life goes on slowly

或る大阪近鉄バファローズファンの
偏愛と放浪の記録

「順列都市(上)(下)」(著:グレッグ・イーガン/訳:山岸 真)

2012-04-12 23:26:08 | 【書物】1点集中型
 懲りずに読んでみるイーガン。この人の長編は、(当然だとは思うけど)短編より設定が入り組んでくる感じがするので、その土台を大体飲み込んで読み進めるのにエンジンがかかるまでに時間を要する(笑)。でも、基本的にはやっぱり「人間とは何ぞや」というところ。そういう意味では、表現は違えど「ディアスポラ」の世界にも通じてくるので、イーガンはここではどう答えを出すのだろうと興味深く、辛抱強く(笑)上巻を読み進めた。
 マリアが病の母に対して抱く想いと、<コピー>のポールがオリジナルのダラムに対して抱く想いと……トマスの、罪を犯した自らに対する想いと。それらがいよいよ繋がったときにポールの出した答えが下巻にあるのかなぁ、と思いつつ……。

 TVC宇宙(エリュシオン)が生まれる場面は、画を思い浮かべてちょっとわくわくした。しかし哀しいかな、肝になる「塵理論」をまともに理解できてないまま読み進めていたのだが、ストーリーの進行を追ううちに気にならなくなった(本当はそんな読み方じゃ魅力半減なんだろうけど)。
 造られた世界の中で創られた法則が、その世界そのものの在り方を変えてしまうというパラドックスが呼ぶ結末。無限の世界の創造と崩壊――この崩壊は「宇宙消失」も思い起こすクライマックスである。人間とは、生とは、死とは。
 トマスのどろどろな苦悩も人間っぽくていいけど、個人的にはピーの、突き抜けた感じのキャラクターが好きだ。すべてを受け容れて、かつ自由な。「唯一である自己」を取り戻したいと思うダラムの選んだ道には共感を覚えるが、ピーには羨望を感じる。

 しかしイーガン、例によって時間の規模があまりにも壮大で気が遠くなる(笑)。相変わらず長編は半分も読めた気がしていないが、やっぱり懲りずにこの先も読んでしまいそうな気がする。「ディアスポラ」もなんとなく再読しちゃったし(笑)。短編ももっと読みたいな。