『公園のお風呂ダヌキ』-17

2010-07-26 17:53:18 | 連載
 門の中には広い庭があって、その向こうに屋根に十字架のついた高い建物が見えていました。
 こんにゃくさんは門の中に入ってみたかったのですけど、見つかると叱られそうな気がして、門の前をうろうろしていました。そのうちにふと思いついて、教会全体を囲んでいる生け垣に沿ってぐるっと一周してみることにしました、生け垣の切れ目からは、中の様子がちょっぴり見えるのです。
 ところが、こんにゃくさんとチビがちょうど教会の裏手のあたりにきた時、横の道から大きな犬が出てきて、ものすごい声でほえかかりました。チビなんかよりずっと大きくておっかない顔をしている犬です。
 こんにゃくさんはびっくり仰天して、チビのリードを引っぱると後ろも見ずに逃げて走りました。
 「ああ、こわかった。びっくりしたあ」
 初めに来た門のところまで戻って、こんにゃくさんがやっと立ち止まると、チビもそこに座りこみました。
 あんまり走ったので暑くてたまりません。チビも息をきらしています。
 その時でした。
 こんにゃくさんがなにげなく目を上げると、門のすぐそばに小さな看板があって、なにか書いてあるのに気がつきました。
 近づいてよく見ると、ミサや日曜学校の始まる時間と一緒に、聖書からの言葉らしいものが書いてあるのでした。
   
   『神は、その独り子をお与えになったほどに、世を愛された、
   独り子を信じる者が一人も滅びないで永遠の命を得るためである
   ーヨハネ福音書三章十六節ー』
 
 こんにゃくさんはドキッとしました。どこかで見たような、聞いたような気がしたからです。
 そのうちにこんにゃくさんは、あっ、と思いました。
 (お風呂ダヌキさんの宿題・・・宿題のヒントだって言ってた・・・)
 タヌキは、宿題のヒントは永遠の命とかなんとか言っていました。だけど、それと教会や聖書と、どのような関係があるのでしょう。
 「なんだかちっともわかんない。なんのことなのかなあ」
 こんにゃくさんがぶつぶつ言っていると、チビは何もわからないのに尾っぽを振ってお手をしました。
 「わかった、わかったよもう。おなかすいたんだね。チビ、わかったから帰ろうね」
 帰りの道は来た時よりずっと遠いような気がしました。だって、のどはからから、おなかもぺこぺこでしたから。

 
 こんにゃくさんが、次にその教会に行ったのはそれからずいぶんたって、もう秋も終わり近くなった頃でした。
 けれども、チビは一緒ではありません。チビは死んでしまったのです。
 

つづく
 

『公園のお風呂ダヌキ』-16

2010-07-26 17:15:07 | 連載
こんにゃくさんは、ここではうそをついたり、ごまかしたり、かくしごとをしたりしてはいけないのだと思いました。
 そこにはだれもいないのに、だれかがこんにゃくさんを頭のてっぺんから足の先まで、それどころか、心の奥底の、他の人には見せたくないようなことまで全部、すっかり見通しているのです。
 こんにゃくさんはなにかものすごく大きなものの前にいるような気がして身動きもできません。
 不思議な夢でした。

 次の日の朝、こんにゃくさんは目がさめてからもまだ、その夢をわすれることができませんでした。
 こんにゃくさんは思いました。
 おとうさんは神さまが見ているっていっていましたけれど、神さまって本当にいるのかしら。神さまと仏さまって、どう違うのかしら。いつか親類のおばさんが神社には神さまがおまつりしてあるっていっていました。でも探検に行ってみたら丸い鏡しか見えませんでした。おとなりのクミちゃんのところは、日曜日になると家中で教会に行って、キリスト教の神さまを信じてるし、なんだかいろんな神さまがいっぱいあるみたいだけど、本当の神さまってどの神さまなのでしょう。
 クミちゃんは、おとなりの女の子です。聖書にあるイエスさまのことば「タリタ・クミ」からクミという名前になったそうです。こんにゃくさんより二つ年上で、近くにあるミッション・スクールに通っています。
 こんにゃくさんも時々、その学校のシスターたちを見かけることがありました。学校のとなりにある教会のそばを通ったこともあります。でも中に入ったことは一度もありませんでした。
 そういえば教会ってどういうところなのでしょう。
 こんにゃくさんは前に本で見たことのある小さいイエスさまを抱いて立っているマリアさまの絵を思い出しました。
 (そうだ、いいことを思いついた。今度は教会を探検しに行ってみようっと。このごろ公園のタヌキさんはいつも知らん顔ばかろしていてちっともおもしろくないんだもの。今度はあんまり行ったことのないところに行ってみようっと)
 考えただけでもなんだかわくわくします。
 そこでさっそく次の日、こんにゃくさんは学校から帰ってくるとすぐ、チビをお供に連れて元気よく外に出ました。
 いつも公園に行く時の曲がりかどの手前で大通りを渡って、どんどん行きました。大きな家の並んでいる静かな坂道を登りきって、また少し行くとやっと教会の門の前に出ます。


つづく