(有)妄想心霊屋敷

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リテイク Scene9 「存在」

2007-05-19 17:51:06 | リテイク
「あははははわっ!?」
大笑いし続ける香さんだったけど、笑い過ぎて足を滑らせて盛大に尻餅をついた。
(大丈夫ですか?)
水中で脚をばたばたさせて、湯船の端まで泳ぎ着く。
「あいたた……大丈夫大丈夫。ぷぷっ、あはははは!」
(……ホントに大丈夫そうですね)
尻餅をついたままなおも笑い続ける香さんに、
僕はまた湯船の奥のほうへちゃぷちゃぷ泳いでいった。
「あはは……あ、ごめんごめん。紅楼くんがあんまり可愛いからつい。ぷぷっ」
そっぽを向く僕の視界の外から、ぴたぴたと足音。
まだ笑いが収まらないらしいけど、とりあえず立ち上がったらしい。

「ふー、極楽極楽」
ざぶざぶと湯船の中を歩いて僕の隣で湯に浸かると、香さんはそう言って伸びをした。
香さんが歩く際に起きた波に相当揺られる。ずっと続いたら酔うかも……
(あんなに笑わなくてもいいじゃないですか。要するに鳥が普通に水に浮いてただけですよ?
 川とかでよく見れるような光景じゃないですか)
揺られ続けながらもさっきのことについて抗議すると、香さんに掴まれた。
そのまま水面をスライドさせられ、香さんの正面で停止。
「だってただの鳥じゃなくて、紅楼くんだよ?
 中身は普通の男の子なのに、あんなに可愛いなんて反則だよ~」
(女湯に連れ込まれてる辺り、
 男の子というよりはペットとして扱われてるような気が……)
「そんなことないよ。紅楼くんは優しい男の子」
笑みを浮かべながら言われると、疑わしいですね。
なんて思ったその時、香さんからその笑みがふっと消えた。
「あ、でも……気分悪くさせちゃったのなら、本当にごめんね」
僕から手を離し、少しだけ頭を下げる。
でもそれはお辞儀ではなくて、申し訳なさそうに僕から目を逸らした結果。
(いえ、そんなことは……)
ちょっとはあった。だけど、そんなことが気にならなくなるくらいに、
香さんのそんな顔を見てるのが落ち着かなかった。

(そう言えば、声って響くんですよね)
それから暫らく二人とも黙って湯船を堪能した後、
――多分お互いに黙ってたのは別の理由だけど、考えないことにしよう――
香さんの正面から少し泳いで横に並び、なんとなく切り出した。
「ん? そりゃあお風呂場だし響くけど……どうかした?」
普段よりちょっとだけ低いトーンで香さんが返す。
その声もまた、大声ではないにしてもちょっとだけ響いた。
他に誰も居ないから気付ける、というレベルだろうけど。
(壁にはちゃんと跳ね返るのに、人の耳には届かないんですね)
壁に跳ね返るということは、
生きてる人の声と同じくちゃんと空気を振動させているということだ。
でもなぜか生きてる人には伝わらない。
「そう言えば……そうだよねー。
 なんとなくそういうものだって納得してたけど、よく考えたら不思議だね」
ちょっと考えた後、こちらを向いていつもの笑顔。よかった、また見れた。
(まあそんなこと言ったら僕のテレパシーなんか、なんなんだって話なんですけどね)
「あはは。私達、お互い『科学じゃ証明できない存在』だからねー。
 ……なんか格好いいね。そう考えたら」
「存在」なんてまた凝った言い方を。まあ確かにそうなんですけど。
じゃあ僕もちょっと格好つけてみますかね?
(科学じゃ証明できないけど、僕たちは確実に存在してますよね?)
「そうだね。最初は自分でもびっくりしたけど」
でも存在しているということは……
(じゃあ僕たち、どこに向かって存在してるんでしょう?
 幽霊もいつかはやっぱり消えちゃうんでしょうか?)
「おお~。紅楼くんが怪しい博士みたい……」
怪しい博士ってそんな……まあ真面目な反応をされても困っちゃいますけど。
「でもそれもそうかぁ。
 幽霊がずっと消えないんだったら、今頃幽霊で世界がパンクしちゃうよねー。
 どうなっちゃうのかな? 私たち」
と思ったら真面目な反応をされた。と言ってもシリアスな内容に反して笑顔のままだけど。
(やっぱり解りませんよねぇ。まあこのまま過ごしてればそのうち解るんでしょうけど)
「理由は解らないけど、やっぱりそのうち消えちゃうって考えるのが自然だよね」
(……銭湯でのんびりしながら話すことじゃないですよね。
 やっぱり今は、ただのんびりしましょう)
「そう? 私はこういう話も好きだけどなー。
 まあ私、頭悪いからついていけないかもしれないけどねー」

「(ああ気持ちいい……)」


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