代替案のための弁証法的空間  Dialectical Space for Alternatives

批判するだけでは未来は見えてこない。代替案を提示し、討論と実践を通して未来社会のあるべき姿を探りたい。

米国はフィリピンへの軍事援助を停止せよ

2007年03月30日 | 政治経済(国際)
 3月中に書き上げねばならない原稿が3本あって、すっかりブログの更新をご無沙汰してしまいました。まことに申し訳ございませんでした。しばらくブログを見ずに仕事に集中させていただいておりました。皆様、この間にいただいたコメントへの返信も全くできずに申し訳ございませんでした。

 さて、一ヶ月もブログをサボってしまったので、何から書こうかと迷ってしまいます。本日は昨年の7月13日と7月27日の記事で紹介したフィリピンにおける政治的殺害事件についての続報を書きます。

 この間、何が憂鬱だったといっても、フィリピンの人権問題関係のメーリングリストで、今日は○○州で誰が殺された、今度は誰が殺された・・・・と数日に一回の割合で暗殺事件のニュースが入ってくることでした。もうメールを空けるのが怖くなってしまうくらい・・・・。昨年7月13日の時点で、フィリピンの人権NGOの「カラパタン(タガログ語で権利の意味)」の調べで、アロヨ政権下で合計690名もの左派活動家(農民運動や労働運動の活動家)、住民運動家、ジャーナリスト、教会関係者が殺されたとされていました。それが今年の3月15日の時点ではアロヨ政権下で政治的に殺害された人々の数は838人となっています。この8ヶ月のあいだで実に150人近くが殺されたことになります。最近は、ほぼ3日に2人の割合で、政治的理由による殺人が展開されていることになります。
 
 国連の人権委員会は、だいぶ以前から精力的に調査活動を展開し、暗殺の実行にフィリピン国軍が関与している疑いが濃厚であると報告していました。ところが、フィリピンでは、国連人権委員会の調査団に協力して、被害の実態についての情報を提供した左派政党の女性活動家(ミンダナオ島の東ミサミス州在住)が、調査団の帰国後の今月3月10日にはただちに射殺されてしまうという状況で、言語を絶する恐るべき事態になっています。
 
 最近になって、事態は動き出しています。3月14日には米国上院の外交委員会でフィリピンの政治的殺人事件に関する公聴会を開かれ、民主党のボクサー議員が、米国の軍事援助がフィリピンの政治的暗殺事件に流用されている疑いを指摘し、米国によるフィリピンへの軍事援助を削減すべきだと述べました。

 フィリピンで現在起こっている事態がいかにとんでもないかという事に関しては、例えばニューヨークに本部を置くNGOのCPJ(ジャーナリスト保護委員会)のこの記事をご覧ください。CPJは2000年から05年までのジャーナリストの政治的な殺害事件を調べ、「ジャーナリストが、その報道内容によって政治的な理由で殺された事例が多い上位5カ国」というのを発表しています。順に挙げると、1位がフィリピン(18人)、2位がイラク(13人)、3位がコロンビア(11人)、4位がバングラディッシュ(9人)、5位がロシア(7人)とのことです。1位は何とイラクではなくてフィリピン!!
 1位から3位までの上位三カ国に関しては、明確に米国に責任があります(詳しくはこの記事で詳述)。コロンビアは南米における米国の最大の軍事援助対象国であり、フィリピンはインド以東のアジアでは米国の最大の軍事援助対象国です。フィリピンの日刊紙『Inquirer』のこの記事によれば、フィリピンは今年米国から1760万ドルの軍事援助を受けますが、それはインドネシア、タイ、カンボジア、モンゴルの4カ国が受け取る軍事援助の総額(1130万ドル)を軽く凌駕するそうです。
 フィリピンやコロンビアにおける「報道の自由」を、政治的暗殺という最も野蛮な形態で脅かすのに大いに貢献しているのが米国なのです。中国政府が新聞を検閲するというのとは次元の違う野蛮さです。米国政府に中国政府やロシア政府を批判する資格などありません。他人を非難する前に、先ず自らの責任で引き起こされているフィリピンやコロンビアの問題を何とかすべきなのです。

 私は昨年7月13日の記事のコメント欄での議論において、「あくまでも推測です」と但し書きを付けた上で、次のように書きました。

「フィリピンの軍と警察の腐敗ぶりは目を覆うばかりです。彼らは金のためなら不正など平気で行います。
 裏が取れない情報は書いちゃいけないのがジャーナリズムですが、ブログなので推測で書きます。
 暗殺の資金の出所は、ふつうに考えれば米国以外には考えにくいです。 米国は反テロ戦争の一貫として、フィリピン国軍と共同でフィリピンのイスラム・ゲリラであるアブ・サヤフの掃討作戦を展開しました。
 その過程で、米国が撲滅対象とする「外国のテロリスト・グループ」の中にイスラム・ゲリラのグループとともに新人民軍(フィリピン共産党の軍事部門)も入りました。対テロ戦争で予算もつけているので、米国政府公認の「テロ団体」の掃討作戦に関しては、米国からも相当な資金が流れるものと思われます。
 そしてフィリピン国軍からすれば、完全に覆面の少数のイスラム系ゲリラ・グループよりも、特定がもっとも容易な共産党系の合法活動家を暗殺していって、「対テロ戦争」の業績にしてしまうのが手っ取り早い手段なのです。フィリピン国軍の側も、米国に協力するために「業績」を誇示せねばならないのです」

 さて、私が上記のことを書いた当時、米国の軍事援助とフィリピンで多発する暗殺事件の因果関係については何も報道されていませんでしたが、最近になって事態は動いています。

 「米国上院の良心」ともいえる民主党のバーバラ・ボクサーさん(上院外交委員会東アジア太平洋小委員会委員長)が、3月14日の上院公聴会においてフィリピンの政治的暗殺事件を取り上げました。上院のサイト参照

 ボクサーさんは、米国が比国軍に巨額の軍事援助を実施していると指摘し、それが政治的殺人など非人道的行為に利用されていれば、「援助を削減するべきだ」と述べ、「われわれの手が血で汚れないことが重要だ」と述べたそうです。

 アムネスティ・インターナショナルを代表して米国上院の公聴会で発言したクマー氏も、米国の対フィリピン軍事援助が暗殺事件の原因になっている可能性を指摘し、米国政府に軍事援助が何に使われたのか明らかにするよう要請しています。
(上院のサイト参照) 

 この公聴会を受けて、米国国務省のエリック・ジョン副次官補(東南アジア担当)も、4月にフィリピンを訪問し、国務省として独自にフィリピンの暗殺事件を調査するそうです。米国の国務省は真剣にこの問題を取り上げて、多額の軍事援助を拠出している当の国防総省を牽制するつもりでしょうか。

 この問題は「共和党vs民主党」「国防総省vs国務省」という米国の政党間、政府内部の争いとも絡んで、ようやく取り上げられるようになってきました。私としては、もちろんこの件に関しては、民主党と国務省にはぜひとも頑張ってもらいたいです。ブッシュ政権による「対テロ戦争」などというバカげた名目による軍事援助のバラマキが、フィリピンのような国では、国軍による自国民に対するテロを誘発し、どれだけ多くの無辜の市民の生命を残虐な形で奪ってきたのかわからないのです。米国に自浄能力があるというのなら、その事実を徹底的に究明すべきです。

 フィリピンで続く暗殺事件に関しては、ジャーナリズムでは「政治的殺害(ポリティカル・キリング)」とか「超法規的な殺害(extra-judicial killings)」などという言葉が使われています。しかし私は、これは政治的殺害(ポリティカル・キリング)などではなく、「商売的殺害(ビジネス・キリング)」とでも呼ぶべきではないかと思うのです。暗殺行為に金を支払うパトロンがいるから、資金目当ての暗殺行為が起こるのです。フィリピン国軍内外の暗殺団というのは、巨額の報酬に目がくらみ、金儲けのために実行しているだけなのでしょう。私の目には、一連の暗殺事件は、米国からの軍事援助の「予算消化活動」の一貫としか思えません。

 「何でもいいから対テロ戦争の成果を上げろ」と米国に要求されて巨額の軍事援助を受け取ったノータリンなフィリピン国軍が、とりあえずもっとも簡単に「成果」を出せる方法として考えそうなことといったら、イスラム・ゲリラの討伐などではなく、非武装で合法活動を行う左派政党指導者たちの暗殺なのです。さらに暗殺は左派政党の活動家に留まらず、ジャーナリストや聖職者にまで及んでいるのですからメチャクチャです。

 あの財政難のフィリピン政府ですから、米国からフィリピン国軍への軍事援助がなくなれば、もう暗殺者に支払う資金など独自には拠出できなくなるのです。ゴルゴ13に報酬を支払う国家機関が存在しなくなれば、ゴルゴ13に消される人々もいないというわけです。米国が「対テロ戦争」を名目とした軍事援助を腐敗したフィリピン国軍に供与することがなくなれば、商売的暗殺事件も止むでしょう。これは単純な理屈です。
 
ジャンル:
ウェブログ
コメント (2)   トラックバック (1)   この記事についてブログを書く
« 米国産GMトウモロコシはどん... | トップ | 松岡大臣のご冥福をお祈りします »
最近の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (みーぽん)
2007-04-02 16:30:28
関さん、お帰りなさい!フィリピンの現状をお知らせくださってありがとうございます。本当に胸がつまります。南米とは逆行する傾向ですね。これは米軍が撤退して、資本家の強権装置が弱まった分を、国軍による暗殺で補おうとしている、と見てよいのでしょうか。アメリカにとっても利害がなければ、資金提供を続ける理由はないですよねえ、、、?
みーぽん様 (関)
2007-04-03 11:43:19
>南米とは逆行する傾向ですね。
アメリカにとっても利害がなければ、資金提供を続ける理由はないですよねえ、、、?

 確かに。南米のように、世界中で脱米傾向が進む中、米国の利害としてはコロンビアやフィリピンのように最後まで残った数少ない親米国家を必死にテコ入れしようということでしょう。でも、やればやるほどそれらの国々を目も当てられないメチャクチャな状況にしています。やればやるほど米国への不信感は増大するので完全に逆効果ですよね。
 80年代の米国による中南米での軍事介入がもたらした恐るべき人権侵害の数々が、今日の中南米の米国離れの要因になっているというのに、あの人たちは過去の教訓から学べないようですね。

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

政治経済(国際)」カテゴリの最新記事

関連するみんなの記事

トラックバック

排出権市場にわたしが関わる? (みーぽんの社会科のお部屋)
今日はちょっと毛色が変わって、あまりブログができない言い訳です。 実は、今自分自身が環境関連のNPOの立ち上げに専従者として関わらないか、という話が来ていて迷っているところです。 すでにCO2の排出権市場については