / テキーラ・サーキット
3. 大空に投げ縄を放れば I’m Casting My Lasso Toward the Sky / トミ藤山
4. トラブル・イン・マインド Trouble in Mind / 麻田浩&His Muddy Greeves
5. サマータイム Summertime / 森山良子 with 松田幸一
6. 湘南ガール / ブレッド&バター
7. うちわもめ / センチメンタル・シティ・ロマンス
8. はいからはくち / センチメンタル・シティ・ロマンス
9. プット・ア・リトル・ラヴ・イン・マイ・ソウル / マーク・ベノ with ラリーパパ&カーネギーママ
10. 目白通りいつも通り / 大川たけし
11. hibiki / 高野寛 with 佐橋佳幸
12. 機関車 / 小坂忠 with 駒澤裕城、高野寛、佐橋佳幸
13. ゆうがたラブ / 小坂忠 with 駒澤裕城、高野寛、佐橋佳幸
【DISC2(9月4日)】
1. 慰安旅行 / SAKEROCK
2. Heavenly / 岩渕まこと
3. 昼間から夢のようさ / アーリー・タイムス・ストリングス・バンド
4. 我が心のヤスガーズ・ファーム / [西岡恭蔵トリビュート] アーリー・タイムス・ストリングス・バンド、中川五郎
5. プカプカ / [西岡恭蔵トリビュート] アーリー・タイムス・ストリングス・バンド、洪栄龍、中川五郎、ハンバート・ハンバート、宮武希
6. キングコング / ラストショウ
7. クラシカル・ガス Classical Gas / ラストショウ
8. 土手の向こうに / 鈴木慶一 / 鈴木博文 / 武川雅寛
9. 髭と口紅とバルコニー / 鈴木慶一 / 鈴木博文 / 武川雅寛
10. 天地洪荒 / 洪栄龍
11. ブルー・リヴァー Blue River / エリック・アンダーソン with ラストショウ
12. プリーズ・ドント・テル・ミー・ア・ライ / 佐野元春 and THE HOBO KING BAND
13. ろっかばいまいべいびい / 細野晴臣
14. 恋は桃色 / 細野晴臣
15. ありがとう / 細野晴臣with小坂忠
2007年10月22日発売
Hyde Park Music Festival Organization 0001