ニューヨーク(ダウ・ジョーンズ)欧州中央銀行(ECB)について正しく理解しているのは、株式投資家か為替トレーダーのどちらかだろう。どちらも正しいということはあり得ない。
加速度的に悪化しパニックの様相を強めているユーロ圏の国債市場が求める断固とした行動を、ECBがとるかどうかについて、株式投資家と為替投資家は相反する考えに基づいて取引している。
米株式相場はおよそ3カ月ぶりの高値圏で推移している。債務規模が世界第3位のイタリアの国債利回りがジャンク(非投資適格)債発行体に迫り、欧州の当局者や企業がユーロ圏という通貨同盟が崩壊する見通しを公然と話題にするなかにあっても、米国株は堅調を維持している。
一部のアナリストは、こうした矛盾が生じている原因として、予想を上回る企業決算発表や米経済指標を挙げている。しかし率直なところ、ユーロ圏の解体という厄介な状況に陥れば、こうした好材料はかき消されてしまうだろう。そうなれば、脆弱(ぜいじゃく)な世界の金融システムにおいて企業の破綻が連鎖的に広がり、数十万件のクロス通貨取引が不履行となろう。こうした状況では、米国も決して無傷ではいられない。
むしろ、米株式市場が一連の事態を楽観的に受け止めているのは、中央銀行(今回の場合はECB)が最終的に市場の救済に乗り出すとの期待が足元で定着していることの表れだ。これは何十年も続くモラルハザード(倫理観の欠如)の問題で、われわれは今になってようやく、こうした問題が解決できないジレンマだということを思い知らされている。
世界各地のエコノミストらが指摘するように、現在残されている唯一の解決策は、2008年の金融危機後に米連邦準備制度理事会(FRB)が取ったような行動にECBが訴えることだ。ECBは最後の貸し手としてユーロ圏のすべての加盟国に制限なく貸出を行うと宣言し、自らが持つ通貨発行権を活用して、加盟国の国債を無制限で買い入れると約束する必要がある。
国債買入という「マネーの壁」の規模は最大で3兆ユーロに達すると観測されており、この規模になれば状況は一変するだろう。その場合、株式市場は正しいことになる。ただその場合、ユーロについてはどう説明できるだろうか。
これほど大規模な『量的緩和』を行い、同時にユーロ圏の追加利下げを伴えば、FRBの量的緩和戦略がドルを急落させたように、ユーロは大きく下落するだろう。ユーロ圏が生き残ることを正しく示すのは、ユーロ高ではなく、ユーロの急落だ。
15日の終値1.3542ドルという水準は、ユーロが5月に付けた年初来高値からおよそ9%安の水準に当たる。しかし、これは2010年6月の安値1.1880ドルには程遠い。ユーロはこの3年間維持している0.2000ドルの値幅のまさに中間に位置している。欧州の銀行が資本増強のため海外資産の回収に動くことで、ユーロが押し上げられるとの観測が一部で聞かれる。たとえそうだとしても、これは大規模な量的緩和に今にも直面しようとしている通貨が、そうなるとは思われない。
為替トレーダーらは、ECBの発言を額面通り信じているようだ。ユーロ圏政府からの国債の直接引き受けを禁じる条約による縛りがあるため、ECBは加盟国の愚行に無制限の金融支援で報いるつもりもなければ、そうすることもできない、と為替トレーダーらは述べている。ECBのタカ派らによれば、こうした支援は金融不安に道を開くもので、ハイパーインフレで崩壊したワイマール共和国の再現になるという。
皮肉なことに、為替トレーダーらもユーロの存続に賭けているようだ。ユーロの解体が不安視されると、ドル、円およびスイスフランへの資本逃避を招くことになる。だが、これは解決策にECBが関与しないことを暗に示すものだ。そのうえ今この時点で、ユーロ圏17カ国の政府は加盟国間の深刻化する不協和音を乗り越え、速やかに財政・政治同盟を結成し、域内の周縁諸国を救うために数兆ユーロの税金を投じると約束できる、などといったい誰が信じるというのだろうか。
やはり違うのだ。問題の解決にはECBが動かなければならない。中銀はそれぞれに定められた規則による縛りを受けるかもしれないが、自らを破滅に追い込むような状況を仲介することも考えられない。何らかの妥協が必要になるのは明らかだ。そして、その時、ユーロと株式市場の長期にわたる正の相関がついに崩れるはずだ。
-0-
Copyright (c) 2011 Dow Jones & Co. Inc. All Rights Reserved.