弁理士『三色眼鏡』の業務日誌     ~大海原編~

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【商標】ゼロサムで考えると判断がゆがむ(「大迫半端ないって」Tシャツ)

2018年06月26日 08時17分37秒 | 実務関係(商・不)
おはようございます!
梅雨の晴れ間(何度目!)の暑さが身体にこたえる湘南地方です。

さて、開幕前の予想に反し善戦していることもあり、世間ではサッカーが盛り上がっているようです。
今年の流行語大賞候補ともささやかれているのが掲題の「大迫半端ないって」。

で、これにまつわる商標「OSAKO HANPA NAITTE」が4年前に登録されている、ということが取り上げられているのがこちらの記事


…いやまあ、スポーツ新聞だし、正確性を期するのは酷だとも思うのだけど、
登録商標は「OSAKO HANPA NAITTE」(第5711702号)。「大迫半端ないって」ではない。

で、ユニクロでオリジナルTシャツを作ろうと思って申し込んだら審査に通らなかった、という記事がこちら

これらの情報を総合すると、普通の人はこう考える。

“「大迫半端ないって」という文字をTシャツに記して販売したら商標権侵害になる”

→ホントか??



形式上、「標章」について「使用」とは、当該マークを商品等に付する行為等をいう。
したがって、Tシャツの前身頃に文字を記す行為も、少なくとも形式上は「使用」にあたる。

しかし一方で、商標権侵害に該当するかの判断にあたってポイントとなる概念として「商標的使用」というのがある。
これは平たく言うと、“そのマークが自他商品識別標識として認識される態様で付されていること”を意味する。
商標の本質的機能が、自他商品識別機能である以上、
“如何に形式上「使用」に該当するとしても、それが標識として機能しない態様だと侵害等を構成しないよ”
ということになる。

「商標的使用」にあたるか否かは、正直個別具体的に判断されるところだが、例えば以下の要素は考慮される。
1)そのマークが付された位置
 :業界や商品によって、「通常商標が付される場所」というのがある。
  例えば「段ボール箱」についての商標の使用は、段ボール箱の見やすい位置ではなく、側面ないし底面の隅に小さく記載されることが多い。(段ボールの見やすい位置に付されたマークは、通常は「内容物」についての表示と認識されるから)
  同様に、被服については、一般的には「タグ」に表示されることが多い。
2)そのマーク自身の識別力の強弱
 :当該表示が本源的に識別標識として認識され易いものか否かというのも考慮要素になり得る

3)他のマークも使用されているか否か
 :例えばそれが当該商品に付されている唯一の表示の場合、取引者・需要者としては識別標識として認識する可能性が高い。一方複数のマークが付されている場合、どれが「商標」として認識されるかはケースバイケース。

実際この点についての判例は古くからあり、Tシャツの前身頃について直接的に判断した事例もある。
「ポパイアンダーシャツ事件」では、
“もっぱらその表現の装飾的あるいは意匠的効果である『面白い感じ』、『楽しい感じ』、『可愛いい感じ』などにひかれてその商品の購買意欲を喚起させることを目的として表示されているものであり、一般顧客は右の効果のゆえに買い求めるものと認められ、右の表示をその表示が附された商品の製造源あるいは出所を知りあるいは確認する『目じるし』と判断するとは解せられない。”
と判断
=平たく言えば、「この前身頃の表示は、デザインであって商標じゃないから侵害にならないよ」という判断。

→じゃあ“Tシャツの前身頃の柄はオールオッケーじゃん!?”
 というのもまた危険なゼロサム思考。
 これと同様な判断(例えば「Surf's Up」事件)も異なる判断(例えば「Heaven」事件)も少なからず出ている。それぞれに前提事実が異なることや、取引実情の変化(例えばスポーツメーカーが自社のロゴを前面に押し出したTシャツを販売することも増えたり)には留意が必要。


さて、じゃあ結局「大迫半端ないって」Tシャツは作っても良いの!?
という話なわけですが…。

少なくとも即断で「アウト」ではない(上記新聞記事はちょっとミスリーディング、だと思う。含みは残してるけど。)。別途商標として認識されるマークが付されていて、飽くまで意匠的効果を狙った表示として把握される表示であれば終局的には商標的使用にあたらない、という判断に傾く可能性の方が高いのではないだろうか?

もっとも上記で触れたユニクロオリジナルTシャツの例は、リスク回避の観点からはある種当然の対応とも思われる。ただこれは“リスク回避のための安全策”であって「侵害確定」を意味しない、ということは注意したい。


あと、同業の先生が当該商標登録を無効にできるか、という観点から書いているので(→こちら)ご参照されたい。
※文中でご本人も書いているのと同じく、当職としても「本件は無効にすべき」といったバイアスはかかっていないので念のため。
コメント
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