2021年8月のブログです
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樋口有介さんの『八月の舟』(1999・ハルキ文庫)を久しぶりに読みました。
何度か読んでいるのですが、感想文は初めて。
高校生のやるせなさや切なさ、不安などが淡い恋と一緒にうまく描かれています。
主人公は母子家庭で育つ男子高校生。
高校生にしてはニヒルな人生観を持っていますが、好きな女の子にラブレターをうまく書けないでいて悩むという、高校生らしさ(?)もあります。
例によってあらあすじはあえて書きませんが、不良の親友やその女友達、その周りの同級生やおとなたちとのやりとりが、軽妙でかつ少しだけ哀しいです。
解説の諏訪来人さんが、樋口さんの小説は、世の中の人間はすべてが努力をしても成功するわけではないが、でも悪いことばかりでもないと励ましてくれる、と述べておられますが、うまい表現だと思います。
ここには、努力をすれば必ず報われる、という安直な人生観を否定し、しかし、頑張ればそれなりのことはある、という実直な人生観があるようです。
そして、かなわないことへの哀しみ、やりきれなさ、失望などが避けられないことも経験します。
これらが、硬直な人生論でなく、すてきな物語として美しく語られるところが魅力です。
文句なしに面白く、そして、少しだけ哀しい小説です。
暑い夏にも、清涼な読書ができて幸せです。 (2021.8 記)