りおんの本棚 Shoji Rion

庄司利音の作品集 詩とイラストと朗読ライブ

詩 「 灯台とおじいさん 」

2017-07-28 13:32:46 | 

真っ白い灯台に、たった一人

おじいさんが住んでいました

おじいさんの耳に聞こえる音は

波の音と 

風の音

おじいさんの眼に映る色は

海の青と 

空の青


あるとき、一人の旅人がやってきました

彼は長いこと 一人で 旅をしてきました

おじいさんは 旅人に 

自分が焼いたパンを あげました

あたたかくて、優しい香りのするパンでした

旅人は 今まで ずっと、

遠くばかりを 見つめて 旅をしてきました

何かを 求め続けていたからです


旅人は おじいさんに 言いました

「私は しばらく ここに居ても 良いでしょうか・・・

あなたと たくさん 旅の話を したいのです 」

おじいさんは、少し目を伏せて それから旅人を見て言いました


「私は 今まで 寂しいと 思ったことは 一度もない

でも、もし、

あなたが ほんの一時、私と共にいて

お互いに 楽しい時間を過ごし、

ふたたび どこかへ旅立ってしまったなら

そのあと、私は、はじめて

寂しさ というものを 知るだろう・・・」


その言葉を聞いた旅人は しばらく黙っていました

彼の目は 遠くを 見ていました

そうして、大きく一息、呼吸をしました

そして彼は、腰をあげました

おじいさんに、パンのお礼を丁寧に言うと、

彼はふたたび旅立って行きました

旅人の背中は 小さくなっていきました

果てしなく続く道の中に

織り込まれていくようでした



その日から何年も過ぎた ある日の朝のことです

その日も、おじいさんは 自分が焼いたパンを たった一人で食べていました

いつもと同じ、美味しいパンです


パンをぜんぶ食べ終わったおじいさんは

誰に言うともなく つぶやきました


「今日まで私は、寂しいと思ったことは 一度もなかった

私の心は そう感じる心を 捨ててしまったから・・・

あのときの旅人は、今日はどこを旅しているだろうか・・・

彼は、私が疾うに捨ててしまった寂しさを

心に大事に抱えて、

今も、旅をしているだろう

私と彼のあの出会いは、たった一度の大切な出会いだった

私と彼は 出会った

そして私は

過ぎ去って 今日、振り返った・・・」


おじいさんの目に、涙があふれました

おじいさんの心に あの旅人の深い寂しさが
 
海よりも深く、空よりも広く

染み込んできたのです



その日、おじいさんは

最後の眠りにつきました

寂しさを感じる心を取り戻し

おじいさんは、穏やかな最後の眠りにつきました

もう美味しいパンを焼くこともありません

けれど

おじいさんは、

穏やかに旅立ちました


真っ白い灯台は、今もたった一人で立っています

誰かを待っているように

すこし背伸びするようにして

立っています


波の音と 

風の音



海の青と 

空の青


今も、

真っ白い灯台は

おじいさんの代わりに

あの旅人を

待っているのかもしれません

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