代替案のための弁証法的空間  Dialectical Space for Alternatives

批判するだけでは未来は見えてこない。代替案を提示し、討論と実践を通して未来社会のあるべき姿を探りたい。

【書評】『資本主義と闘った男 宇沢弘文と経済学の世界』(佐々木実著、講談社)

2019年04月24日 | 新古典派経済学批判
 本書を、経済学に関心をもつすべての人々に薦めたい。本書は、単なる宇沢弘文伝ではない。宇沢伝を超えた、第二次大戦後の経済学史でもあり、世界の経済政策の論争史でもある。
 たとえばミルトン・フリードマンがなぜあのような主張をしたのか、なぜそれは勢いを得て拡散されていったのか、そうした事々の時代的・社会的背景まで見えてくる。
 ケインズの衰退から新自由主義の興隆を経て、今後の世界経済がどのような方向に向かっているのか、向かうべきなのか、未来を展望する上でもじつに多くの示唆を与えてくれる一冊である。

 宇沢弘文先生が研究上でかかわった人物たち、ケネス・アロー、ポール・サミュエルソン、ロバート・ソロー、アバ・ラーナー、ポール・バラン、ジョーン・ロビンソン、ミルトン・フリードマン、ロバート・ルーカス、ジョセフ・スティグリッツ、ジョージ・アカロフ・・・・・などは、いずれも戦後世界の一時代と学派を代表する経済学者たちである。

 宇沢先生が交流をもった学派は、新古典派、ケインジアン、マルクス派、シカゴ学派・・・・・・と多岐にわたり、その多彩な顔触れにも驚かされる。
 宇沢経済学の全貌を明らかにしようとすると、世界の経済学の諸潮流と、論争の全貌が見えてくるということの意味は、これらの経済学者たちの横顔を見ればわかってくるだろう。

 もちろん凡庸なライターでは、これら大経済学者の経済思想と格闘し、その思想的核心部分をつかみ取り、各時代にそれぞれの思想がもった意味を明らかにし、さらに一般読者にわかりやすく伝えることなど、到底不可能だろう。しかし著者はそれを成し遂げた。気の遠くなるような大変な作業を積み重ね、本書は成立したのである。

 本書は大変な年月と労力を費やして生み出された。著者はノンフィクション賞作家で、大宅壮一ノンフィクション賞や新潮ドキュメント賞を受賞した気鋭のジャーナリストの佐々木実さんである。

 著者の佐々木さんは宇沢先生の生前から直接にインタビューを繰り返し、本書の準備をしていた。私も佐々木さんと共に宇沢先生の研究会に出席していたので、その仕事ぶりは傍目で見させていただいていた。本書は、構想してからじつに10年以上かかって完成した大著なのである。

 2014年に宇沢先生が亡くなられ、ご本人へのインタビューがかなわなくなったが、宇沢先生の研究に影響を与えたと思われる人物が存命ならば徹底的にインタビューを試み、故人であればその方々が書いた文献を渉猟し、宇沢経済学の成り立ちを明らかにしていった。

 宇沢先生が亡くななられた直後には、佐々木さんは渡米して、ケネス・アロー、ロバート・ソロー、ジョセフ・スティグリッツ、ジョージ・アカロフの四名に単独インタビューを試みている。
 この四名はいずれもスウェーデン銀行賞(俗にノーベル経済学賞とも)の受賞者であり、アローとソローは宇沢先生の恩師かつ共同研究者であり、スティグリッツとアカロフは宇沢先生の教え子に当たる。アローは、その後2017年に亡くなったので、佐々木さんのインタビューは貴重なものとなった。

 本書では、宇沢先生の視点を通して、彼ら大経済学者たちが何を考えどう行動したのかも叙述される。また逆に彼らの視点を通して、宇沢経済学のすごさも明らかにされる。

 本書は、数式など一切使わずに、戦後世界におけるさまざまな経済理論の思想的核心部分をわかりやすく伝えることに成功している。これが並大抵の仕事ではない。真に敬服に値する。
 経済学部の学生たちは、理論が生み出された時代的・思想的背景に注意を払わず、漫然と経済学の諸モデルを学んでいる場合が多い。それでは生きた知識として血肉化されることはないだろう。
 宇沢先生が彼らとどのように交流し、論争したのか、それを知ることで、経済学の諸理論を、机上のものとしてでなく、血の通った人間たちが時代の要請に応えようと苦闘の末に生み出されたものとして、知ることができるだろう。

 佐々木さんは経済学者たちのみでなく、宇沢先生が交流した三里塚闘争の農民たちまで、宇沢先生がかかわったじつに多くの人びとにインタビューを試みている。水俣病、成田、温暖化対策、普天間、ダム、TPP・・・宇沢先生がかかわったさまざまな社会問題への取り組みや運動についても多くを論じている。

 宇沢先生の経済学から、どうしてそれらの社会問題への取り組みが発生していったのか。宇沢先生は経済学者としての顔を社会運動家としての顔があり、それらは別物であるといったことを言う人もいるが、本書を両者は必然的に結びついていることが了解できるだろう。



【参考】佐々木さんが撮影してきたアカロフ、スティグリッツ、ソロー、アロー四名の宇沢先生への追悼メッセージは、youtubeに動画が公開されています。貼り付けておきます。

Good Memories with Dr.Hirofumi Uzawa:Message from his old friends



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1 コメント

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Unknown (12434)
2019-04-25 06:50:49
半分くらい読みましたがなかなかの力作ですね。著者の佐々木さんの努力はすごいです。

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