(ウォール・ストリート・ジャーナル)世界の保険各社は、欧米市場の成長が低迷するなかでアジアに進出し
ており、フランスの保険大手アクサ(CS.FR)はこうした動きの先陣を切ってきた。
アクサ・アジア部門のマイク・ビショップ最高経営責任者(CEO)は昨年アジアで2件の契約締結を後押しした
。1件目は、英銀大手HSBCホールディングス(0005.HK)(NYSE:HBC)(HSBA.LN)の香港・シンガポール・メキシコでの
損害保険事業を4億9400万ドルで買収した案件、もう1件は、資産規模では中国最大の銀行、中国工商銀行(ICBC)
(1398.HK)(601398.SH)とアクサとの合弁パートナーシップだ。これらの案件によって、アクサはアジアでの足
跡を拡大し、競合会社をしのいでより大きな市場シェアを獲得する助けとなった。
カナダのサンライフファイナンシャルから香港のAIAグループ(1299.HK)にいたる保険会社が昨年急成長するア
ジア経済で行った買収案件は総額210億ドル相当に達し、2011年の160億ドルから増加した。しかし、罹患(りか
ん)率や平均余命に関する資料が乏しいことが多い、不安定な新興市場では、保険会社にとってより大きなリス
クが存在する。
15年にわたる同地域での経験を生かすビショップCEOは香港でウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)との
インタビューに応じ、アジアでの保険各社にとっての商機や新規参入者にとっての潜在的な落とし穴についても
語った。以下はその抜粋となる。
WSJ:保険各社はなぜアジアで事業を拡大しているのか。
ビショップ氏:アジアは世界の成長源だ。インドやインドネシアの若年人口から大衆富裕層の増加までを踏ま
えると、現在は人口動態上であらゆる要素がアジアに有利に働いている。これは、素晴らしい商機だ。
当社では、市場でかなり不足している健康および保険事業に軸足を置いており、これは顧客が本当に必要とし
ている事柄だ。アクサは今年、当社の将来にとって極めて重要なアジアでの2件の大きな取引を完了した。
WSJ:中国に対する個人的な見解とはどのようなものか。このところの減速は事業にどのような影響を及ぼして
きたか。
ビショップ氏:当社にとっての可能性は巨大だ。当社は、2億8000万人の顧客をもつ世界最大規模の銀行であ
るICBCのパートナーとなった。事業余地は想像以上だ。当社は昨年、ICBCを含める方向で中国五鉱集団(ミンメタ
ルズ)と折半出資した合弁会社を再編成した。合弁会社に対する現在の出資比率は、ICBCが60%、当社が27.5%、
ミンメタルズが12.5%だ。当社の新たなパートナーシップを踏まえると、多くの良好な潜在能力があり、当社に
とっては、最近の景気減速はそれほど大きな懸念材料ではない。
WSJ:保険各社がこの地域に殺到する上での危険性とはどこにあるのか。
ビショップ氏:アジアの成長は、先進市場の企業幹部にとってかなり人気の高い戦略になっており、人々はア
ジアについて比較的容易な選択肢とみている。
しかし、新規参入企業は、現在の事業においてかなりの強みをもつ大規模な現役企業など、アジアの競争能力
を過小評価すべきではない。
産業全体にとって最大の課題の一つとは、最高の人材を維持することだ。アジアの離職率は欧州のそれを大き
く上回る。一部の国々では、アクチュアリー、リスク・マネジャー、コンプライアンス・オフィサーは極めて希
少になりつつある。
例えば、インドネシアでは、これらの職業の平均給与が過去数年間で2けたの伸び率を記録した。われわれは
急拡大しているため、人材の必要性が生じた場合、不足分を埋めて地元の人材を養成する助けとして、数年は世
界の他地域から専門家を招いている。
WSJ:香港とシンガポールでHSBCの損害保険事業を買収した理由は何か。
ビショップ氏:これは当社にとって変換的な取引だ。特に、保険会社の売上高を示す総計上収入保険料でみる
と、これは当社に香港での有力な立場を与えており、当社の現在のシンガポールでの第2位という立場を強固にし
ている。さらに、インド、中国、インドネシアでのHSBCの銀行支店を通じた独占的な10年間の販売も与えている
。
価格面に関しては、この取引が10年間で当社に何をもたらすかが、明らかに重要になる。単なる短期的な取引
ではない。
WSJ: アジアでは、保険会社の銀行との提携期間はより長期化しつつあるようだ。何が原動力になっているのか
。
ビショップ氏:バンカシュランス(銀行窓口による保険販売)は急拡大しており、現在は間違いなくアジアに
おいて最大の保険販売ルートになっている。しかし、アジアでは、人間関係は販売するうえで文化的に極めて重
要なため、販売代理店が極めて重要であることに変わりはない。
タイの販売比率は、代理店と銀行が50%ずつを占めており、個人的にはこれが最適だと考えている。銀行との
契約の長期化は、取引が一段と高額化し銀行が多くの前払い金を得ている事実も反映している。
しかし、銀行とのパートナーシップに取り組む適切な方法とは、誰かと結婚したら、真価は結婚した日ではな
く、長年をかけて現れるという事実を踏まえることだ。
WSJ:アクサは、目標を達成する可能性はあるか。
ビショップ氏:当社は、来年の野心的な目標達成に向けて順調に進んでいる。当社は、2015年までに売上高と
新契約利益(NBP)(将来の利益の現在価値)を11年の2倍に増やす計画を立てている。07年~11年には売り上げ
が2倍に増えており、再び倍増することができる。
昨年2件の取引を完了させたことから、これは実現するだろう。
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