華やぐ時間

時の豊潤なイメージに惹かれて 。。。。

芝居 ”審判 ”

2005-10-09 02:46:13 | ★芝居
俳優加藤健一 本屋でこの本を立ち読みして涙し この作品を上演したくて 劇団を立ち上げたという
以来25年間 バリー・コリンズ作”審判”は 今回11回目の上演になるという
英語にして7万語の台詞を 一人で休憩なしの2時間半を喋り続ける
黒い幕を背景に舞台中央の証言台の前に立つ俳優にスポットライトが当たってるだけの簡素な舞台
  
演ずる側にも観る側にも 緊張と集中 気力がいるだろうと思う芝居である
「役者としての僕の原点。 セットも音響もなし、ひたすら言葉だけで、観客の想像力をかきたてる。
役者にも観客にも”極限”を求める芝居です。」と加藤健一が語る
彼の芝居を何本か観たことがある
喜劇タッチのものが多く 目がキラキラして楽しそうに演じていたが 妙な存在感があった
ゆるぎないもの 強さのようなもの  今なら 内なる瞑さを秘めている人 と言いえる

第2次大戦中 ドイツ軍の捕虜となったロシア人将校ら7人が修道院の地下室に閉じ込められた
衣服を剥ぎ取られ水も食料もなく 格子のはまった小さな窓があるだけの石造りの狭い地下室
60日後に救出されたバホフ大尉が軍事法廷の証言台に立つ
飢えと渇きと救出を待つ日々の間に何があったのか 語り始める

トレチャコフ大佐が監禁11日目で「生存のための作戦」を提案する 各人の髪の毛のくじを引き 
当たったものが残りの生存のために自らの肉体を食糧として提供する というもの
くじを引いた結果 彼が最初に当たり 規律を守るために抵抗せず そのまま殺害される

2番目にくじに当たるライセンコ少佐は 合意の基にくじを引くが 当たってしまい 
抵抗するが殺害される

バホフの幼馴染バニシェフスキー軍曹は 2人目が殺害されるとき ひそかに自殺する

ブロック大佐は 仲間の肉を食べられないと自らの肉体の提供を提案し 生きることを放棄する

ルビアンコは 4人目の肉を食べることを拒否し 発狂している状態をルービンに殺害される

バホフと共に救出されるルービン少佐 発狂した生存者 一人目の肉を一番最初に食べた人 
肉を積極的に食べ仲間にも食べさせることで 他人の死を無駄にしないで
「だれかが生存する」という目標を達成しようとする 
ルビアンコの発狂していく様子をまっすぐ自分の中に受け入れ 彼を殺害し 自らも発狂する

正気の生存者バホフ大尉  仲間の肉を食べたということで軍事裁判にかけられる
ルービン少佐が発狂してからは 彼をなだめたり食事の面倒をみたりする
二人だけになり ルービンを殺す意志はないが 殺されそうだったら殺し返そうと
死んだ仲間の大腿骨の骨を石の床で研いで 鋭利なナイフを作る

最初に 儀式 のようなものがあり 地下室の中に 生きていくための秩序が出来ていく
死んだ5人の首は 床に丁寧に並べられたという
その様子を思い描く時 死んだ者の思いを生き残ってる者が厳かに受け継いでいるようにみえる 
語り手がふっと息をつめ 間をおくと 観客もふっと真空になった気配が何度もあった
「誰か一人でも生き残るように 」と自分を差し出す人 食することを拒む人 食して狂う人
ひどい状況にあって 食べなければ生きられない人間への他者の愛?
人間って何だろう   まだまだ 考えきれない
観終わって俳優へ拍手を送りながら 涙があふれた


これは実際にあった事件をヒントにしているそうです 
生存者2名はいずれも発狂していて 銃殺されたそうです
作者は もし1名が正気だったら という仮定で この作品を書いたそうです
コメント (4)
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