りおんの本棚 Shoji Rion

庄司利音の作品集 詩とイラストと朗読ライブ

詩 「 朧月夜 」

2017-12-10 16:42:53 | 


そのとき彼は

誰よりも月を見ていた


食いかけのカリントウのようになって

そのからだは線路わきの道端に転がっている


うつ伏せに捻じれた顔の中で

ただ一つ、

硫黄色の片目だけが

ぎらぎらと生きていた


その目は確かに

月を見ていた


星のいない、紙やすりのような空の際に

慄然として、アルコールの羊水に浸かりながら微笑んでいる・・・この月を!


額縁の無い絵の中で 藍色の渦に無言で絞殺されていく・・・その月を!




彼にはかつて名前があった

その名前を呼ぶ人がいた

その声に振り返る彼の瞳は穏やかだった・・・




今、彼の瞳は

終電に轢かれていく月だけを見ている

無声映画の主人公のように

コマ送りで死んでゆく月だけを見ている


彼が建築した黄金のオベリクスは

この月を刺し貫くことはできなかった


それでも彼は今、

僅かに 微笑んでいる


彼の視線の先には

交わる誰かの瞳があるのだろう・・・


彼は自分の五臓を絞り上げ

この月のため

最後の息を吐き出した


彼の呼吸は

藍色の空に向かって

白いガーゼのように浮き上がっていく


「このまま行け」

彼はそう呟いた


あぁ、この夜は

なんと優しい朧月夜・・・










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