代替案のための弁証法的空間  Dialectical Space for Alternatives

批判するだけでは未来は見えてこない。代替案を提示し、討論と実践を通して未来社会のあるべき姿を探りたい。

「戦争の原因はブロック経済」神話の虚構

2015年08月16日 | 自由貿易批判
 安倍首相の70年談話の最大の問題点は、「欧米諸国が植民地を巻き込んでブロック経済なんか始めるものだから、日本は戦争せざるを得なくなったのだ」という趣旨の主張である。
 どうやら「悪いのはぜーんぶブロック経済なんだもん。日本は悪くないんだもん」とでも言いたいようなのである。何と幼稚な理屈だろう。その上で「ブロック化なんかせず、開かれた自由貿易体制を推進すれば、世界は繁栄し平和になる」というノーテンキな結論を導きだすわけである。戦後70年談話にかこつけてTPP推進まで正当化しようというわけだ。やれやれ。
 
 大恐慌 → 保護主義・ブロック化 → 戦争
 
 というステレオタイプな図式が間違っている。

(1)アメリカの関税率はもともと高い

 世界大恐慌の翌年、1930年にアメリカはスムート・ホーリー関税法を成立させ、平均関税率を一挙に48%にまで引き上げ、これが各国の関税引き上げ競争と保護主義化、ブロック経済化の引き金になったと言われている。

 調べてみればすぐに分かるが、アメリカでは、南北戦争以降の関税率は基本的に40%以上であった。世界でもっとも高い関税率を維持し、保護関税によって財源を確保し、それによって工業化を進める典型的な保護主義国家だったのがアメリカである。

 アメリカで例外的に、関税率が20%台に下がったのは1913年から22年の10年間のみ。スムート・ホーリー関税法による48%の平均関税率は、アメリカの関税保護主義の伝統から見てとくに高いわけではない。なぜ他の時期に関税を40%以上にしても戦争にならなかったのに、1930年代には保護関税が戦争になったのだろうか? 他の条件を捨象して、全てを保護主義とブロック経済のせいにするのは、子供だましの説明でしかない。

(2)第一次大戦は自由貿易体制の中で発生した

 第一次大戦がはじまった1914年当時のイギリスの関税率は0%であった。アメリカの関税率も20%台の低い時期であった。それでも第一次大戦につながった。
 第一次大戦前は、全般的に貿易自由化の風潮が高まっていた時代であり、諸国は貿易で緊密に結びつけられていた。第一次大戦前は、「貿易が活発になり諸国間が緊密に結び付けられれば戦争は起きない」という論調が強かった。にも関わらず、第一次世界大戦は自由貿易体制が発展しつつある中で、冷徹に勃発したのである。
 自由貿易を堅持すれば戦争を回避できるという、安倍首相ならびに大方の新古典派経済学者の主張は完全に誤っている。

(3)貿易・金融自由化 → 大恐慌→ 保護主義 → 戦争

 世界大恐慌は自由貿易体制の中で発生し、その恐慌が第二次世界大戦に結び付いた。つまり悪いのは、大元をたどれば貿易自由化と金融自由化にある。大恐慌以前のアメリカは世界最大の貿易黒字国で、世界中から大量の金・外貨がアメリカに集中した。アメリカは、それらの金・外貨を諸外国に再投資することなく自国内に退蔵し、それが米国内のバブルにつながり、そのバブルがはじけて大恐慌になったのが真相である。煎じ詰めれば自由貿易による不均衡の累積を放置したことが大恐慌の原因であり、それが戦争につながった。
 国際的な貿易不均衡を放置すれば、それはどこかにバブルを生み、それがはじければ恐慌になる。リーマンショックだってそうである。

(4)悪いのは保護主義ではなく差別主義

 英連邦の特恵関税制度は確かに問題だった。英連邦の内と外とで関税率に差をつけた、差別的な保護主義だったからだ。すべての貿易相手国に対し、差別なく平等に高い関税を課すのであれば、それは国際戦争に発展するような問題はない。

 保護主義云々以前に、世界の陸地の4分の1を支配するような植民地帝国が存在したこと自体が根本的な原因なのだ。イギリスがこの広大な植民地を獲得した背景には、利己的な自由貿易制度の押し付け(関税自主権の剥奪)があった。

 TPPは、参加国の内と外とで関税率に差をつけるという、かつての英連邦特恵関税制度に比肩し得る、最悪の形態の差別主義的なブロック経済に他ならない。まさに戦争の原因にしかならない愚行である。安倍首相が、戦争の過去の教訓から「自由で、公正で、開かれた国際経済体制」で世界平和を推進するというのであれば、いますぐTPP交渉から離脱せねばならない。

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