代替案のための弁証法的空間  Dialectical Space for Alternatives

批判するだけでは未来は見えてこない。代替案を提示し、討論と実践を通して未来社会のあるべき姿を探りたい。

新刊本紹介『東アジアの弾圧・抑圧を考える 19世紀から現代まで 日本・中国・台湾』(春風社)

2020年01月23日 | 歴史
 長らくブログの更新を怠っていて申し訳ございません。手前ミソで恐縮ですが、この一月に出た本を一つ紹介させていただきます。『東アジアの弾圧・抑圧を考える 19世紀から現代まで 日本・中国・台湾』(春風社)。私も共著者の一人です。

 昨今の状況に照らし合わせて考えると、まことに残念ではありますが、タイムリーなテーマと思います。扱っているのは歴史的な諸事件ですから、最近の中国や台湾や日本の弾圧が扱われているわけではありません。歴史に遡って「権力者がその秩序を維持せんとするとき、いかなる方途で弾圧・抑圧するのか」というのが本書の問題意識で、これは現在にも通じる普遍的なテーマです。

 本書が扱う事件は、江戸時代末期に蘭学者たちが弾圧された「蛮社の獄」事件から始まって、明治時代の言論弾圧、文部省による学問・教育弾圧、中国の清朝の言論弾圧から、戦後の台湾の国民党政権による弾圧・・・など多岐にわたります。それぞれの章がとても重い内容で、非常に読み応えがあります。

 筆頭著者はNHKの歴史番組の「英雄たちの選択」などにもよく出演されている岩下哲典先生(東洋大学教授)です。岩下先生は東洋大学の前身である「哲学館」が明治35年に文部省に弾圧された事件を扱っています。
 私は、赤松小三郎暗殺事件などを題材に書いて欲しいと研究プロジェクトに呼んでいただき、執筆しました。私が書いたのは第4章の「江戸末期の暗殺と明治の弾圧の言説分析 ー『国体』『売国』『国賊』『大逆』」です。事例として佐久間象山、原市之進、赤松小三郎、横井小楠の暗殺事件を取り上げ、明治後の加藤弘之の『国体新論』の絶版事件、内務大臣・品川弥二郎による選挙干渉事件などを取り上げています。暗殺の斬奸状の言説分析を行い、幕末に開国論者を暗殺していった際に用いられた言説が、開国論に転じたはずの長薩藩閥政府による民権派弾圧、立憲政体論者の弾圧にもそのまま用いられていることを論じたものです。国体、国賊、大逆など、それらは、幕末から流行して1945年の敗戦まで繰り返し用いられることになった、水戸学・国学が生んだ「国体」言説なのです。

 分かる人には、当たり前と思えるような内容かも知れませんが、幕末の暗殺と明治の弾圧を並べて論じるということがあまり行われていないことと、じつは上記4人の暗殺事件も、黒幕は誰なのかということになると定説もない状況で、闇はじつに深いのです。
 
 私の書いたものがいちばんアカデミックでないかもしれません。他の章は、それぞれの専門家の手によるものなので読み応えのある論文が並んでいます。
 新事実の発見もあります。紹介しますと、永江貴子先生(拓殖大学准教授)の「明治35年の教科書疑獄事件と中国渡航日本人教育者の動向」という論文、これまで知られていなかった新事実が紹介されています。
 教科書疑獄事件とは、文部省が明治35年に日本の学校教科書を民間会社のものから、文部省の定めた国定教科書に変更しようとする過程で、教科書会社から学校の教員への贈収賄が「国策捜査」によって摘発され、多くの日本人教師が起訴され、退職を余儀なくされた事件です。文部省は、教科書会社の腐敗を大々的にアピールし、それをきっかけに一挙に教科書の国定化を実現したわけです。その際、職を失った日本人教師の多くが、清朝末期の中国にわたって中国の教育の近代化に貢献したのですが、中には孫文や黄興に協力して辛亥革命の助力をしていた教師たちがいたというのです。意外なところで、日本の弾圧事件と中国の革命運動が結びついているというのです。これまで知られていなかったことなので、大変に興味深いです。

 ネットですと、例えば以下のサイトで注文できます。
  https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784861106699
  https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784861106699
  https://www.amazon.co.jp/dp/4861106699
  https://books.rakuten.co.jp/rb/16130886/
 
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