(有)妄想心霊屋敷

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リテイク Scene10 「帰り道」

2007-05-20 17:51:08 | リテイク
「そう言えばさ、『生まれ変わり』ってどうなんだろう?」
暫らくお湯を堪能していると、腰をずらして肩までお湯に浸かり、
大きな富士山が描かれたタイルの壁に頭を預けた香さんが、独り言のように呟いた。
でも僕にもはっきりと聞こえたので、答えることにする。
(生まれ変わりですか? どこかの誰かになってもう一回生まれるってやつですか?)
「うん」
顔の角度はそのままで答える。まあ、顔だけ元に戻したら口がお湯に浸かっちゃうからね。
「私達って、幽霊でしょ? ってことは、魂ってことなんだよね?」
(そういうことになりますね)
香さんにしてはちょっと真面目な感じ? ……あ、失礼だな、これは。
「魂ってことは、命そのものなんだよね? じゃあ私達って今、生きてるのかな?
 それともやっぱり死んでるのかな」
(う~ん……難しいですね。戸籍上は死んでるんでしょうけど、
 今銭湯に浸かってリラックスしてるのも事実だし……)
僕達の「体」は確かに死んだ。でも、その中身が今もこうして生きている。
……ああ、頭がオーバーヒートしそうだ。ただでさえ温まってる所にこれじゃあ……
「それで、私達が『体』を亡くした命そのものだってことは……
 言い方は悪いけど、リサイクル? みたいな。
 そんな感じでぐるぐる回り続けるのも考えとしてはありかなー、なんて思っちゃって」
(でも僕、テレビとかでたまに聞く『前世の記憶』なんてありませんよ?)
熱くなってきたのでお湯から上がり、浴槽の縁に避難する。ふう、ひんやりして気持ちいい。
「あはは、私もない。きっと、殆ど全部の人は忘れちゃうんだよ。でもたまに、ごくたまに、
 憶えてたり何かのきっかけで思い出す人が居たりするんだよ」
(でも全然関係ない人の記憶なんてあったら、僕は気持ち悪いなぁ。
 記憶なんてあろうがなかろうが、自分は自分でしかないんだし)
あー、今目の前に鏡があったら、僕自分で笑うかも。なんだこのキザカラス。
「それもそうだねー。
 ……まあでも全部、生まれ変わりがあるって言う仮定があっての話なんだけどね」
そう言いながら、再び水面から肩を浮上させる。
「そろそろ上がろうか。ちょっとくらくらしてきちゃった」
こちらを向いていつも通り微笑むと、その頬は薄く赤みがかっていた。
(そうですね。僕ももう限界ですし)
カラスは赤くならないんだろうな。

「じゃ、またあっち向いててねー」
(はい)
体をしぼったタオルで軽く拭いてもらうと、またこの時間がやってくる。
番頭さんが居るので、先に出ることができないのだ。
まあ小さいからばれないかもしれないけど。
香さんが体を拭く音、服を着る音が、誰も居ない更衣室の狭い範囲で聞こえてくる。
その狭い範囲内に入ってしまっている僕の中では、理性と欲望が激しく争っていた。
だって、男の子だもん。
「おまたせっ」
なんとかタイムオーバーにもつれこみ、理性の勝利。

(これからどこに行くんですか?)
香さんの体から立ち昇るほかほかさを自分の足の裏とすぐ隣の頬から感じつつ、
どこかへ向かう香さんに訊いてみた。
「んー? とりあえず一回公園に戻るよ。することもないしねー。
 それにしても紅楼くん、ほかほかしててあったかいなぁ」
お互い様ですよ、と言おうとしたところ、香さんの足が止まった。
「ねえ、冷えちゃう前にギュッてしてみていい?」
(ええ!? だ、だめですよそんな!)
「お願いっ! 一回だけ!」
うう……

(……やっぱり僕、ペットとして見られてるんじゃないですか?)
荷物を降ろして、ちょっと苦しいくらいに両腕で絞められる。でも……温かいな。
腕以外に当たってるものは、気にしないようにしよう。
「……………ねえ紅楼くん」
問い掛けたのは僕なのに、香さんはそれに答えずに訊いてきた。
(なんですか?)
「よくさ、『男は中身で勝負』とか聞くけど……」
ちょっとだけ腕の締め付けがきつくなる。
「さ、さすがに変かな。カラスが好きになっちゃうって」
(うぇ!? え、えと、その)
あまりに急な展開に、殆ど動くスペースのない腕の中でもぞもぞと見をよじらせる「僕」。
……つまり、その、多分、今香さんが言った「カラス」。
「き、昨日会ったばかりでこんなの絶対変だけど……
 多分、死んでからずっと独りぼっちで寂しかったからそう思うだけなんだろうけど……

 紅楼くん、好きです」


2 コメント

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Unknown (さきまんじ)
2007-05-20 21:56:55
まさかの展開
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Unknown (代表取り締まられ役)
2007-05-20 23:26:11
コメントありがとうございます。

この話は意欲作と言うか、
ちょいと「思いつきでやってみよう度」が高いので、
いろいろ急展開だったりすると思います。
いずれにせよ、欲(以下略)ほどの長話にする気はないので、
どうぞお付き合いください。
……気がないだけでもしかしたら、
なんてこともあるかもしれませんが。
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