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植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)アブシジン酸による二次細胞壁の肥厚

2021-02-26 05:57:38 | 読んだ論文備忘録

Abscisic acid regulates secondary cell-wall formation and lignin deposition in Arabidopsis thaliana through phosphorylation of NST1
Liu et al.  PNAS (2021) 118:e2010911118.

doi:10.1073/pnas.2010911118

二次細胞壁(SCW)の沈着はストレスに応答した過程であり、様々な外部要因(日長、温度)や内部要因(植物ホルモン)および両者の相互作用によって制御されている。アブシジン酸(ABA)はSCW形成に関与していることが知られているが、その詳細は明らかではない。米国 ノース・テキサス大学のDixon らは、Arabidopsis eFP Browserから、維管束組織が豊富でSCWが肥厚するシロイヌナズナ花序茎第二節間ではABA生合成に関与しているABA2 、ABAシグナル伝達に関与しているSnRK2.2SnRK2.6 の転写産物が高蓄積していることを見出した。そこで、aba2 変異体、snrk2.2/3/6 三重変異体のSCWを調査したところ、これらの変異体では木部導管や木部繊維のSCW沈着や木化が低下して細胞壁が薄くなり、リグニン、結晶セルロース、キシロースの含量が減少していることが判った。したがって、ABAの生合成とシグナル伝達の障害はSCWの沈着と組成に変化をもたらすと考えられる。aba2 変異体では、SCWに関連する13の遺伝子の転写産物量が減少しており、snrk2.2/3/6 三重変異体においても減少傾向が見られたが、一部の遺伝子(SND1CesA4CesA7 )は転写産物量が増加していた。ABA生合成の律速酵素をコードするNCED を過剰発現させた形質転換体は、SCWに変化は見られなかったが、SCW関連遺伝子の発現量は増加していた。このことから、ABAを介したSCW沈着制御には転写後調節機構が関与していることが示唆される。そこで、SnRK2によってリン酸化されるターゲットを探索したところ、以前にSCW生合成を制御するNACファミリー転写因子として見出されたNAC SECONDARY WALL THICKENING PROMOTING FACTOR 1(NST1)のSer-316がSnRK2.2/3/6によってリン酸化されることが判明した。NST1とSECONDARY WALL-ASSOCIATED NAC DOMAIN 1(SND1)は機能重複しており、T-DNA挿入により両者が機能喪失したnst1/snd1 二重変異体は茎が枝垂れてしまうが、NST1 を発現させることで表現型が回復した。しかし、NST1(S316A)を発現させても表現型は回復しなかった。したがって、NST1はSCWの肥厚を正に制御していると考えられる。NST1はMYB46MYB83NST1 のプロモーター領域に結合して発現を活性化するが、snrk2.2/3/6 変異体やNST1(S316A)を発現させた個体ではこれらの遺伝子の発現活性化が低下していた。NST1が発現制御しているMYB46PAL4 の発現はABA処理によって増加するが、snrk2.2/3/6 変異体では増加は見られなくなり、nst1/snd1 二重変異体では増加が低減した。NST1 を発現させたnst1/snd1 二重変異体はABA処理によるMYB46PAL4 の発現誘導が野生型と同等にまで回復したが、NST1(S316A)の発現では回復は見られなかった。したがって、SnRK2.2/3/6によるリン酸化を介したNST1の活性化はABAシグナルと関連していることが示唆される。NST1のリン酸化部位は双子葉植物において保存されていた。以上の結果から、植物はアブシジン酸シグナルの正の制御因子のSnRK2を介して二次細胞壁形成のマスタースイッチであるNST1をリン酸化/活性化して細胞壁を肥厚させることで乾燥耐性を獲得していると考えられる。

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