弁理士『三色眼鏡』の業務日誌     ~大海原編~

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【知財記事(商標/著作権)】「やめられない、とまらない!」の著作物性/識別標識としての機能

2017年12月14日 08時19分32秒 | 知財記事コメント
おはようございます!
今日もいい天気!な湘南地方です。
…それでも今日は一日事務所でお籠りです。ま、気分転換にお散歩くらい出るかもだけど。

さて、今日はこんなニュース

(デイリー新潮より引用)
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かっぱえびせん「やめられない、とまらない!」を考えたのは私 生みの親がカルビーを提訴

1964年の発売以来のロングセラー「かっぱえびせん」。そのお馴染みのキャッチコピーをめぐり、生みの親がカルビーを訴えた。

「えびせんをつまみながら、企画を考えていました。一袋目を食べ、もう一袋を開けようとした時、“思わず手が出る やめられない とまらない”といったフレーズが閃いたのです」

と語るのは、当時、かっぱえびせんのCM制作を請け負った広告代理店「大広」の元担当者・日高欽治氏(80)である。このCMは広島と東京で放送され、その後、別の代理店に代わり拡大版が全国放送されると、かっぱえびせんはカルビーの大ヒット商品に。だが、件のコピーの発案者は長らく不明とされてきた。

それを知った日高氏は、2010年にカルビーに手紙を送り、同社の東京本社を訪問。“誕生秘話”を披露すると伊藤秀二社長は感激し、社内報に載せるための写真撮影もあったという。
ところが、後にCMを別の会社が著作権登録していたという理由で、社内報への掲載は見送りに。さらには、社長との面会後に放送されたテレビ番組や新聞記事では、“コピーは社員が考えた”と紹介されていた。

これに怒った日高氏は、名誉を傷つけられたとして今年7月に東京地裁に訴えを起こした。

自分に著作権があるとは思っていません。ただ、テレビ番組や新聞を見た人は、どう思うか。私が嘘をついていたと思うはず。それはクリエイターとして堪えがたい

(以下略)
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(引用終わり)

まあ、日本人なら知らない人はほとんどいないんじゃないか、というあのフレーズです。

記事の内容を読む限り、著作権侵害といってるわけではなく、名誉を傷つけられたことに対する損害賠償の模様。
クリエイターとしてのプライドの問題ですよね。争い自体は「やめられない、とまらない」とはならず和解で落ち着けば良いなぁと思います。

ところで。知財的に観点は2つ。

(1)「やめられない、とまらない!」は、「著作物」にあたるか?(著作物性)
(2)「やめられない、とまらない!」は、商標登録対象になるのか?(識別標識としての機能発揮)


(2)については、実は答えが出ています。
フレーズそれ自体(第4913278号)、それと音の商標(第5886594号)とも登録されています。
フレーズ自体について出願されたのは2005年。当時はまだキャッチフレーズの登録については今よりも多少厳しめだったにもかかわらず、
中間で特に拒絶が出されることもなくすんなり登録になっています。
その意味で(使用の積み重ねの有無は関係なく)フレーズ自体が特定の出所を表示するものとして本源的に機能するもの、という判断がされていることになります。

音商標については、歌詞の中に「カルビーかっぱえびせん」が入っているので、問答無用で登録ですね。

問題は(1)です。
この点、比較的最近の判決で、同様な長さのフレーズ「ある日突然、英語が口から飛び出した!」他について以下のように示されています(H26(ワ)21237)。

「著作物といえるためには,「思想又は感情を創作的に表現したもの」であることが必要である(著作権法2条1項柱書き)。「創作的に表現したもの」というためには,当該作品が,厳密な意味で,独創性の発揮されたものであることまでは求められないが,作成者の何らかの個性が表現されたものであることが必要である。文章表現による作品において,ごく短かく,又は表現に制約があって,他の表現が想定できない場合や,表現が平凡でありふれたものである場合には,作成者の個性が現れていないものとして,創作的に表現したものということはできない。…原告キャッチフレーズ2は,「ある日突然,英語が口から飛び出した!」というもの,原告キャッチフレーズ3は,「ある日突然,英語が口から飛び出した」というものであるが,17文字(原告キャッチフレーズ3)あるいはそれに感嘆符を加えた18文字(原告キャッチフレーズ2)のごく短い文章であり,表現としても平凡かつありふれた表現というべきであって,作成者の思想・感情を創作的に表現したものとは認められない。」

上記を原審とする控訴審(H27(ネ)10049)において、更に以下のように判示されています。
控訴人は,創作性の問題の本質は長さの点になく,創作者の何らかの個性が現れていれば足りるし,短い表現であっても,選択の幅が狭いとはいえない以上,控訴人キャッチフレーズ2について,著作物性が肯定されるべきである,控訴人キャッチフレーズ2は,五七調の利用や人物を主語としない表現という意味で,需要者に強く印象を与えるものであり,従業員が試行錯誤して完成させた,他の英会話教材の宣伝文句にはない,独自のものである旨主張する。
 しかしながら,許容される表現の長さによって,個性の表れと評価できる部分の分量は異なるし,選択できる表現の幅もまた異なることは自明である。特に,広告におけるキャッチフレーズのように,商品や業務等を的確に宣伝することが大前提となる上,紙面,画面の制約等から簡潔な表現が求められ,必然的に字数制限を伴う場合は,そのような大前提や制限がない場合と比較すると,一般的に,個性の表れと評価できる部分の分量は少なくなるし,その表現の幅は小さなものとならざるを得ない。さらに,その具体的な字数制限が,控訴人キャッチフレーズ2のように,20字前後であれば,その表現の幅はかなり小さなものとなる。そして,アイデアや事実を保護する必要性がないことからすると,他の表現の選択肢が残されているからといって,常に創作性が肯定されるべきではない。すなわち,キャッチフレーズのような宣伝広告文言の著作物性の判断においては,個性の有無を問題にするとしても,他の表現の選択肢がそれほど多くなく,個性が表れる余地が小さい場合には,創作性が否定される場合があるというべきである。」

翻って、「やめられない、とまらない!」という宣伝広告文言の(著作物該当性という意味での)創作性はどう評価されるべきでしょうか?
これが節や抑揚という音楽的要素も伴った、CMで用いられているジングル的な表現についてということになると、選択の幅の多様性も十分に認められ、著作物性は当然肯定されると思います。
“別の会社がCMを著作権登録していた”という点も、こういう絡みかと思います。
しかし文字要素だけ、となると…誕生秘話のキャッチーさなどは創作性とは無関係ですし、商品の魅力を表現する語彙選択としては、他人の自由を制約する程度にまで保護すべき個性の表れとは評価されない可能性の方が高いように思います。

なお、もし仮に「やめられない、とまらない!」に著作物性が認められた場合、かたや商標権者、かたや著作権者、という構図になり得ます。
この場合どうなるかというと、商標法第29条に調整規定があり、商標権者は自らの登録商標であるとしても権利が抵触する部分については使用ができないことになります。
…もっともその場合でも、フレーズ開発経緯に鑑みれば生みの親は広告代理店の担当者として発案した以上、「職務著作」に該当していた可能性が高く、個人には属していないと思われます。
代理店とクライアントとの契約次第ですが、カルビー自体が著作権者になっていることが推察されます。


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