赤ガエルのボンヤリ日記

クルマもカレラ、自転車もカレラ、
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読んでるこっちののども鳴る~「極道めし」:土山しげる

2007-11-26 22:09:29 | こんな本を読んだ(マンガ編)
ふだんは一切、いわゆる”任侠モノ”は読まないのだが、この『極道めし』は評判を聞いて読んでみようという気になった。
いやあなかなか面白い。うまいものを取り上げた作品はいろいろあるが、こういう舞台設定で「美味い」を表現するとはなかなか目の付け所が「上手い」!

 

舞台は関西、全国から極道たちが集まる浪花南刑務所、受刑者たちの1年最大のお楽しみといえば、大晦日の夕食に出されるおせち料理の折り詰め(雑煮・茶碗蒸し・みかん・お菓子つき)。このおせちを食える1週間前のイブの夜、雑居房で暮らす男たちがおせちをめぐって壮絶なバトル?を展開する。

"自分がいままで食べたいちばんうまい食いもの"について順に語り、他の受刑者ののどを「ゴクリ」と鳴らせばポイント獲得。一番多くの仲間ののどを鳴らしたものが優勝、他のメンバーの折り詰めから好きなおかずを1つずついただけるというのがバトルのルール。
たかがおかずと笑ってはいけない。普段からムショの簡素なメシしか口にしていない受刑者たちにとって、食べ物はシャバじゃ想像もできない切実な問題なのだ(ということをストーリー冒頭でまずすり込まれる)。だからおせちのおかずといったらこりゃあもう大変な重要問題なのだぞ、といつしかこっちにも切実さが伝わってくるわけだ。
(実際問題として、極道ぞろいの雑居房にしてはやけに和気あいあいとしていて、住人の話題はただひたすら食いもののことばっかり、
そんなぬるいムショあるのか?
あと、偏見まじりで言っちゃうと関西弁で語る美味いモン話ってやっぱり美味さを引き立てます。


ところで肝心の"美味いもの自慢大会"について、ここで書いちゃったら上手さも半減。

興味のある人は実際に読んでみればわかるけど、ぼくがこれを読んで一番"上手い"と思ったのは、(美味いとか上手いとか、ややこしいなあ)モノの美味さを感じたり他人に感じさせたりするのは、やっぱり「食べるものだけじゃない」っていうことを、作者がはっきり打ち出しているところだった。

このあいだ読んだ『孤独のグルメ』とも通じるけれど、モノを食べるのはただ食いものと言う物体を口に入れるだけでなく、いつどこで誰とどんな状況でそれを食べたかが、モノの美味さを決定するという当たり前のことを改めて見せてくれる。(独りで食べるというのもひとつの状況だ)

ここにはそれほどうんちくや能書きの並んだ食べ物は出てこない。というかぶっちゃけありきたりな食べ物が多い。でも食べて語る連中がどこでどんな状況でそれを味わったかという描写によって、仲間ののどが鳴るか鳴らないか分かれてしまう。男たちはおせち欲しさに懸命になって自分の体験を聴衆に向けて披露する。
決して、食材や料理に貼り付けられたブランドやらラベルなぞを主役にしようとしない姿勢が、食べることの本質を突いているようで好ましい。

作者の土山しげるは、これまでにも裏社会モノや食べ物の話をたくさん書いてきてる人。そういや『極道ステーキ』とか『借王(シャッキング)』とかいう題名、すすけた定食屋とかの棚で見た覚えがある。
そういう意味ではこの作者、「裏社会の食べる話」というのはまさにぴったりの人といえるのかもしれない。
(「協力・大西祥平」って人が気になるのだが・・)

こういう"勝負もの"の問題点として、勝負が進むにつれて技がどんどん強力になっていく「強さのインフレーション」問題が危惧されるが、第1幕終了であっさり舞台を別の房に移すことによって、"選手"も"リング"も"必殺技"もリセットして戦いのおかしな馬力アップを防ごうとしているのも賢明だと思う。

ちなみにヤフーのデジタルコミックスで1巻の1/3近くが立ち読みできます。

とにかく、まずは空腹時にお読みになることをお勧めします。


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