食事のルールを任された坂本は、翌日皆が出社した際にコピーを配布し、説明をしている。
「キッチンの冷蔵庫の脇に食事表なるボードを掲げておきます。氏名、朝食、昼食、夕食の欄に必要の際には○印を付けてください。必要ない場合は×印をお願いします。毎朝オーダーを確認しますので、消し忘れのないようにしてください。其の侭にしておくと、食事を用意してしまいますのでご注意ください。毎月月末に〆て、翌月5日に集金します。尚5日に出張等で不在の場合は5日前にお支払いください。「給与から天引きできないのかな？」「そうですね、相談してみます」今日の朝食からスタートする。トースト、ハムエッグ、サラダ、コーヒーで200円は朝マック並みの価格である。昼食は牛丼で290円、夕飯はハンバーグ、味噌汁、漬物、筑前煮で450円である。スタッフたちには好評のようである。今朝は神庫も一緒に朝食を食べている。「これで200円はいいよね」隣に座った志賀に声を掛けている。スタッフの栄養管理にもいいことである。
朝食後配達証明郵便が神庫に届いた。イ・ボンミ氏からである。開封してみると、「通告書」とある。
「貴殿は遵守事項に抵触したため、3月10日付で退会を通知します」とある。ユイカの件だなと直に理解した。神庫は良い機会と思い、イ・ボンミ氏に面談を申し入れた。
「神庫さん、ユイカがここを辞めたのは、貴女の差し金だそうですね？」「ええ、当社に来てもらっていますが」「かなり投資した物をそういう形で持っていくのは、損害賠償に値します。まるでユイカはモノ扱いである。
「ユイカさんの意思ですから」話は平行線である。
神庫は話題を変えてみた。「ここを紹介してくれた井川社長にも伝えたほうがよろしいのでしょうか？」「こちらからすでに連絡しております」「井川社長は今、色々と問題を抱えているようなので、要らぬ情報は提供したくないのですが」「何か重要な問題でも？」「コンプライアンスのことも影響がありますので、余り他言はしたくないのですが、帝王が経営的に困っていることはご存知だと思いますが」「井川さん自身が仰っていましたね」「ええ、他社にもその情報が流れているようで、提携話など様々なところからアプローチされています。交通整理で多忙なのです」「あなたはその件に関わっているのですか？」「ええ、多少は」イ・ボンミ氏が乗ってきた。少々はったりが利いたようである。「神庫さん、ビジネスの話をもう少し詳しくお話したいのですが、改めて時間をとっていただけませんか？」「構いませんが」「後日連絡させていただきます」
「ユイカ、シークレット退会させられたよ」「私のせいかしら？」「多分ね。売れっ子を引き抜かれたようなものだから逆鱗に触れたのだろう」「残念なの？私は嬉しいです。先生が他の女性とああいうことをするのは許せないんです。これで安心しました」「ユイカ、イ・ボンミ氏と近々合うことになるのだが一緒に来る気ある？」「いいですよ、きちんとご挨拶もしておきたいですから。それに悪いことをしたわけではありませんから…」「そのときはお願いしますね」井川に連絡を入れてみた。「井川社長、エムソンが日本攻略をさらに強めていくということが韓国から連絡が入りました。帝王としてうまく対処しておくことが重要と考えます。打ち合わせしたいのですが」「分かりました」「ユイカ、君のところで働いているんだって？」「ええ」「とんびに油揚げだな。やることが早い。コンサルタントはそうでなくてはいけないけどね」分けの分からない発言である。
「井川社長、エムソンと交渉する気はありませんか？」「何故？何の交渉ですか？」「マーケットを荒される前に、封じ込めるためです。かなりの資金を用意して日本企業に打診するでしょう。その資金を帝王に落としてもらいましょう」「エムソンの傘下に入れというのか？」「M&Aではありません。提携というのはどうでしょう？100億近くを導入してもらえれば、リストラに力を注ぐことも必要なくなります。さらにエムソンを通じて東南アジアのマーケットも攻めることができると思うのです」「エムソンが話に乗るかな？」「重要人物とはすでに接触しております。近々再度会うことになっています。状況によっては井川社長との面談も設定しますが」「早いね。いいでしょう会うぐらいなら」「追って連絡します。おそらくエムソンは乗ってくるはずだ。理由？第六感だよ。といいそうな神庫であった。
暫く経ち、いよいよ明日は沖縄に講演のために出発する日である。夜、食事を終え一段落した後にユイカと裕美を交えて話し合っている。「明日は11時羽田発で行きましょう。那覇には13時50分に到着予定です。空港から会場までは講演には十分間に合う時間に着きますから」「お母さんよかったわね」「嬉しくて今日はきっと眠れないよ」「沖縄はもう夏日のようですから、服装は夏物にしたほうが無難でしょう」「先生、講演が終わったらどうします？」「講演会は何が起こるかわからない。主催者と食事等結構束縛されるんだよ。お二人はホテルに入って、ゆっくり寛いで下さい。観光は日曜日に出かけましょう」「楽しみだわ、ね、お母さん」ユイカはまるで幼児のようである。「今夜はゆっくり休んでください。明日は、9時にここを出ればいいでしょう」ユイカと裕美は入浴を済ませ早めに就寝した。
3月30日3人は9時前にオフィスを出、羽田空港に向かった。10時半には空港に着き、搭乗手続きを済ませ、待合ロビーで待機している。「神庫先生ではないですか？石垣の喜屋武です」「喜屋武さん、お久しぶりです。これからお帰りですか？」「那覇に用事がありましてね。お仕事、観光ですか？」「両方です」「では石垣にも立ち寄ってください」「日曜日に石垣の川平へ行くつもりでした」「そうですか、では車でお迎えに参ります。ここに連絡してください」「ありがとう」「いいえ、先生には助けていただいた御礼もしていないので、せめてこれくらいはさせてください」「ではお言葉に甘えます」喜屋武とは3年前に石垣島の開発に関して仕事を依頼された時に知り合い、喜屋武の会社が危ないということで、銀行交渉をし、リスケに応じて貰っただけに過ぎないことであった。3人は機内に乗り込み、快適な空の旅を満喫している。神庫は飛行機が大の苦手であった。高所恐怖症の気がある。ユイカと裕美は窓から見える景色に歓声を上げている。良い思い出を作ってもらえれば講演会も生きてくる、と感じていた。定刻に那覇に到着し、遅めの昼食をとることにした。「ソーキそばにしましょう。沖縄に来たら一度は食しておかないとね。美味しいですよ」3人はソーキそばを注文した。「美味しいですわ」「本当、美味しいわね」二人の感想である。食べ終わるとアイスコーヒーが来た。「頼んでいないわよね。先生、注文しました？」「沖縄ではね大半のところが食事の後にはドリンクがつくんだよ」「へー、知らなかった」「明日は石垣に行きましょう。喜屋武さんも迎えに来てくれるから」「ご迷惑ではないのですか？」「気心が知れている人です。遠慮すれば気を悪くする人なんです」「石垣に行く予定はあったのですか？」「ええ、ユイカさんに是非見てもらいたい景色があってね。それが川平湾なのですよ。私は始めてその光景を見たとき思わず涙を溢してしまいました。何故だかいまだに分かりませんが、とにかく感動したのを覚えているところなんです。嫌な事、思い出したくない事もすべて飲み込んでくれる、そんな場所です」神庫の話を聞きながらユイカはもう涙腺を緩めている。
3時少し前に会場入りした3人は会場の広さに驚いている。宜野湾コンベンションセンターが会場である。著名なタレントのコンサート会場にもよく使用されているところである。会場を下見してみる3人である。「今日の講演何人集まるのかしら？」ユイカの疑問である。「聞くところによると700名と聞いているが、会場の半分も埋まらないね」「そんなに多くの人の前で話されるのですか？」続いて裕美の疑問である。「1000人の体験が一番多かったです」「先生、ちゃんと原稿用意してあります？」秘書らしい発言である。「原稿は持たないことにしています」「それで4時間も？」ユイカと裕美は驚きの声を上げた。ユイカと裕美の席を確保し、神庫は講師控え室に移動している。会場には続々と聴講生が集まってきている。沖縄の人は新しい情報には貪欲に収集に努める。神庫は何度も沖縄県内で講演を実施してきたが、常に満員で、講演会を追加することもあった。神庫が無名の頃の話である。講演会が始まった。
「皆さん、大変お待たせいたしました。只今より講演会を始めさせていただきます。講師の先生を紹介させていただきます。神庫久先生は1948年、秋田県生まれの65歳であられます。中央大学理工学部工業化学科を卒業後岩谷産業株式会社に入社。27歳のときに経営コンサルタントとして独立され、その後経営救急救命センターを米国デラウエアで設立され、現在はターンアラウンドコンサルタントオフィスの代表であられます。本日はチャームマネジメントが再生の重要ポイントであるを演題としております。それでは神庫先生宜しくお願いいたします。久々の沖縄での講演が始まった。
「キッチンの冷蔵庫の脇に食事表なるボードを掲げておきます。氏名、朝食、昼食、夕食の欄に必要の際には○印を付けてください。必要ない場合は×印をお願いします。毎朝オーダーを確認しますので、消し忘れのないようにしてください。其の侭にしておくと、食事を用意してしまいますのでご注意ください。毎月月末に〆て、翌月5日に集金します。尚5日に出張等で不在の場合は5日前にお支払いください。「給与から天引きできないのかな？」「そうですね、相談してみます」今日の朝食からスタートする。トースト、ハムエッグ、サラダ、コーヒーで200円は朝マック並みの価格である。昼食は牛丼で290円、夕飯はハンバーグ、味噌汁、漬物、筑前煮で450円である。スタッフたちには好評のようである。今朝は神庫も一緒に朝食を食べている。「これで200円はいいよね」隣に座った志賀に声を掛けている。スタッフの栄養管理にもいいことである。
朝食後配達証明郵便が神庫に届いた。イ・ボンミ氏からである。開封してみると、「通告書」とある。
「貴殿は遵守事項に抵触したため、3月10日付で退会を通知します」とある。ユイカの件だなと直に理解した。神庫は良い機会と思い、イ・ボンミ氏に面談を申し入れた。
「神庫さん、ユイカがここを辞めたのは、貴女の差し金だそうですね？」「ええ、当社に来てもらっていますが」「かなり投資した物をそういう形で持っていくのは、損害賠償に値します。まるでユイカはモノ扱いである。
「ユイカさんの意思ですから」話は平行線である。
神庫は話題を変えてみた。「ここを紹介してくれた井川社長にも伝えたほうがよろしいのでしょうか？」「こちらからすでに連絡しております」「井川社長は今、色々と問題を抱えているようなので、要らぬ情報は提供したくないのですが」「何か重要な問題でも？」「コンプライアンスのことも影響がありますので、余り他言はしたくないのですが、帝王が経営的に困っていることはご存知だと思いますが」「井川さん自身が仰っていましたね」「ええ、他社にもその情報が流れているようで、提携話など様々なところからアプローチされています。交通整理で多忙なのです」「あなたはその件に関わっているのですか？」「ええ、多少は」イ・ボンミ氏が乗ってきた。少々はったりが利いたようである。「神庫さん、ビジネスの話をもう少し詳しくお話したいのですが、改めて時間をとっていただけませんか？」「構いませんが」「後日連絡させていただきます」
「ユイカ、シークレット退会させられたよ」「私のせいかしら？」「多分ね。売れっ子を引き抜かれたようなものだから逆鱗に触れたのだろう」「残念なの？私は嬉しいです。先生が他の女性とああいうことをするのは許せないんです。これで安心しました」「ユイカ、イ・ボンミ氏と近々合うことになるのだが一緒に来る気ある？」「いいですよ、きちんとご挨拶もしておきたいですから。それに悪いことをしたわけではありませんから…」「そのときはお願いしますね」井川に連絡を入れてみた。「井川社長、エムソンが日本攻略をさらに強めていくということが韓国から連絡が入りました。帝王としてうまく対処しておくことが重要と考えます。打ち合わせしたいのですが」「分かりました」「ユイカ、君のところで働いているんだって？」「ええ」「とんびに油揚げだな。やることが早い。コンサルタントはそうでなくてはいけないけどね」分けの分からない発言である。
「井川社長、エムソンと交渉する気はありませんか？」「何故？何の交渉ですか？」「マーケットを荒される前に、封じ込めるためです。かなりの資金を用意して日本企業に打診するでしょう。その資金を帝王に落としてもらいましょう」「エムソンの傘下に入れというのか？」「M&Aではありません。提携というのはどうでしょう？100億近くを導入してもらえれば、リストラに力を注ぐことも必要なくなります。さらにエムソンを通じて東南アジアのマーケットも攻めることができると思うのです」「エムソンが話に乗るかな？」「重要人物とはすでに接触しております。近々再度会うことになっています。状況によっては井川社長との面談も設定しますが」「早いね。いいでしょう会うぐらいなら」「追って連絡します。おそらくエムソンは乗ってくるはずだ。理由？第六感だよ。といいそうな神庫であった。
暫く経ち、いよいよ明日は沖縄に講演のために出発する日である。夜、食事を終え一段落した後にユイカと裕美を交えて話し合っている。「明日は11時羽田発で行きましょう。那覇には13時50分に到着予定です。空港から会場までは講演には十分間に合う時間に着きますから」「お母さんよかったわね」「嬉しくて今日はきっと眠れないよ」「沖縄はもう夏日のようですから、服装は夏物にしたほうが無難でしょう」「先生、講演が終わったらどうします？」「講演会は何が起こるかわからない。主催者と食事等結構束縛されるんだよ。お二人はホテルに入って、ゆっくり寛いで下さい。観光は日曜日に出かけましょう」「楽しみだわ、ね、お母さん」ユイカはまるで幼児のようである。「今夜はゆっくり休んでください。明日は、9時にここを出ればいいでしょう」ユイカと裕美は入浴を済ませ早めに就寝した。
3月30日3人は9時前にオフィスを出、羽田空港に向かった。10時半には空港に着き、搭乗手続きを済ませ、待合ロビーで待機している。「神庫先生ではないですか？石垣の喜屋武です」「喜屋武さん、お久しぶりです。これからお帰りですか？」「那覇に用事がありましてね。お仕事、観光ですか？」「両方です」「では石垣にも立ち寄ってください」「日曜日に石垣の川平へ行くつもりでした」「そうですか、では車でお迎えに参ります。ここに連絡してください」「ありがとう」「いいえ、先生には助けていただいた御礼もしていないので、せめてこれくらいはさせてください」「ではお言葉に甘えます」喜屋武とは3年前に石垣島の開発に関して仕事を依頼された時に知り合い、喜屋武の会社が危ないということで、銀行交渉をし、リスケに応じて貰っただけに過ぎないことであった。3人は機内に乗り込み、快適な空の旅を満喫している。神庫は飛行機が大の苦手であった。高所恐怖症の気がある。ユイカと裕美は窓から見える景色に歓声を上げている。良い思い出を作ってもらえれば講演会も生きてくる、と感じていた。定刻に那覇に到着し、遅めの昼食をとることにした。「ソーキそばにしましょう。沖縄に来たら一度は食しておかないとね。美味しいですよ」3人はソーキそばを注文した。「美味しいですわ」「本当、美味しいわね」二人の感想である。食べ終わるとアイスコーヒーが来た。「頼んでいないわよね。先生、注文しました？」「沖縄ではね大半のところが食事の後にはドリンクがつくんだよ」「へー、知らなかった」「明日は石垣に行きましょう。喜屋武さんも迎えに来てくれるから」「ご迷惑ではないのですか？」「気心が知れている人です。遠慮すれば気を悪くする人なんです」「石垣に行く予定はあったのですか？」「ええ、ユイカさんに是非見てもらいたい景色があってね。それが川平湾なのですよ。私は始めてその光景を見たとき思わず涙を溢してしまいました。何故だかいまだに分かりませんが、とにかく感動したのを覚えているところなんです。嫌な事、思い出したくない事もすべて飲み込んでくれる、そんな場所です」神庫の話を聞きながらユイカはもう涙腺を緩めている。
3時少し前に会場入りした3人は会場の広さに驚いている。宜野湾コンベンションセンターが会場である。著名なタレントのコンサート会場にもよく使用されているところである。会場を下見してみる3人である。「今日の講演何人集まるのかしら？」ユイカの疑問である。「聞くところによると700名と聞いているが、会場の半分も埋まらないね」「そんなに多くの人の前で話されるのですか？」続いて裕美の疑問である。「1000人の体験が一番多かったです」「先生、ちゃんと原稿用意してあります？」秘書らしい発言である。「原稿は持たないことにしています」「それで4時間も？」ユイカと裕美は驚きの声を上げた。ユイカと裕美の席を確保し、神庫は講師控え室に移動している。会場には続々と聴講生が集まってきている。沖縄の人は新しい情報には貪欲に収集に努める。神庫は何度も沖縄県内で講演を実施してきたが、常に満員で、講演会を追加することもあった。神庫が無名の頃の話である。講演会が始まった。
「皆さん、大変お待たせいたしました。只今より講演会を始めさせていただきます。講師の先生を紹介させていただきます。神庫久先生は1948年、秋田県生まれの65歳であられます。中央大学理工学部工業化学科を卒業後岩谷産業株式会社に入社。27歳のときに経営コンサルタントとして独立され、その後経営救急救命センターを米国デラウエアで設立され、現在はターンアラウンドコンサルタントオフィスの代表であられます。本日はチャームマネジメントが再生の重要ポイントであるを演題としております。それでは神庫先生宜しくお願いいたします。久々の沖縄での講演が始まった。