life goes on slowly

或る大阪近鉄バファローズファンの
偏愛と放浪の記録

「闇の左手」(著:アーシュラ・K・ル・グィン/訳:小尾 芙佐)

2013-12-04 00:14:13 | 【書物】1点集中型
 SFのつもりで読み始めたんだけれども、全体的にはどっちかというとファンタジーな印象。地球外惑星での物語ではあれど、世界観がすごく独特なので。
 だから、巻末資料(的な感じ)を読んでからのほうが入り込みやすいかな。なんというか、イーガンの長編の環境設定並みに、惑星〈冬〉=ゲセンに自分を適応させるのに苦労してしまった(笑)。そういう意味ではハードSFといえばそうかも。でも極寒の地ゲセンの環境と、そこでのアイとエストラーベンの旅の様子は、むしろ神話的ですらあるように思う。

 ゲセン人は両性具有というか、生殖においては場合に応じてどちらの性にもなるよう進化した人間である。彼らゲセン人が営む社会には、だからそもそも人間を「男」と「女」に分けるための概念が存在しない。そこに、男性という固定された性別を持つアイが、異邦人として降り立つことになる。
 性とは何なのか、愛とは何なのか。自分が、根源的にその社会とは同化しえない存在となったとき、人はどうやって自分の拠って立つところを見出すのか。
 異星からの使節という立場を持つがゆえに政争に巻き込まれ、果ては苛酷な旅を強いられる中で、「両者の違いからこの愛は生じている」と、アイは気づく。「私たちを分っているものにかけわたす橋」が愛ならば、つまり愛とは相手に同化することではなくて、その存在を認め、尊重することなのではないか。

 光の右手は闇であり、闇の左手は、光。生と死であり、男と女である。決して同化することのない別々の存在でありながら、切り離せないものとして、生きとし生けるものは生きていく。


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