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論文)植食性昆虫の共生者による植物防御応答の制御

2013-10-31 05:23:16 | 読んだ論文備忘録

Herbivore exploits orally secreted bacteria to suppress plant defenses
Chung et al.  PNAS (2013) 110:15728-15733.
doi:10.1073/pnas.1308867110

植食性昆虫の多くは微生物の共生者を宿しており、このことによって栄養物やビタミン類を得たり、捕食者や寄生者に対する防御の役割を担わせたりしている。さらに、この共生は植物と昆虫の間の相互作用にも関係している。米国 ペンシルバニア州立大学Felton らは、コロラドハムシ(Leptinotarsa decemlineata )の幼虫が摂食したトマトの葉の食害部には、予め抗生物質の入った人工飼料を与えて育成したコトラドハムシ幼虫による食害部よりも多くの微生物が付着していることを見出した。したがって、コロラドハムシ幼虫は口腔分泌物(OS)に共生している微生物を植物に付着させていることが示唆される。予め幼虫の食害を受けた葉を摂食した一齢幼虫は、抗生物質処理をした幼虫による食害を受けた葉を摂食させた一齢幼虫よりも体重が増加した。無処理幼虫の食害を受けた葉のポリフェノールオキシダーゼ(PPO)活性は、抗生物質処理幼虫の食害を受けた葉よりも低くなっていた。無処理幼虫の食害を受けた葉は、ジャスモン酸(JA)よって誘導されるシステインプロテアーゼインヒビター(CysPI )やポリフェノールオキシダーゼF/B(PPOF/B )の発現量が抗生物質処理幼虫の食害を受けた葉よりも低く、逆に、サリチル酸(SA)処理によって誘導されるpathogenesis-related 1(PR-1P4 ))の発現量が高くなっていた。機械的に傷害を与えたところに無処理幼虫のOSを処理した葉のPPO活性は、傷害部に水処理もしくは抗生物質処理幼虫のOSを処理した葉よりも低く、抗生物質処理幼虫のOS処理と水処理でPPO活性に差は見られなかった。また、傷害部を抗生物質処理しても遺伝子発現やPPO活性に変化は見られなかった。これらの結果から、コロラドハムシ幼虫のOSに含まれる微生物は植物の虫害防御を抑制していることが示唆される。無処理幼虫の食害を受けた葉は、抗生物質処理幼虫の食害を受けた葉よりも、cis-JA含量が低く、SA含量が高くなっていた。SA欠損NahG 変異体は、無処理幼虫の食害を受けても防御遺伝子の発現抑制やPPO活性の低下が起こらなかった。したがって、JAシグナルとSAシグナルとの間の負のクロストークが防御応答の抑制に関与していると考えられる。コロラドハムシのOSに含まれる真菌類(カビ)と細菌類(バクテリア)のどちらが植物の防御応答を抑制しているかを確かめるために、抗バクテリア剤や抗カビ剤をを与えた幼虫の食害を受けた葉のPPO活性を見たところ、無処理幼虫や抗カビ剤を与えた幼虫の食害を受けた葉は、抗バクテリア剤を与えた幼虫や抗カビ剤と抗バクテリア剤を同時に与えた幼虫の食害を受けた葉よりもPPO活性が低下していた。したがって、JAに応答した防御応答の抑制には、OSに含まれる細菌が関与していると考えられる。無処理幼虫のOSからは22種類の細菌が検出され、このうち3種類はPPO活性を抑制させた。この3種類の細菌は、ステノトロホモナス属、シュードモナス属、 エンテロバクター属の菌であり、PPO活性の抑制を起こさない菌は、ラオウルテラ属の一種、シュードモナス属の一種、腸内細菌科の菌であった。PPO活性を抑制する細菌による防御応答抑制は、一定の閾値を越えると菌量に応じて抑制効果を示したが、抑制効果を示さない細菌は葉へ処理する菌量を高めてもPPO活性の低下を起こさなかった。PPO活性を抑制するシュードモナス属菌を処理した傷害葉は、CysPIPPOF の発現量が無処理傷害葉よりも低く、PR-1P4 )の発現量は高くなっていた。PPO活性を抑制する細菌を混合して処理しても、相助作用、拮抗作用、相加作用は見られず、全ての組合せでPPO活性の低下が起こった。したがって、これらの細菌のうち1種類でもOSに含まれていれば防御応答の抑制が起こると考えられる。防御応答を抑制する細菌は抗生物質処理によって増殖が抑制され、無処理幼虫内のシュードモナス属の菌量は抗生物質処理幼虫よりも多くなっていた。また、抗生物質処理した幼虫にPPO活性を抑制する細菌を再感染させて摂食させると、防御応答の抑制が起こった。よって、PPO活性を抑制する細菌は、OSを介して葉の傷害部に供給されると考えられる。PPO活性を抑制するシュードモナス菌より精製したフラジェリンを傷害部に処理するとPPO活性の低下が起こることから、防御応答の抑制にはフラジェリンが関与していると考えられる。以上の結果から、コロラドハムシ幼虫の口腔分泌部内に共生している微生物は、摂食の際に植物組織に分泌され、JAシグナルとSAシグナルの負のクロストークを引き起こして防御応答の誘導を抑制していることが示唆され、コロラドハムシ幼虫は植物のシグナル伝達経路を操作して自らの成長にとって有利な状況を作り出していると考えられる。

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