弁理士『三色眼鏡』の業務日誌     ~大海原編~

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【商標_審査基準】今持っている商標を他の種類の商品にも広げやすくする??(昨日の続き)

2017年01月25日 08時27分00秒 | 実務関係(商・不)
おはようございます!
今日も冷えてます、でも気持ちいい空気の湘南地方です。

日曜日に痛めた腰の調子がもう一つです。

さてさて、昨日の投稿で取り上げた日経の記事。
後半部分の検証、の続き。

該当部分を、改めて引用(1/21発信記事より)
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審査基準を変更し、今持っている商標を他の種類の商品にも広げやすくする。
1つの商品に対する商標を出願した際、あとで対象の商品を追加したい場合、
1つ目と追加したものとまとめて申請できるようになる。

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(引用終わり)

あの後、審査基準WGの議事録を一通り確認したのだけれど、
該当する項目はないのですよ。

ただ、

もしかしてこれのことを言っているのかな?と思った。

特許庁HP
産業構造審議会知的財産分科会商標制度小委員会
第21回商標審査基準ワーキンググループ議事要旨
」より一部引用
=============================
商標法制定の趣旨違背を拒絶理由とする場合における適用条項について

同一の商標について全ての指定商品又は指定役務が同一の場合に
「商標法3条の趣旨に反する」との拒絶理由を適用する運用について、賛成の意見が多く出された。
また、実際にこの運用が適用されたときは、すぐに拒絶査定をすることなく補正指示等を出して欲しい旨の意見が出された。
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「商標法制定の趣旨に反する」、という実務上まれにある拒絶理由。
いわゆる「精神拒絶」(というらしい。自分では使ったことないけど)
同一人の出願で先の出願/登録と商標同一かつ指定商品(役務)が同一だと発せられる。

ただ実務上としては、
例えばあるマークについて登録を受けていて、
その後そのマークに関する事業内容が拡大したときの商標の保護の方法としては以下が考えられる。
(方法1)拡大した事業分野についてのみ出願して権利を取得する
(方法2)先に登録になっている部分についても含んだ形で、改めて全事業範囲に関する指定商品につき出願する

権利取得/維持のコスト、あと事務的な手間を考えた場合、
(方法2)の方が優れている場合がままある。
典型的なのは、元々の事業分野と拡大した事業分野、それぞれの指定商品(役務)が同じ区分に属する場合、
別々に出願、登録すると、同じ区分について2件の登録/維持コストがかかってしまう。


…判りにくいかも知れないので具体例([ ]は商品/役務の区分)。
仕出し弁当屋を営むA社は、9年前に指定商品「第30類 弁当,そうざい」について商標Mを取得していた。
9年の間に事業は急成長し、商標「M」ブランドの
①調味料[第30類] の物販がヒットした。
更には近々、商標「M」を看板に掲げた
②レストランチェーンも運営する計画がある(「飲食物の提供」は[第43類])。


とまあこんな場合。
商標権の存続期間は10年、但し更新が可能。
「弁当,そうざい」について更新、「調味料」「飲食物の提供」について新出願をすると、
・第30類「弁当,そうざい」
・第30類「調味料」+第43類「飲食物の提供」
という2件の権利が別々に生まれることになる。
3区分ぶんの費用(同じ30類についてダブルで費用がかかる)を支払うことになり、無駄なコストがかかる。

なので、更新が近い場合、
“期限も近いので、先の「弁当,そうざい」を巻き込む形で出願しますか?”
とアドバイスすることがある。
その利害得失は別稿で触れるが、
この出願に対してかかるのが、上で触れた「商標法制定の趣旨に反する」という拒絶理由。

実務上は、敢えてこの拒絶がかかるまで待つ。
そして、この拒絶理由以外が通知されなかった(=他に障害がない)ことを確認して、
先の登録を放棄する。これにより後からの“巻き込み”出願が登録になり、
・第30類「弁当,そうざい,調味料」+第43類「飲食物の提供」
という1件(2区分)の登録になる。



この運用、条文上の根拠が明確でないということもありしばしば俎上にあがる。
実際WGでもこの点は議論がされており、
第20回の議事で
「資料2のケース1(すべての商品・役務が同一の場合)についてのみ拒絶理由に該当するという方向性は支持された」
とある。
つまり、適用するのは「過不足なく完全一致の場合」のみであり、
上記着色した事例のような「巻き込む場合」には適用しない、ということのようだ。


冒頭の記事を改めて読むと、どうやらこのことを言っている、と捉えられる。
ただまぁ、ひじょーーにミスリーディングな書き方だよなー。
(昨日の「商標の『共有』」という書き方も不正確だと思ったけど)
「申請」に「追加」、なんて概念とは全く異なるでしょ。
昨日取り上げた項目と同等な扱いで書いている点も含め、ちょっとした「誤報」レベルだわ。


とまぁ、あれこれ調べた挙句こんなオチだったか、というお話でした。
ちゃんちゃん♪
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