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「最終定理」(著:アーサー・C・クラーク&フレデリック・ポール/訳:小野田 和子)

2013-05-12 21:20:48 | 【書物】1点集中型
 フェルマーの最終定理の新しい証明方法を追求する青年ランジットを主人公に据えた物語という点に興味を惹かれて読んでみる。実際問題、現在のところワイルズの証明を凌駕するものは発表されていないのだからして、このネタをどう扱っていくのかが気になったし、そもそもがクラーク作品ということで、読みにくさはないだろうという安心感があったので。

 読んでみたら、確かにランジットは最終定理をワイルズよりもエレガントな方法で証明したことになっている……のだが、もちろん証明の詳細は明らかにはならない(当たり前なんだけど)。
 で、その「最終定理」自体は実は物語の中ではそれ以上のものではない。物語はワイルズの証明よりもさらに素晴らしい証明を成し遂げたランジット・スーブラマニアンの人生を巡るものなのである。

 海賊に拉致されたり、拷問を受けたり、かと思えば一躍学界(のみならず)の寵児となりったランジットの波乱万丈。そして親友ガミニや最愛の妻・マイラ、恩師ヴォーハルスト、怪しげなUSMC退役中佐ブレッドソウなどなど、ランジットを取り巻くさまざまな人々。さらには地球を「滅菌」するべく、銀河の彼方から押し寄せる異星人たち。
 ソーラーセイル・シップやグランド・ギャラクティクス=天帝(オーバーロード)といった要素は、これまでのクラークの作品と共通するネタなんだけれども、なんか全体としてそういうクラークの持ち球の数々をあらためていろいろ取り出してパズルしてみました、という感じの話に見える。だからちょっと散漫な印象も受けた。

 それもあって実は、読み終えていちばん強烈に印象に残ったのが、ランジットとマイラのものすごいラブラブぶりだったりする(笑)。いや、羨ましいぐらいに……
 なので実は、SFらしいSFというふうにはあんまり感じてない(でももちろんSFなんだけど)。最後の最後、これから地球と異星人との関係はどっちに行っちゃうの!? という段階でずいぶんあっさりと場面転換されちゃったし(笑)。SFとしてはちょっと微妙な印象は受けたけど、ランジットの物語として読む分には山あり谷ありでそれなりに面白かったし、エンタテインメントだとは思う。

 しかし、あとがき<その3>にあった、ワイルズの証明を「多くの偉大な数学者が、これをうけいれることを拒否している」という点には、意外とは言わないけどやっぱりちょっと残念な気持ちが残る。
 確かに、ワイルズの証明にはフェルマーの時代にはなかった数々の手法が採り入れられているのだから、フェルマーと同じ考え方ではありえない。「フェルマーはその時代までにあった手法で最終定理の証明をどう描いていたのか」という考え方に基づく(ランジットの)証明の方がおそらくよりエレガントであろうことは、想像に難くない。でも、だからといってワイルズの、それまで(フェルマー以外に)誰もなしえなかった証明を成立させたという功績が否定されるべきだとは思えないから。

 もう1人の作者であるフレデリック・ポールの作品はまだ読んだことがないので、この物語でポール氏のエッセンスがどの辺にあるかはちゃんと理解していない。が、たぶん数学にまつわる話はよりポール氏の力が入っているところなのだろうな。


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