理系母の療育と自閉症児の成長の記録

3歳で自閉症スペクトラムと診断された息子。約3年でDQ57→97。14歳で診断が外れ,高校受験を経て通常学級デビュー。

言葉を引き出す 自作コミュニケーションボード+デジカメで語りかけの効果

2017-07-10 16:59:45 | 発達障害

息子の言語とコミュニケーション能力の成長を振り返って,一番効果が大きかったのがコミュニケーションボードとデジカメでの語りかけだと思います。この療育を始めて1年弱で,新版K式発達検査の認知・適応が55から81に,言語・社会が55から71に伸びました。

これにはもちろん,本人の自然な成長や保育園での指導の影響もあるかと思いますが,それまで息子は人の話はまったく聞かず,自分の要求を訴えることにしか言葉を使わなかったので,会話を通じていろんな物事を理解したり,自分の感情を言葉で伝えるという概念がありませんでした。コミュニケーションボードやデジカメを導入しなければそういった言葉の力に気付くのはもっと遅かったでしょう。

 

これらの療育を始めるにあたり,参考にしたのは

あなたが育てる自閉症のことば 2歳からはじめる自閉症児の言語訓練 〜こどもの世界マップから生まれる伝え方の工夫〜 藤原加奈江 著」です。

最初の発達検査結果(3歳6カ月)を受けて,義母の知り合いの言語療法士から勧められました。

自閉症児の種々の言葉の問題がどうして出てくるのかが自閉症児から見た世界観に基づいて解説されており,具体的な声のかけ方や対処法も書かれた良書です。

 

この本によると,

「初めてのことばからほぼ半年かけて子どもたちは50語前後のことばを使うようになります。この時期を越えると子どもがことばを覚える速度が急に速くなり,『語彙の爆発的増加』と呼ばれる時期に入ります。」と,あり,「3歳になると,語彙も1,000語前後となります」とも書かれていました。

 

息子は発語自体は1歳3カ月ごろからあり,特別遅くはなかったのですが,この「語彙の爆発的増加」がありませんでした。3歳6カ月の時点ではかろうじて2語文は出ていましたが,語彙が極めて乏しく,しゃべれる言葉の数は数えられるくらいで,自分の名前すら言えませんでした。また,本に書かれているように,口にするのは自分の要求ばかりで,言葉を使うことで自分の気持ちを伝えたり知りたいことを質問できるという概念がまったくないようでした。

 

私はそれまで息子の語彙が少ないこと,話せないことが問題だと思っていたのですが,この本を読んでからは,言葉に興味がない息子に言葉の重要性を気付かせること,息子の狭い世界観を広げることが重要だと考えるようになりました。

 

とは言っても,いくら言葉だけあれこれ息子に浴びせても息子は私の言葉に耳を傾けないので,最初は息子が興味をもっているものにとことんこちらが合わせる必要がありました。そのためのコミュニケションボードとデジカメです。

 

コミュニケーションボードとは,おもちゃや食べ物,場所などのシンボルあるいは絵や写真をカードで提示して予定を伝えたり,カードを子どもに選択させて本人の希望を聞いたりする,意思疎通を視覚的に補助するためのツールです。

 

子どもの発達や問題に応じたコミュニケーションボードの具体的な使い方は上記の本に書かれていますが,ここでは私が実際に行った方法を紹介します。

 

用いたもの

・ デジカメ

・ 市販のホワイトボード

・ パソコン

・ プリンター

・ インクジェットプリンターで印刷できるマグネットシート

 

作り方

①まずは,カードに用いるための写真をデジカメで撮りまくります。その対象は,家でよく食べる食べ物,よく行く場所,家の中のお風呂や布団,家族を含めよく会う人,保育園の先生にも事情を話してお願いして写真を撮らせてもらいました。

②それらをPhotoshopやWordなど,写真を拡大縮小できる適当なソフト上でA4のファイルに配置します。

③マグネットシートにプリントアウトします。

④ハサミで切って出来上がり。

 

 

これを最初に作ったのは3歳7カ月ことで, はじめは写真カードをホワイトボードに貼り付けて1日の予定(保育園から帰宅後のことだったので「お風呂」に入って「寝る」)と明日の朝ごはん(「シリアル」)を伝えました。ことのとき息子は写真で示した「シリアル」をすぐに食べるものと勘違いして大泣きしましたが,カードを見せながら「お風呂」「寝る」「ごはん」と繰り返し説明したら,わかってくれました。

その翌日には保育園の写真とホットケーキの写真を使って,保育園でホットケーキを作ることを理解してくれました。

 

こうして日々の予定を伝えていったところ,4歳2カ月のときには写真カードを使わず言葉だけでその日の予定を理解できるようになり,4歳3カ月で「明日なに?」と次の日の予定を質問するようにもなりました。

 

また,コミュニケーションボードはこちらから予定を伝えるほか,本人の食べたい食べ物や行きたい場所を聞くときに,食べ物あるいは場所のカードを広げてその中から本人に選択してもらうのにも使いました。

これも繰り返していくうちに写真を使わずにすむようになり,4歳1カ月のときには私が口頭であげた食べ物や場所の中から自分の希望を言葉で教えてくれるようになりました。

 

このコミュニケーションボード,最初はホワイトボードと100枚くらいのカードを使っていたのですが,やっていくうちに写真カードがどんどん増えていきます。

作成が追いつかなくなったところで,「これ,デジタルでいいんでない!?」と気付き,翌月からは印刷はせずに,ipadに写真データを入れて食べ物,場所,人をフォルダごとに分け,フォルダの写真一覧をそのまま見せて,本人に希望を選択してもらうようにしました。

息子はipadの操作に慣れていたのもあって,コミュニケーションボードをデジタル化してもまったく問題がなく,持ち歩きもしやすくていいことづくめでした※。

 

これと並行して,家でもお出かけするときも常に手元にデジカメを用意しておき,息子が興味を持った対象物やその日の様子がわかる日常風景を撮り,夜寝る前にデジカメを見ながら語りかけを続けました。

息子が興味を持つのは道端に落ちている木の実だったり,ダンゴムシだったり,しょうもないものばかりでしたが,こちらの押し売りはせず,あくまで息子の視線で写真を撮っていきました。その日食べたごはん,お出かけした場所,一緒に遊んでくれたお友達も撮りました。そして布団の中で一緒にデジカメの写真を再生し,「ダンゴムシいたね」,「サーモン美味しかったね」,「◯◯くんと遊んだね」と1枚1枚,簡単な言葉で解説していきます。

息子は無反応だったり,一部の写真しか見なかったり,まったく見たがらない日もあったりしましたが,強要は一切せず,ただ母がブツブツ独り言を言っているような感じで続けていきました。

そして1カ月経ったころのことです。海でお友達のお父さんがSUPというサーフボードのような板に息子を乗せてくれる機会がありました。お友達と一緒に,そのお父さんに抱えられながら湾をぐるっと一周して帰ってくると,息子は私に駆け寄ってきて「楽しかった!」と言ってくれました。

息子が要求のためではなく自分で感じたことを言葉で伝えてくれたのは初めてのことで,このときの嬉しさは今でも忘れません。

 

 

※私がipadを療育に使い始めた当時,ipadにはカメラがついていなかったため,デジカメで写真を撮り,そのデータをわざわざipadに入れ替えていました。今のタブレットやスマホにはほとんどカメラが付いているので,わざわざ両方使う必要はないかもしれませんが,子どもに触られたくないもの(メールやYouTube,関係のないゲーム)などが入っている場合は,デジカメだけ,あるはほかに何も入っていないタブレットを使ったほうがやりやすいかもしれません。


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