6月に発表されたスイスのビジネススクールIMDの「2024年世界競争力ランキング」で、シンガポールが4年ぶりに世界首位の座に返り咲いた。
他方日本はカザフスタンやクウェートの後じんを拝し、38位へと落ち込んだ。
シンガポールと日本では国の成り立ちや人口規模、統治機構が大きく異なり、比較に意味がないと一蹴する向きもあろう。しかし約60年前にマレーシアから分離独立を余儀なくされ、資源もエネルギーも食料も乏しい淡路島ほどの島国が、今や日本の2.5倍という1人当たり名目GDP(国内総生産)を誇っている。
後退の一途をたどる我が国が、シンガポールから学べることがある。それは社会課題に真正面から取り組み、独自のソリューションを生み出す「革新力」だ。
象徴的な例は水だ。水源を持たず、マレーシアからの原水輸入に依存する構造から脱却するため、雨水や下水、海水といったあらゆる水を活用、下水再生や淡水化などのイノベーション(技術革新)によって飲料水をつくり出した。水がないという国家存亡に関わる課題があったからこそ、自国を水ソリューションの実験場として開放、世界中のノウハウを集積し、水不足で悩む多くの都市にノウハウを提供するまでになった。
もう一つは住みやすい都市づくりだ。赤道直下、高温多湿という気候条件は、グローバル企業・人材の獲得においては圧倒的な弱みである。その弱点を克服すべく、公園や街路樹の充実、ビルの屋上・壁面緑化、グリーンビル認証、水辺づくりなどを迅速に推し進め、緑豊かで住みやすい都市へと変貌させた。今ではシンガポールより東京の夏の方が暑いと感じるほどだ。その知見は「リバビリティー(都市の住みやすさ)フレームワーク」として、途上国へも輸出されている。
このように課題を起点にして、国家・都市の優位性を生み出すメカニズムこそ日本が学ぶべきところだろう。
少子高齢化、コミュニティーの衰退、災害の多発といった日本が抱える大きな課題に、最新技術とビジネスモデルをもって挑み、包摂的で強靱(きょうじん)なコミュニティーやまちづくりのソリューションを生み出し、同様の課題を抱える他国へと輸出することが日本にもできるはずだ。
その挑戦を成し遂げるには、何よりも危機感が欠かせない。シンガポールの都市づくりの司令塔センター・フォー・リバブルシティーズの初代長官を務め、現在はシンガポール国立大学で教鞭(きょうべん)をとる友人のクー教授は「イグジステンシャルクライシス(存続の危機)」という言葉を頻繁に口にする。
マレーシアから見放された時、リー・クアンユー首相(当時)が涙を流しながら「ウィ・ウィル・サバイブ(我々は生き残る)」と国民に訴えかけた思いがリーダーたちに引き継がれ、同国のたゆまぬ革新のエンジンとなっている。
政官民が強烈な危機感を共有し、課題をソリューション、さらにはイノベーションへと変える。これこそ、崖っぷちに立つ日本に求められる挑戦にほかならない。
現在、政財界で最も注目される女性 経団連副会長・野田由美子
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