<内容>(裏表紙を引用)
”連続する養女誘拐事件の捜査は行き詰まり、捜査一課長
は世論と警察内部の批判を受けて懊悩する。異例の昇進
をした若手キャリアの課長をめぐり、警察内に不協和音
が漂う一方、マスコミは彼の私生活に関心をよせる。こ
うした緊張下で事態は新しい方向へ!幼女殺人や怪しげ
な宗教の生態、現代の家族を題材に、人間の内奥の痛切
な叫びを、鮮やかな構成と筆力で描破した本格長編。 ”
(注)ネタバレを含むと思われる部分は見えないようにしています。
ネタバレOKなら全体を反転させて見てください。
読み終わった瞬間、「やっぱりな」と思った。
いわゆる叙述トリックもの。
物語の構成が、誘拐事件の捜査部分と、
ある男が新興宗教へ傾倒していく部分との
交互の描写になっている。
一見、係わり合いがないように思えるが、
その辺は読み進めるうちに徐々に分かってくる。
ただ、構成があまりにもあからさま過ぎるので、
叙述ものを数多く読んでいる人なら、
最後のオチの見当はついてしまうだろう。
かく言う私も、途中でオチが分かってしまった一人。
まあ、それは叙述トリックものの宿命であるので、たいしたことではない。
一番ひっかかったのは、計7つの誘拐事件が起きていて、
そのうち3件は犯人が判明しているにもかかわらず、
物語の中核をなしている、残り4件の誘拐事件の犯人が判明していないと言う点。
叙述トリックだけに焦点を当てるなら、なんら問題はないと思うが、
叙述トリックを別としてみた場合、物語の中心を担っている
”謎”を中途半端なまま残すのはどうかと思う。
すべての物語はそこから始まっており、
読む側としての期待は、その”謎”が解かれることにある。
言うまでも無く、叙述トリック自体は二の次であり、
言ってしまえば、ただの”オマケ”だと思うからだ。
その意味で、この『慟哭』は後味の悪さだけが残り、
全体的に中途半端な印象を受けてしまった。
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